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1. グレゴワール家

 魔導書職人の一家、グレゴワール家。


 8代目の当主マティスは、頭を抱えながら細かい魔法陣を描いていた。

 少しの手振れも許されない作業中、柱時計が夕方の5時を告げた。


「……もう店仕舞いの時間か」


 マティスはゆっくりと立ち上がり、店の扉に鍵をかけた。

 同時に、店の奥から一人の少年が嬉しそうに走り寄ってくる。


「父さん! 見て見て!

 今日やっと、魔法陣が書き上がったよ!」


 そう言って一人息子のナタンは、マティスに描いた魔法陣を見せた。


「おっ! 凄いじゃないか!

 この年でこんな複雑なものを書けるなんてな!

 俺が初めて完成させたのは20歳の時だぞ?」


「えへへっ」


 マティスは10歳息子の頭をくしゃくしゃに撫で、自分のことのように喜んだ。



 ナタンはある時、マティスの魔導書作りをじっと眺めていた。

 試しに基礎を教えると、信じられない早さで全て吸収してしまった。


 以降、ナタンは父親が持つ専門書を読み始めた。

 時には邪魔にならない範囲で仕事中の彼をじっくりと観察する。

 そんな毎日を過ごしていたため、彼はこの歳で陣を描いてしまったのだ。



 マティスはナタンの書いた魔法陣をじっくりと眺めた。


「……風魔術か。

 じゃあ試しに魔力を注いでご覧」


 ナタンは大きく頷くと、魔法陣を書いた紙を床においた。

 そして唸りながら、全神経を集中させて魔力を注ぐ。


 すると魔法陣は赤く光った。

 やがて小さな竜巻が陣の上に現れ、徐々に大きくなっていく。

 周りの書類や小物が少しずつ揺れ始め、ナタンの目に鮮やかな光が差し込む。


 しかし途中で、ポンッと音を立てて竜巻は消えてしまった。


「あ、あれ……?」


 ナタンはあたふたし始めた。

 自信作だったのに、どうして失敗したのか分からない様子。

 不安になって、思わず目を潤ませ始めた。



 マティスがそんな彼の背中をさすった。

 やがてルーペを取り出し、魔法陣をじっくりと観察し始める。

 その父の姿を、ナタンは眩しそうに見つめていた。


「……あぁ、ここの線だな。

 手振れで少しブレているせいで、正常に発動しなかったんだな。

 でも本来なら何年も鍛錬が必要なのに、この歳でここまで描けるのは凄いことだ!

 後は線を綺麗に書く練習すれば問題なしだな!」


 マティスはやさしくナタンの頭を撫でた。

 小さな息子は悔しそうに涙を浮かべている。

 だが父の優しい笑顔を見て、力強く「うん!」と頷いた。




 そんな中、奥から彼の母親が顔を出した。


「あら、にぎやかだと思って来てみたら……

 またお父さんに色々教わっていたの?

 だったら私も混ぜてくれないかしら?」


 彼女がそう言ってほほ笑むと、ナタンは母さんと呼んで思いっきり抱き着いた。

 彼女はそんな息子を、優しく抱きしめる。


「ラウラ、体は平気なのか?

 無理せず横になってた方がいい」


「ふふっ、大丈夫よ。

 今日は体調がすごくいいの。

 さっき庭でお花を眺めていたんだけど、それでも全然疲れていないわ」


 ラウラは心配そうに見つめるマティスの頬をそっと撫でた。

 彼もそれに答えるように、不器用に笑いながら彼女の手を握った。



 ラウラは不治の病に罹っていた。

 発病は、ナタンが5歳の頃だ。

 医者が治療は不可能であると告げられた時、マティスは頭が真っ白になった。


 その日以降ラウラはベッドにいることが多くなった。

 だが、温かい笑顔を絶やすことはなかった。

 元気な時は、今日のように歩き回ることもあった。


 彼女のためにも、マティスは薬代を稼ごうとさらに仕事に励んだ。

 その分ナタンは、両親の代わりに家事をしたり母親の看病をする。

 そうやってグレゴワール家は全員で支えあっていたのだ。


「今日は本当に調子がいいから、久しぶりにホワイトシチューを作ろうかしら?」


 ナタンは目を輝かせた。


「わぁ! 僕、母さんのシチュー大好き!

 作るの手伝うよ!」


「あら、ナタンは本当に賢い子ね」


 ナタンが嬉しそうにぴょんぴょん跳ねるのを、両親はクスクスと笑った。

 例え家の状況が厳しくても、明るい彼のおかげで雰囲気はとてもよかった。



 マティスは自分の仕事机に目をやった。

 今日は片手で数えられるほどの依頼を片しただけで、一日が終わってしまった。

 まだ期限の近いものがいくつもあるのに、真っ白な大量の羊皮紙が詰まれている。

 どうやら今日も残業しないといけないらしい。


 でも、仕事は食事の後でも問題ないだろう。


「俺もきりがいいところまで終わったら手伝うよ」


「ふふっ、首を長くして待っているわ」


 そうしてその日は、とても楽しい夜をみんなで過ごすことになった。

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