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元陸自のアラサーが貞操逆転異世界に飛ばされて色んなヒロインに狙われる話  作者: ArtificialLine


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Act7-4_襲撃

/朝霞日夏

8月20日 14:54 ミスティア王国王都王城


 王城の外に出て、眼下に広がる街を一望する。

 超巨大な星型要塞に内包された都市、王都ミスティア。小高い山の上にそびえ立つ王城から見る街は、どこまでも美しい。


 現在時刻は大凡15時。体内時計の感覚だが、太陽の位置からみても大きくズレていないだろう。


「じゃあ屋敷に戻ろうと思うんだけど、アサカもそれでいい?」


 並び歩いていたゼファーから声をかけられる。


「正直に言えば、王都を色々見て回りたいけど、迷惑をかける訳にもいかないからね。それで構わないよ」


「ハハハ!迷惑だなんてとんでもない。どっちにしても、夕食までは時間があるし、いろいろ巡ってもいいよ」


「お、それはありがたい。どこかおすすめはあるかい?」


「そうだねぇ。私は地元じゃないからなぁ。市場はまだまだおもしろい所があるんだけど、さっきの食い逃げ犯の一幕のせいで、いま戻ると騒ぎになりそうだしねぇ」


 そんな話をしていると、背後から金属甲冑の足音が近づいてくる。

 振り向いて確認すれば、栗毛をショートカットに整えた長身の女騎士。ラグンヒルドの姿があった。


「でしたら、昼餉も兼ねて冒険者街にいってみたら如何でしょう」


 上品に微笑みながら、ラグンヒルドが口を開く。

 確かに昼食は摂れていない。空腹も感じている。


「ラグンヒルド卿、お疲れ様です。確かにそれはいいですね。アサカはどう?」


「ああ。魅力的な提案だ」


「でしたら冒険者街にある"暁の車輪亭"がおすすめです。部下からの評判もいい。あの店のお肉料理は絶品ですよ」


「あー! あそこ気になっていたんです! ベネディクテ殿下の近衛の皆さんも利用しているとは」


 ゼファーの顔に花が咲く。相当評判のいい店のようだ。


「よし!じゃあ暁の車輪亭に行こう!ラグンヒルド卿、教えていただき感謝します」


「いえいえ。アサカ様にもミスティアを知っていただきたいので、感謝を言われるようなことではありません」


 ゼファーが歩き出したのに習い、俺もラグンヒルドさんに会釈をしてから歩き出す。ラグンヒルドは優雅な返礼をしてくれた。さて、どんなものが食べられるか楽しみだ。


「……ご武運を、アサカ様」


 ラグンヒルドが何かを言っていた様な気がした。


/ベネディクテ・レーナ・ミスティア

8月20日 15:56 ミスティア王国王都王城


 陽光が差し込む廊下を、オイフェミアと共に歩いていく。もうしばらくすれば、空は茜色に染まるだろう。

 時刻は16時前後だろうか。私たちは王城内のとある執務室の前で足を止める。部屋にかけられたプレートには、アーレンス伯爵の在中を示す文字。


 ドアをノックし、中からの反応を待つ。すれば間を開けず中年の女の声が返ってきた。


「丁度良かった!ベネディクテ殿下にご用命がある!使いを出せ!」


 オイフェミアと顔を見合わせる。予想外の言葉に、私たちのどちらもが怪訝な表情を浮かべていた。


「入るぞ」


 ドアにそう声をかけた後、扉を開け放つ。瀟洒な調度品と家具によってあつらえられた部屋の中には、上等な法衣服を身にまとった中年の女、アーレンス伯爵とその部下らしき男の姿がある。

 

「ベネディクテ殿下!?まさか御身が直接私の元にいらっしゃるとは。それにオイフェミア殿下までも」


 アーレンス伯爵は驚いた様子をしつつも、こちらへと向かって簡易礼をする。それに返礼を行いながら、ひとまずは事態の把握に務める。


「私に用とは何事だ?」


 アーレンス伯爵は、額に汗を浮かべながら口を開く。


「はい、部下からの報告では、両殿下がお連れになった例の男傭兵、ヒナツ・アサカを追うように、地方領主派閥の若年貴族の一派が兵を動かしております」


 想定外の言葉に疑問が募る。いや、報告の内容は想定通りに事態が動いていることを物語っているのだが、疑問に感じるのはそこではない。


 アーレンス伯爵は裏切り者ではないのか?

 いや、オイフェミアが思考を覗き見るまでは、確定情報とは言えない。


「アーレンス伯爵。オイフェミアの認知開削(コグニティブ・リフト)を今から貴公に行使する。疑って悪いのだが、こちらも事態の把握を進めねばならない」


 アーレンス伯爵は驚いた様子を見せながらも、それに素直に従う。

 彼女にとって信義を疑われるのが不愉快なのは重々承知だが、敵味方はさっさとはっきりさせたい。


 アーレンス伯爵の部下の男が、こちらに対して烈火の如き顔を向けながら口を開こうとする。それを彼女は制しながら、一歩前へと出た。


「構いません。私の忠義は王家にのみ捧げておりますれば。御身のご下命となれば如何様にでも」


「すまない。こちらも時間に余裕がないのだ」


 オイフェミアに向かって顔を向け、頷く。オイフェミアもそれに対して頷き返し、認知開削(コグニティブ・リフト)を行使した。


 一瞬の後、オイフェミアは口を開く。


「アーレンス伯爵。貴女の王家への忠義は立派なものです。今後も、どうかベネディクテの助けとなってください。この様な魔術を用いたご無礼、お許しください」


 オイフェミアが深々と頭を下げながら言葉を述べる。アーレンス伯爵は少し慌てて、口を開いた。


「いえいえとんでもない!頭をお上げくださいオイフェミア殿下!」


 ふむ。アーレンス伯爵は白であった。であれば、今回の糸を引いているのは誰なのだ?


「すまないなアーレンス伯爵。だが貴公が味方と確定できたのは心強い。詫びといってはなんだが、貴公の言う通りの予算をつけられるように便宜を図ろう」


「とんでもない!勿体なきお言葉にございます」


 こうなれば、後はアサカがもたらしてくれる情報を待つ他ない。

 嫌な女だ、利用しておいて結局頼るとは。

 自嘲しながら、彼の無事を願う。


/朝霞日夏

8月20日 16:30 ミスティア王国冒険者街暁の車輪亭


「旨そうッ!」


 眼の前にはステーキ肉のブロックが鉄板に乗って鎮座している。

 量は大凡500g。 2人で分け合えば、夕食前の軽食としては程よい。


 暁の車輪亭は、王都の冒険者街と呼ばれる区画に位置していた。中央広場から500mほど南、宿屋や飲食店、武具店が立ち並ぶ一角だ。


 店内は木材の調度品を用いた大衆食堂といった様子。ピークタイムを外れた時間だが、剣と革鎧を身につけた人々で賑わっている。恐らく冒険者——ゼファーに聞いた話では深淵(アビス)周辺や未知の遺跡を調査する武装探検家——だろう。店全体から感じる荒々しさは、軍隊生活の長かった俺には馴染み深い。自衛隊駐屯地近くの居酒屋や、C.C.Cが駐屯していた街の酒場と同じ空気だ。


「本当に美味しそう! 最近は国境のキャンプにいたから、久々だよ~~!」


 ゼファーも満面の笑みで目を輝かせている。身体が左右に揺れ、真っ赤なポニーテールが犬の尻尾のように揺れていた。その様子は可愛らしい。


 肉の他にはサラダと葡萄酒。ちょっと早い時間だが、これくらいは許されるだろう。


「アサカ。このお肉、なにかわかるか~い?」


 楽しそうに笑いながら、ゼファーが問いかけてくる。見た目は牛肉にも近いように見えるが、まさか……


「まさか、まさか!あれなのか!?」


 フッフッフ!と笑いながら、ゼファーが腕組みをしつつ口を開いた。


「そう~!ドラゴ・シミラですッ!」


「でた!ドラゴ・シミラッ!」


 御前報告会前に、市場で見たあの竜の肉であった。まさに食べてみたいと思っていたものであり、テンションが鰻登りになっていく。俺が竜の肉を口にする最初の地球人類かもしれない。


「それでは、食べようじゃないか!ほら、肉も食べてほしそうにこっちを見てる!」


「それは逆に食いにくいけど、いただきます!」


 ナイフで肉を切り分け、フォークで運ぶ。鼻腔に広がるにんにくと香ばしい肉の香り。我慢できず口の中へと放り込んだ。


 ――旨い。旨すぎる。

 肉汁が溢れ出し、芳醇な味が口内に拡散する。


「ん~~~~! 美味しい!」


 ゼファーも頬に手を当てながら、満面の笑みを浮かべている。可愛い。

 本当に美味しい。秋奈と姫乃にも食べさせてやりたかった。


「旨味が凝縮されているのに、くどくない。歯ごたえはあるのに、舌の上で溶けていく。こんな肉は初めてだ」


 ゼファーもうんうんと頷いている。

 サラダも手に取り一口口へ運んだ。こちらは一般的なサラダだろう。恐らくはフルーツ系の何かをドレッシングにしているようで、りんごサラダと近しいものを感じる。

 口をさっぱりとさせ、さらにメインを食べたくなるそんなサラダだ。旨い。


 ふと気になった事が脳裏に浮かぶ。


「なあゼファー。これって結構高いんじゃ」


 ゼファーは頬張っていた肉を咀嚼し飲み込んだ後に、葡萄酒を口へ運ぶ。その後に口を開いた。


「まあ、普通のメニューよりは高いけど、ドラゴ・シミラのお肉なんてタイミングよくないと食べられないからね~。私のおごりだから、気にしないでいいよ!」


「おごり!?いやいや悪いよ。それにベネディクテからもらったお金があるじゃないか。まああれもあれで奢ってもらっているようなものだけど、ゼファーの財布から出してもらうわけにはいかn……」


 こちらがそこまで言った時、ゼファーは人差し指を立て、俺の口の前にそれを当ててくる。そして小首をかしげ上目遣いのようにこちらの目を覗き込んできた。


「今日はアサカが正式に傭兵になったお祝いだよ!私がお金を出さなくてどうするのさッ!だーから、気にしなくていいよ~」


 ゼファーの顔に花が咲く。目を細め、いたずらっぽく笑う彼女の顔は、惚れ惚れする美しさだった。


『ふふ、ヒナツくんのお誕生日だから、今日は私が全部だしますよ』


 ——瞬間、頭の中に陽だまりのような温かい声が響いた。ゼファーの姿が揺らぐ。デジタルアートのグリッチ表現のように。チカつく視界に重なって見えるのは、2年前まで付き合っていた女性——姫乃の姿。


 それは一瞬で治まった。戻ってきた視界には、楽しそうに笑っているゼファーの姿。

 ……最低だ。


《……》


 葡萄酒を呷って無理やり落ち着ける。頭を軽く振ってから口を開いた。


「ありがとう。ゼファー、君は本当にいい人だな」


「そうですとも! 私は、仲良くしたいと思う相手にはいい人でいようと思うのです」


 照れたように笑うゼファーに、罪悪感を覚える。


 切り替えができないほど子供でもない。

 再び葡萄酒を呷り、アルコールの力も借りて気分を切り替える。


「……よし!」


「お、どうしたの?」


「情けない男の時間は終わりってこと」


「ハハハ、意味わかんないけど、楽しんでくれるならそれでいいや」





 「いやー、美味しかったね~。もっと食べたかったけど、お夕飯入らなかったら、オイフェミア様に怒られちゃうし」


 ゼファーが満足そうな笑みを浮かべ、俺の横を歩いている。

 日は傾き始め、黄昏が世界を覆っていた。影法師は長く伸び、仕事帰りであろう人の姿がまばらに見える。

 現在時刻はおおよそ18時。ゆっくりと雑談しながらの食事であったため、存外時間が経っていた。


 店の外へ出て、馬舎への道を二人で歩いている。人通りは然程多くなく、日中ほどの活気は無くなっている。


 暁の車輪亭から最寄りの馬舎は中央広場のものらしい。日中、市場を巡った時にも預けた場所である。大凡500mほどの距離はあるが、食後の腹ごなしにはちょうどいい散歩だろう。


「今日は本当にいろいろありがとう。世話になりっぱなしだな。今度なにかしらの形でお礼をさせてくれ」


「どーいたしまして。気にしないでもいいよ~。でもそうだな。どうしてもって言うなら、今度私にもコーヒー?っての?淹れてよ~。オイフェミア様が話していて飲んでみたくなったんだ」


 少し頬が紅潮したゼファーがそう口にする。俺はあの程度の葡萄酒では全く酔わないのだが、ゼファーはあまり酒に強くないのだろうか?


「そんなことでいいならいつでも。紅茶のパックもあったけど、どっちがいい?」


「紅茶は普段から飲んでるからな~」


「ハハ、それもそうか」


 人通りの少ない路地を、雑談しながら進む。


 しばらくして、嫌な違和感に気がついた。

 人通りがまったくない。

 それに、ねっとりとこちらを値踏みするような視線。それが複数。


 ……囲まれている? 数は……大凡8。意識すれば、屋根上や路地裏に気配を感じる。


 間違いなく友好的な存在ではない。


「ゼファー」


「感じる? 何人かな?」


 ゼファーも既に気がついている。歩みは止めないが、目が先程までの蕩けたものから切り替わっている。


「大凡8人程度。音がほとんどしない。革鎧か?」


「わからないけど、多分魔術。妖精魔術(フェアリー・アーツ)静謐(サイレンス)じゃないかな。音を消す魔術だね」


 なるほど。気配は感じるが無音なのはそういうことか。便利な魔術もあったものである。潜入任務などがどれほど楽になることか。


「どのタイミングでくると思う?」


「わからん。だがその魔術の効果が切れる前だろう」


「だねぇ――いや《《いま》》くるよ!」


 ゼファーが装備しているナイフを一気に浮遊させ展開する。

 こちらはそんな予兆は感じ取れなかったが、彼女が言うのなら間違いないだろう。


 その瞬間、右手側の3階建ての屋根上から、ローブを身にまとった人物が地面に落ちてきた。人体が地面へ激突し、骨が折れる耳障りな音が響く。


《稚拙な魔術。撫で返しただけでこれとは》


 ……降ってくる? 地面に激突? 意味がわからない。襲ってくるのではないのか。ゼファーが何かをやったのか?


 ローブの人物の顔は酷いものであった。

 火に焼かれたかのように爛れ、複数の水疱が浮き出ている。さながら疱瘡の末期患者のようだ。


 恐怖と激痛を表情に貼り付けて死んでいる。どう見ても落下の衝撃の傷ではない。


 落下の軌跡を辿れば、屋上の他の人物と目が合う。同じ装い。その目には困惑——いやこちらの感情なのだが?


「わお。アサカ、えぐいカウンター魔術だね。魔術使えたんだ」


「いや知らん知らん!」


 俺の叫び声のあと、屋上の連中の周りに魔法陣が展開される。魔術を撃ち下ろすつもりか!?

 

 遮蔽に隠れるために行動を起こす前に、路地裏からも同じ様な装いの連中が4人、前後を塞ぐように飛び出てきた。その手には直剣が握られている。


 ヤバい。脳に警鐘が響いたのだが、ゼファーの声が耳に届く。


「下は任せるよッ!」


 ゼファーが一気に飛翔し、魔法陣を展開している屋根上の連中にナイフを投擲していく。


 助かった。あのまま撃ち下ろされたらたまったものではなかった。

 さて。頭を抑えている連中はゼファーがどうにかしてくれるだろう。であれば、俺の相手は地面の4人だ。


 改めて連中を確認する。前に2人、後ろに2人。距離は前後共に8mほど。その手には刃渡り60cmほどのロングソード。その得物のリーチから、近接格闘は論外だ。


 相手は、じりじりと摺り足で距離を詰めてくる。こちらが何かを起こせばすぐにでも切りかかってくるだろう。


 だが。


 強烈な破裂音が鼓膜を揺らす。ヘッドセット無しで聞く銃声は久しぶりだ。

 ヒップホルスターに装備されていたP226(拳銃)をクイックドローし、前方の2人の頭を撃ち抜く。


 拳銃であろうとも、ほぼ動いていない存在を撃ち抜くには近すぎるくらいの距離。前方には的が2つしかない分、訓練で幾度も行ったスピードシューティングよりも簡単だ。


 一瞬にして眼の前の2人の頭に花を咲かせ、すぐさま振り返る。困惑した様子の二人組と目が合ったと同時に、引き金を引いた。


 1秒にも満たない時間で連続射された弾丸は、寸分の狂いも無く2人の脳髄を掻き回す。


「アサカ!1人降りてく!」


 ゼファーの声が頭上から聞こえる。同時に、ガチャという着地音を立てて、1人のローブ姿が降ってきた。

 肩口にはゼファーのナイフが刺さっている。


「な、なんなんだ貴様ッ!?《《あいつ》》め、話が違うではないか!こんな奴だとは聞いていないぞ!」


 《《あいつ?》》誰の事だ?この襲撃を計画した何者かがいるのか。

 眼の前の人物がローブを脱ぎ捨て、剣を抜剣する。

 声や音が聞こえているということは、ゼファーの言っていた魔術の効果時間は終わったのだろう。


 その姿はどこかでみた記憶があった。

 ああ、そうだ。御前報告会で、ベネディクテに噛みついていた若手の貴族の女だ。


 なんで俺を狙ったのか、些か疑問はあるが。まあ後でゆっくりと聞けばいいだろう。


 モディファイドアイソセレススタンス――両腕を曲げて小さく構え、上下左右に振りやすく素早く狙いをつけることができる射撃姿勢――でP226を構え、銃口を女貴族へと向ける。


 万が一、ノルデリアの様な超機動をしてきた時に対応するためである。

 まあこの戦闘をした感覚として無いとは思うが。 


「き、貴様の様なッ! 貴族でもない、ましてや男が御前報告会に出ているだけで不快だったのだ! そのうえ、私にこんな仕打ちまで! た、ただでは許さんぞ! 貴族に手を出したのだからな! あのいけ好かない王女を引きずり下ろすいい機会だ!」


 子鹿のように震えながら、女は絶叫する。意味がわからない。そんな動機を叫んでどうなる。

 まだ命乞いの方が合理的だ。恐慌状態で攻撃性が増しているのか?


 そう思考していると、ゼファーが真横に降り立ってくる。6本ほどのナイフを空中に浮遊させたまま、その切っ先を眼前の女貴族へと向けていた。


「片付いたか?」


「もーちろん。魔術師が、こんな距離で交戦を仕掛けてくるのは舐めてるよね。せめて私の種族を調べてから襲ってきなよ。というかアサカもあっという間じゃん」


「そりゃ的当てと変わらんかったからな」


 貴族の女は、恐慌状態でパニックに陥っているのか、剣をもった手が震えている。大人しく投降してくれるとありがたいのだが。


「クソ、クソ、クソ!こんなはずでは、《《あいつ》》め!ハメやがった!クソクソが!」


 女貴族が剣を振り上げながら吶喊し、突撃してくる。

 それに対し、ゼファーがナイフを射出するよりも早く、女貴族の右膝を撃ち抜いた。

 9x19mmパラベラム弾が膝小僧部分の骨を砕き、少し角度を変えて貫通する。

 

 女貴族は地面へと転がり、激痛に顔を歪めていた。耳障りな絶叫が路地にこだまする。

 周辺の家屋からは、何事かと、複数の人影が顔を覗かせていた。まあこれだけサプレッサー無しで銃を撃っていれば、この辺り一帯に響き渡っているだろう。夕飯時に悪いことをした。


「ゼファー、こいつらどうするんだ?」


「さてねぇ。もうすぐ衛視がくるだろうし、任せていいんじゃない?強盗は珍しくもないしさ」


 痛みで地面に転げ回る女貴族を一瞥する。恥も外聞もなく泣き叫び、顔は傷を負っていないのにぐちゃぐちゃだ。


「だが一応こいつは貴族なんだろ?どうなるんだ?」


「確かにそうなんだよねぇ」


 そんな話をしていると、背後から金属甲冑の音が近づいてくる。衛視の可能性もあるため、念の為銃口は向けずにそちらへと視線を向けた。

 すればその人物は衛視ではなかった。だが見知った人物である。


「ラグンヒルドさん」


 栗毛でショートカットの女騎士、ベネディクテの部下であるラグンヒルドだ。

 彼女は真剣な顔のまま、こちらに対して口を開く。


「……近くで用事がありまして。強烈な破裂音を聞いて駆けつけました。あの破裂音はアサカ様の銃だと」


 やはり相当に響き渡っていたようだ。


「あー。なるほど。すいません迷惑をかけて。街中ですし、銃を使うべきではありませんでしたね」


「……そこは対して問題にはならないと思いますが。ともかくお二方は一度アルムクヴィスト公爵殿下のお屋敷へお戻りくださいませ。ここは私が引き継ぎますので」


 ゼファーが少し驚いた顔を受かべ、ラグンヒルドに対し口を開く。


「いいんですかラグンヒルド卿?」


「構いません。衛視にはこちらから話しておきましょう。この女たちに襲われたのでしょう?それよりも早く、オイフェミア殿下にこの事の報告を」


 ラグンヒルドにも迷惑をかけてばかりで申し訳ない。だがドイツ語の喋れない俺がこの場で事情聴取を受けたとしても、場を混乱させるだけだろう。

 ここはラグンヒルドの言葉に甘えさせてもらったほうが、場を丸く収められそうである。


 それにオイフェミアには早めに報告したほうが良い。

 仮にも貴族と交戦してしまった。貴族殺しは重罪のはずだ。

 裁判になるのだろうか? 面倒だし、オイフェミアにもベネディクテにも迷惑をかける。


 敵を殺した罪悪感は一切ないが、関係者にかける迷惑への罪悪感はある。

 屋敷に戻ったら2人に謝ろう。


「じゃあお願いしますラグンヒルド卿。ありがとうございます」


「ありがとうございます」


 ゼファーと共に頭を下げる。そして散らばっていた薬莢を拾った後に、中央広場へと向けて駆け出した。

 ラグンヒルドさんにも何かお礼を考えねばならないだろう。

 

 さて。疑問の残る襲撃ではあったが、まあ貴族社会で俺のような異端が歓迎されるわけもない事は理解している。

 C.C.Cとして地球で活動していたときも、歓迎される存在であることが少なかったため、こういった地元民からの襲撃は日常茶飯事であった。

 

 ひとまずは事態の報告だ。同時にオイフェミアとベネディクテに謝る文章を脳内で考えつつ、馬舎へと向かった。

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7-3と7-4が同じ文章になってますね
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