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元陸自のアラサーが貞操逆転異世界に飛ばされて色んなヒロインに狙われる話  作者: ArtificialLine


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8/19

Act4_現代火器とお姫様

/朝霞日夏

8月18日 10:39 ミスティア王国東部朝霞の弾薬庫 


 ベネディクテとオイフェミアが、ACR(アサルトライフル)M82A1アンチマテリアルライフルに囲まれてコーヒーを飲んでいる。

 金髪と白髪、甲冑姿の美少女2人が現代火器の中で談笑する光景は、どこか非現実的だった。


 ベネディクテの提案で傭兵として活動していく方針を決めた後、その仔細についてしばらく話し合っていた。

 どうやらこの弾薬庫に存在している銃は俺以外には扱えない様になっているらしい。オイフェミアは封印魔術がどうだとかいっていたが、正直原因が俺にわかるはずもなかった。今までの俺にとって、魔術なんてものは映画や漫画などの創作世界だけのものである。その原理やら詳細なんかを知るはずもない。


 まあ一番重大な発見だったのは、この世界で銃に触れることができるのは俺だけだということだろう。


 正直、何故?という疑問が先行するが、精神衛生上そのほうが良いのは間違いない。

 最悪銃の技術を奪うために斬り捨てられる可能性も考慮していたのだ。

 しかし使えないだけではなく、そもそも触れられないのであれば、その未来が訪れる可能性は限りなく低くなる。


 だが騙しているような感覚に苛まれる。

 俺は一介の歩兵に過ぎない。選抜射手(マークスマン)に抜擢される程度には射撃の腕はあるが、それだけだ。

 身体能力では人間を逸脱した相手に太刀打ちできない。 

 実際俺がこの世界に転移した直接の原因である戦車に殺られた様に、死ぬときはあっさりと死ぬ。


 しかし困ったことに、周囲の俺への評価は違うらしい。俺自身の自己評価としては上記の通りなのだが、昨夜の出来事が彼女達の認識を歪めているようだった。


 その最たる原因が、昨夜撃退したあの黒い甲冑の人物。

 あの人物の名前はケティ・ノルデリアというらしい。

 ベネディクテ達ミスティア王国と昨夜交戦をしていた勢力はフェリザリア王国というのだそうだ。そして件のノルデリアはその国きっての大英雄らしい。


 まあそれはそうであろう。というかそうであってくれてよかった。

 あんな瞬間移動にも思える無茶苦茶な機動をしていた人物が唯の一般兵ならば、何をする暇もなく殺される。


 オイフェミアに聞かされた話から推測するに、そのノルデリアは戦略兵器級の扱いを受けているようである。そんな人物を撃退してしまったのだ。周囲からのハードルが上がるのは致し方ない。致し方ないが、勘弁してほしい。


 ベネディクテとオイフェミアと卓を囲んで2時間以上が経つ。

 17歳と16歳。俺と一回り以上離れた少女たちが、貴族としての責務を果たしている姿は、俺の学生時代とは比べ物にならない。

 子供扱いすること自体が傲慢なのだろう。


 2時間の会話の中で俺たち3人はミスティアについてや地球についての情報交換をした。


 俺にとっても彼女達にとっても様々な驚きがあった時間だったのだが、彼女たちは地図まで広げて説明してくれた。

 中世基準では軍事機密に等しい代物だ。それを躊躇なく見せてくれるということは、完全に信頼されているのだろう。

 それはオイフェミアの能力のおかげだろうか。


 地図を見せてもらった限り、地形は地球のヨーロッパとかなり似ている。

 そしてこのミスティアという国が位置しているのは、現代のベネルクスからドイツ周辺。ドイツ語を用いているのは、それが原因なのだろうか。

 

「とまあ我が国を取り巻く状況はこんな感じだ」


 ベネディクテはそう言って卓上に置かれたコーヒーに口を付けた。


 2時間の会話で、この世界の輪郭が見えてきた。

 文明レベルは15世紀ヨーロッパ程度。ただし魔術が存在するため、部分的には地球を超えている。

 そしてベネディクテはこのミスティアという国の第一王女。

 オイフェミアは国で最大勢力を持つアルムクヴィスト公爵家の長女。


 しかしこの世界の特有の事象についての把握はまだ曖昧だ。補足説明を求めるように言葉を発する。


 「そういえば、深淵(アビス)ってのは何なんだ? さっき説明してくれたが、もう少し詳しく聞きたい」


「ああ、深淵か。異界とでも言うべき空間だな。そこから魔神という敵対存在が湧き出してくる」


「魔神?」


「我々とは別の異界からの侵攻者だ。放置すれば深淵は拡大し、領土を飲み込んでいく」


「深淵ってのは、どのくらいの頻度で発生するんだ?」


「正確な統計はありませんが……大規模なものは年に数カ所、でしょうか。小規模なものを含めると、とても把握しきれません」


 オイフェミアが答える。


「それが放置すると拡大していくのか」


「ええ。ミスティアでは北側の貴族を中心に対処しています。ですがただでさえ北方魔物部族連合への防衛戦線もありますし……」


「今回のフェリザリア侵攻で3つ目の戦線、か」


 ベネディクテが苦い表情を浮かべた。


「そうなのです。我が国の総人口200万で3つの戦線は……正直厳しいですね」


「200万か。確かに東京都の人口の7分の1程度で3正面はしんどいな」


「トウキョウト?」


「俺の国の首都だ。人口は1400万人くらい」


「……1400万!?」


 オイフェミアが目を見開く。


「ああ。まあ俺の世界の総人口は80億人くらいだからな」


「はちじゅう……おく……」


 ベネディクテが呆然としている。


 人口密度の違いに2人とも驚いているようだ。まあ、この世界には深淵や魔物がいる。人口が増えにくいのは当然だろう。


「ところで、逸脱者ってのは何人くらいいるんだ?」


「ミスティアにはオイフェミアを含めて3人だな。私の把握している範囲——周辺諸国を含めても十数人程度だ」


「世界全体だとどんなもんだ?」


「人族全体で30人程度ではないか。遠方の地域の情報は曖昧だからな、正確には分からん。ただし魔族や魔神にも同等の存在がいる。その数は……判別つかんな」


「なるほどね。逸脱者っていうのの強さはなんとなくわかる。オイフェミアや昨夜の黒い甲冑の……ノルデリアだっけか?2人の戦いを見ていたからな。ただ他とどの程度の差があるのか、正直掴みきれていない」


 ベネディクテが少し考えるような仕草をした後、口を開く。


「そうだな……私たちの間には強さを示す指標がある。上から逸脱者、上位者、英傑者、熟練者、一般者だ」


「格闘技の階級みたいなものか」


「似ているな。ただしこれは技量ではなく、純粋な性能の指標だ」


「性能?」


「ああ。例えば私は上位者に分類される。通常戦力相手なら一騎当千だが、逸脱者相手では……正直厳しい」


「それはなんでなんだ?」


 オイフェミアが俺の疑問に答えるように口を開く。


「簡単に言えば、魔力量の違いです。逸脱者と上位者の最も大きな違いは保有魔力量。特に継戦能力に筆舌し難い差があります」


「なるほど。じゃあ俺はどの階級に分類されると思う?」


「アサカの身体能力はまだ把握しきれていないが……魔力の量を考えれば、精々が熟練者程度だろうな」


 率直な評価に苦笑が溢れる。まあ俺の自己評価とも乖離はない。

 ベネディクテがそう言った後、笑みを浮かべる。


「とはいえ銃という武器を含めれば話は別だ。準備と状況次第で逸脱者をも退けられる。昨夜のように、な」


「まあそれは奇襲前提だな」


 やはりと言うべきかなんというか、地球とはあらゆることが異なっていた。だがすんなりとそれらを現実の事として飲み込めるのはサブカル好きの日本人だからだろうか。


 オタク文化というもの存外馬鹿にできない。まさかこんな所で役立つとは露にも思っていなかったが。


 特に好奇心を惹かれたのは"逸脱者"と呼ばれる存在についてだ。単騎戦略級戦力というのは文字だけで男心を擽る。できることなら敵対はしたくないが。


 地球にもハンス・ウルリッヒ・ルーデルやシモ・ヘイヘのような超人は存在した。

 関羽や張飛、チンギス・ハーンなどもそういったものと同類だろう。


 世界は違えども、常識を超えた力を持つ個人は存在するということだろうか。

 そう考えれば、自分の扱いがそれらと同等に認識されてそうな現状に薄ら寒気を覚える。オイフェミアやノルデリアを自身の知識に存在した超人たちと置き換えると尚更だ。


 射撃の腕に自信はある。しかし流石にシモ・ヘイヘを超えられると思うほど自惚れてはいない。かの超人は圧倒的劣勢であった冬戦争でキルスコア505人を叩き出しているのだ。

 冬戦争というのは第二次世界大戦期に起きたフィンランドとソビエト連邦間で勃発した戦争のことである。その時の戦力比は歩兵だけでも1:4。機甲戦力や航空機を含めれば更に大きく広がる。


 どう考えても俺がそんな存在と同列だとは思えない。謙遜でも何でもなくそう思うのだ。


「他に気になることはあるか?」


 ベネディクテはそう言って卓上に置かれたコーヒーに口を付けた。

 このコーヒーセット一式は、詳しい話を聞く前に淹れたものである。

 オイフェミアが探知系の魔術を使って発見してくれた。なんとも魔術とは便利なものだ。倉庫全体をひっくり返えして探すつもりだったが、その手間が省けた。


 初めはオイフェミアもベネディクテも訝しんでいたが、どうやら気に入って貰えたようである。何処の誰が持ち込んだのか解らないが、シュガースティックやミルクなども大量にあって助かった。


「いや今のところは十分だ。説明ありがとう。改めて2人が雲の上の存在だと言うことが認識できた」


「別にそんな事は……雲の上とまではいきませんよ。ですが気にしないでください。私もベネディクテもまずはアサカの友人になりたいのです」


 オイフェミアはいたずらっぽく微笑みながらそう言い、コーヒーを口に運んだ。芸術作品の様な容姿だと、それだけで映画の一コマのようだった。このまま録画してコーヒーのCMとしてもなんら問題が無いくらいだろう。


 オイフェミアは大の甘党の様で、シュガーを4本も入れている。もはやシロップの様だが、本人が満足ならいい。


 対するベネディクテはあまり甘いものを好まないようだ。曰く『無駄な肉が付く』かららしい。

 武人気質というべきか、俺が想像していたお姫様像とはかなり違う性格をしていた。まあしかしそのほうが接しやすい。


「アサカは元々どの様な兵種だったのだ?全員が銃を持っているとしても、役回りはそれぞれ異なるのだろう?」


「国の兵士として従事していた時代は空挺兵。落下傘(パラシュート)って呼ばれる降下用の装備を身に着けて空から強襲する部隊の所属だった」


「空からですか!?やはり私達の常識とは異なりますね……」


「ああ。この世界にも空騎兵と呼ばれる兵科は存在しているが、あれは飛行可能な幻獣やら魔物を運用する騎兵だからな。そういったものとは違うのだろう?」


「その通り。巨大なドラゴンなどに兵士を満載した箱を持たせて敵の後方とかに展開させるのを想像すればわかりやすいかな?」


「なるほど合点がいった。悪魔的な戦術だな」


 陸上自衛隊時代を思い出す。思えば、あの頃から随分と変わった。自分も、環境も、そして世界まで。

 元々俺が自衛隊に入隊したのは、誰かを守りたいとか安定した職に付きたいとかそういう理由からではなかった。

 幼い頃からシステマ(ロシアの軍事格闘)を習い事として学んでいたので、それを今後の人生に活かせればという短絡的な理由でしかない。


 まあその結果が、日本から逃げ出して会社員上に世界各地の戦場を渡り歩き、最終的には別世界に流れ着いているのだから笑うしか無い。


「国の兵士を引退した後はC.C.CっていうPMSC(民間軍事企業)、多国籍傭兵組合みたいなものに所属したんだけど、そこでは機械化歩兵だったよ。選抜射手(マークスマン)を務めていた」


選抜射手(マークスマン)……要するに精鋭ってことですよね?」


「まあ……」


「やはりそうか。お前の世界の兵士は皆昨夜の様な狙撃ができるのかと勘違いしそうになったぞ。謙遜は誤解を生みかねない、もっと自身の業には自身を持て」


「いや別に謙遜ではない。本職の狙撃手(スナイパー)連中なら、そもそもベネディクテが騎兵に肉薄されることもなかったかもしれない」


「それはアサカの世界での話であろう?この私達の世界で、そんなことができるのはほとんどおらん」


 ベネディクテは悪戯に笑いながらそう言った。俺は苦笑いしながら頭を掻く。

 まあ彼女の言うことは最もだろう。むしろ歩兵用の長距離武器がロングボウの世界で、あんなことできるやつがそうそういてたまるか、というのが正直な感想だ。

 ……というかいるにはいるのか。末恐ろしい。


 オイフェミアが言っていたことだが、一般の魔術師が運用する攻撃魔術の最大射程は、精々が300m程度なのだそうだ。

 集団や、特別な触媒、超長文詠唱であればそれよりも効果範囲を拡大させることは可能らしいが、銃のような取り回しの良さは皆無らしい。とはいえ、逸脱者や上位者であれば更に射程や威力が上の魔術の行使も可能だそうだ。


「ありがとう、ベネディクテ」


「ふふ、構わん。因みに言っておくが、オイフェミアでさえあの距離の狙撃はできんぞ。その場合は狙撃というか、着弾地点を消し飛ばす砲撃になる」


「そのほうが凄いじゃないか……」


 ベネディクテは心底楽しそうな笑みを浮かべ言葉を発する。

 何がそんなに愉快なのか俺には判断つきかねるが、ベネディクテほどの美少女の笑顔を見られるので役得だろうか。


 オイフェミアはと言えば、カップで口元を隠しながらジト目をしている。

 思うところはあるのだろうが反論しない以上事実なのだろうか。


「ところで傭兵とはいっていたが、具体的にどうするつもりなんだ?」


 話題転換も兼ねて疑問に思っていた事を問いかける。

 中世ヨーロッパ基準で考えるのならば傭兵というのは馴染み深いものである。有名なものは15世紀~18世紀のスイス傭兵や、ドイツのランツクネヒト、アメリカ独立戦争時のヘシアンだろうか。


「王族たる私の直属としてしまっては、やっかみなど色々な面倒が生じるだろう。だから表向きはオイフェミアの家が雇った傭兵しようと思っている」


「私の家、アルムクヴィスト公爵家は傭兵を重用しています。内外にも説明が通しやすいと思いますよ」


「了解した。仕事の内容はどんなものになるかわかるか?できれば自活したいと思っているんだが」


 女性に養われるというのは、ちっぽけなプライドが許しそうにもない。

 仕事を斡旋してもらう時点で、そんなことは今更なのではないか、と思わなくもないが、せめてもの意地である。


「私やオイフェミアの軍役への同行や盗賊退治、あとは北方の魔物共の駆除などが主な仕事になるだろう。正直な話、お前の実力を見てしまったからには公人として遊ばせておくなぞ論外だからな。報酬は内容にも依るが、相場を下回る事はないだろう」


「ありがたい。この右も左も分からない世界で1人で生きていくのは厳しいだろうからな。まあできることはそう多くないだろうが、上手く使ってくれ」


 結果論とはいえ、あの時戦闘に介入する決断を下したのは大正解だっただろう。

 こんな事になると想定はしていなかったが、強力な後ろ盾が得られたことは素直に喜ばしい。

 元々合理的な理由よりも、個人的な感情で戦闘に参加したのだ。彼女達が俺を戦力として利用しようがなんとも思わない。


 寧ろこんな怪しい異世界人に仕事を与えてくれて感謝しかないのだ。どの道選択肢は存在しない。であれば最良の未来のために邁進するのみである。


「ふふ、勿論だ。まあ、しかしこの後面倒事に巻き込むことにはなるかもしれない」


「面倒事?」


 ベネディクテの顔から笑みが失せ、心底面倒くさそうな表情になる。それはオイフェミアも同じだった。


「ええ。今回の戦闘は国家間の衝突ですからね。女王陛下や貴族へとその仔細を報告せねばなりません。その過程でアサカの事は必ず話すことになるでしょう」


「ああ、それは理解しているよ」


「つまりはノルデリアを退けた存在としてアサカを伝えることになるわけだ。当然そんな武功を上げた者を放置することなぞできるわけもない。要するに貴族共に認知されることになる」


 なるほど。話が見えてきた。つまりは逸脱者ノルデリアを退けた謎の男傭兵として貴族社会に広まるというわけだ。

 滅茶苦茶面倒くさいことが容易に想像できる。絶対に変な尾ひれがついて話が膨れるだろう。もしくは腫れ物扱いのどちらかだ。


「実を言えばノルデリアを退けたのはオイフェミアだとして、お前の事は公的に伏せておく事も考えたのだ。しかし既に500人近い人間がお前の事を認知してしまっている。箝口令発布するにしても、その時点で何かを隠してますと触れ回るようなものだ。故にそれもできん」


「その通りだな。すまん、迷惑をかける」


 深々と頭を下げる。忙しいだろうに余計な仕事を増やしてしまった。こればっかりは、後々の働きで清算するとしよう。


「何故謝る?別に構わんさ。アサカ、お前は私達にとっての命の恩人なのだ。そんなに下手に出るな。頭を下げられては立つ瀬がない」


「そうですよアサカ。確かに面倒ですけども、それをするだけのメリットがあります。貴方は私達の後ろ盾を得られて、私達は逸脱者すら退けた貴方という戦力を確保できる。まさにWin-Winという関係でしょう?」


 実利は勿論、心情としても彼女達に協力することは無論吝かではない。

 自分の弱点だとはつくづく理解しているが、一度言葉を交わした相手には、それなり以上の礼節を尽くしたくなる性分なのだ。


「2人とも感謝する」


 顔に自然と微笑みが浮かんだ。それをみてベネディクテとオイフェミアの顔にも笑顔が浮かぶ。


「ところでアサカ。お前がこの世界に着た原因について心当たりはないのか?」


 ベネディクテがカップを置き、問いかけてくる。

 心当たり、心当たりか……。あの時違和感を感じた事はなんだろうか?

 まず最初に思いつくのは、所詮ゲリラであった筈の民兵共が西側の最新装備を身に着けていた事。

 次にロシアの現行主力戦車たるT-90が現れたこと。間違いなく第三勢力の関与があったに違いない。


 だがそれが異世界に転移する理由かと言えば疑問が募る。


 他に何か……いやあるじゃないか。最大の謎が。


「――そう言えば。あれなにかわかるか?」


 弾薬庫の中央に鎮座する巨大なルビーの様な物体。明らかな異物がそれである。

 丁度この位置からは死角になっている為、彼女達の彼女達の視界には入っていなかった謎の塊。


 ベネディクテとオイフェミアに手招きをする。俺には一体何なのか分からないが、彼女達であれば知っているかもしれない。

 怪訝そうな顔をしながら2人は付いてくる。そして彼女達の視界に巨大なルビーが入った途端、驚愕がその顔には浮かんでいた。


「"深淵の核(アビスコア)"ですねこれ……」


 オイフェミアがその物体を見て呟いた。全く耳馴染みのない単語である。


「深淵の核?それはどういうものなんだ?」


 ベネディクテは額に手を当てながらその問いに応えてくれる。ため息が聞こえてきた。


「この世界には魔神という異世界よりの侵攻者が湧き出る深淵と呼ばれる異界が形成されることが多々ある、という話はしたな。その深淵についてはほとんどのことが解っていないが、この深淵の核を中心として形成される事が確認されているんだ。なるほど、お前がこちらの世界に着た理由には合点がいった」


「間違いなくこれのせいですよ。この建物の物に封印がかかっている事にも納得がいきました。多分一回深淵化した空間に取り込まれたせいでしょうね……。ということはその封印はアビスカースの類……。封印の無力化は無理ですね……」


 なるほど、この巨大ルビーが俺を転移させた原因だったか。

 いや、なんでそんな物が弾薬庫の中に当たり前の様に鎮座しているのだ。全く意味がわからない。


「……とりあえずこれどうしたら良いだろうか?近づこうとすると、物凄い嫌な感覚がするんだよな」


「今は不活性化しているようなので危険は無いでしょう。転移の際に魔力を使い切ったのでしょうね。砕けば高値で取引される素材になりますが、帰還できる手がかりにもなるかもしれません。ベネディクテはどう思います?」


「私はオイフェミア程、深淵関係への造詣は深くない。とはいえアサカの境遇に関するものなのだ。現状危険が無いのであればアサカ自身が決めるといいだろう」


 そんなこと言われても困るというのが本音である。深淵やら深淵の核やら言われてもふわっとしか理解できない。


 だが帰還の手がかりになるのかもしれないのであれば保管しておくべきだろう。生憎とやり残してきた事も後悔も多い。戻れるならばその可能性は模索していきたいと思っている。

 正直、近づくだけで拒否感を感じる物体と寝食を共にしたくはないが。


「じゃあこのまま保管しておくことにする。まあ、なんだ。正直意味がわからないが、これが原因だと分かってスッキリとした」


 半ば投げやりになりつつ、この問題はとりあえず後回しにすることに決定した。

 ベネディクテも深淵について殆どのことが解っていないと言っていたし、今調べてどうにかなる物だとも思わない。


「とりあえず、この弾薬庫周辺はこの地域を治めている貴族から私の歳費で買い取る事にしよう。アサカも知らん連中がここに訪れるのは好ましくないであろう?」


「それに関しては感謝しかない……だけど良いのか?」


「構わん。寧ろお前に動いてほしい時に余計な厄介事が発生しては敵わんからな」


 ベネディクテに感謝しつつ、俺たちは卓へと戻ることにする。日が上がってきて熱気が込めてきた。

 アゼルバイジャンで作戦行動中だった時からシャワーを浴びていない。水浴びでもしたい気分だ。


 ともかく二日目の異世界生活は大きな収穫が多数あった。

 そう言えば間もなく昼時かと考えつつ、時間は過ぎていくのだった。

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