第14話 広がる波紋と、小さな依頼
「い、イツキさん…!」
「これ、一体、どういうことですか!?」
「こんな、国宝級の装備…!
私なんかが、
受け取れるわけ、ないです!」
ステラは、
我に返ったように、
慌てて、
剣と、鎧を、
俺に、返そうとしてきた。
その手は、
興奮と、戸惑いで、
微かに、震えている。
「いえ、それは、あなたのものです」
俺は、
首を、横に振った。
「で、でも、お金なんて…!」
「いえ、お金は、いりません」
「そんなわけには…!」
「……ただの、職人の、気まぐれです」
俺は、
ぽつり、とそう言った。
「それに、
あんな、ひどい道具で、
森に、入るのは、
見ていられなかった、だけなので」
「だから、気にしないでください」
「その代わり…」
「その、装備で、
どうか、無事でいてください」
「それが、俺へのお礼、ということで」
俺の、
その、言葉に、
ステラは、
再び、言葉を、失ってしまった。
そして、
やがて、
その瞳から、
大粒の、涙が、
ぽろぽろと、こぼれ落ちた。
「……はいッ」
「はいっ…!」
「ありがとうございます…!」
「絶対に、大切にします!」
「この、装備に見合う、
立派な、冒険者に、
必ず、なってみせます!」
彼女は、
涙を、拭いもせず、
しかし、
これまでで、一番、
力強い、笑顔で、
そう、誓ってくれた。
その、姿を見て、
俺は、
少しだけ、
やりすぎた甲斐が、あったな、と、
心の中で、
密かに、思った。
こうして、
ステラは、
俺が、作った、
新しい、剣と鎧を、
その身に、纏い、
工房を、後にしていく。
彼女は、
何度も、何度も、振り返り、
俺に、
深々と、頭を下げていた。
彼女の、存在は、
俺の、静かなスローライフに、
間違いなく、
大きな、波紋を、広げた。
だが、
その、波紋は、
決して、
不快なものでは、なかった。
そして、
彼女が、
去り際に、
ぽつり、と漏らした、
一言が、
俺の、職人の魂に、
新たな、火を、灯すことになる。
「イツキさん、
この装備、本当にすごいです…!」
「でも、
駆け出しの私には、
まだ、悩みがあって…」
「ポーションって、
重くて、何本も持てないし、
戦闘中に、
飲む暇が、ないんですよね…」
その、言葉。
その、
切実な、現場からの、
『ニーズ』。
俺の、頭の中に、
ピコン!と、
新しい、アイデアの電球が、
鮮やかに、灯った。
(飲む、暇が、ない…?)
(なら、
飲まなければ、いいじゃないか…)
俺は、
工房の、素材棚に、
視線を、移した。
そこには、
ギルドの廃棄場で、手に入れた、
『メディカル・スライム』の、
粘液の入った、
瓶が、あった。
鑑定によれば、
この、スライムの粘液には、
薬効成分を、
皮膚から、浸透させる、
特殊な、効果が、ある。
(……面白い)
一度は、落ち着いたはずの、
俺の、モノづくりの血が、
再び、
ふつふつと、
沸き立ってくるのが、
分かった。
「……ステラさん」
「その、問題…」
「もしかしたら、
解決できる、かもしれません」
俺の、その言葉に、
ステラは、
「えっ?」と、
目を、丸くする。
俺は、
そんな彼女に、
職人らしい、
ニヤリとした、笑みを、
見せていた。
俺と、
外の世界を繋ぐ、
最初の、
そして、
最も重要な、
『依頼』が、
舞い込んだ、瞬間だった。




