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4. 深まる家族の溝

 ラウラが亡くなってからというもの、家庭の雰囲気は最悪だった。

 父子の会話は最低限のもので、食事の時も無言で済ませることは少なくない。


 マティスは仕事にさらに没頭し、あのことを一秒でも長く忘れられるように努めていた。

 一方のナタンも魔術に関する勉強に打ち込んで、家事もすべて請け負っていた。

 そんな気まずい毎日が、グエゴワール家では続いていた。




 数ヶ月後、夕飯の片付け中マティスに呼び止められた。

 かなり真剣な話の様子だった。

 仕方なくキリのいいところで手を止め、促されるままに彼の前に座った。


「お前、来年12になるだろ?

 だから、学校のことで話がある」


 通常、多くの子は学校に通わず両親や家庭教師のもとで教養を身につける。

 だが12歳になった年の春に、更に勉強するために皆学校へ行くのだ。

 学校は幅広くいろんなことを学べる所もあれば、魔術などの専門的な所もある。


 だからナタンは、来年の春には魔術学校へ行くものだと思い込んでいた。



 しかし、父からは想像もしていない話が飛び出した。


「お前は来年から、軍学校に通うんだ」


「……えっ?」


 冗談かと思い、ナタンは父の顔をまじまじと見た。

 彼はナタンをじっと見つめ、瞬きを殆どしていない。

 どうやら本気のようだ。


「本当は魔術学校に通わせたいんだが、お金が殆ど無いんだ。

 普通の学校すらも厳しくてな、軍学校しか選択肢がないんだ」


 ナタンは開いた口が塞がらなかった。

 やがて拒絶するように首を大きく横に振った。


「……僕、運動できないよ?

 体力も全然ないし、そんな厳しいところでやっていけないよ!」


 しかしマティスは何も反応しなかった。

 まるで拒否権はないと言わんばかりに。

 ナタンは思いっきりテーブルを叩き、勢いよく立ち上がった。


「もう僕は自力で魔法陣を書けるんだよ!

 これ以上勉強しなくったって、父さんの仕事を受け継げる!

 そんなところに行くくらいなら、学校なんか嫌だ!」


「馬鹿っ!!」


 マティスは怒り任せにナタンの頬を平手打ちした。

 彼の左頬は赤く膨れ上がり、かなり痛々しかった。


「グレゴワール家たるもの、絶対に学校で高い教養を身に着けないとダメだ!

 お前の学費を掻き集めるのに、どれだけ苦労したと思っている!?

 軍学校さえ、母さんの薬代が浮かなかったら――」


 そこでマティスは口を噤んだ。

 流石に失言だったと思ったようで、下を向いてしまった。

 しかし言いかけたその言葉は、ナタンの堪忍袋を切るのに十分すぎた。


「――っ!!」


 ナタンは唇を震わせた。

 感情のままにマティスを罵倒したい気持ちでいっぱいだった。

 だが頭から言葉が大量に溢れ出て、口に出すのが間に合わない。

 「フーッ、フーッ」と呼吸も荒くなり、怒りでどうにかなりそうなのを必死で抑え込んだ。



 ナタンは結局、荒々しくドアを壁にぶつけて部屋を出てしまった。


「ナタン!」


 マティスが呼び掛けるも、ナタンは戻ってこない。

 情けない父親は、その場で項垂れて行き場のない感情に苦しむしかなかった。

 ラウラの薬代で火を噴いていた時よりも、悔しくて仕方がなかった。



 この家では暫くさらに重苦しい空気が充満し、会話と呼べるものは出なかった。

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