第12話 革と糸の旋律、守りの再編
剣の次は、防具だ。
俺は、
ステラが、置いていった、
革鎧の、腕のパーツを、
作業台の上に、置いた。
鑑定するまでもない。
触っただけで、分かる。
これは、ひどい。
革は、
手入れを、怠ったせいで、
カチカチに、硬化し、
その、柔軟性を、
完全に、失っている。
縫い合わせている糸も、
粗末な、麻糸だ。
これでは、
ゴブリンの、
錆びたナイフの一撃で、
簡単に、引き裂かれてしまうだろう。
「……全部、作り直した方が、
早いな、これは」
俺の、職人の血が、
再び、騒ぎ出す。
まず、
やるべきことは、
この、硬化した革を、
最高の、素材へと、
生まれ変わらせることだ。
俺は、
ギルドで、手に入れた、
『ランドタートルの油』を、
大鍋で、温める。
この油には、
動物の、革の繊維を、
柔らかくする、
特殊な、効果があった。
俺は、
そこに、
いくつかの、ハーブを加え、
革に、
しなやかさと、
防水性を、与える、
特製の、なめし液を、作る。
その液に、
硬化した革を、
一晩、漬け込み、
翌日、
柔らかくなった革を、
丁寧に、洗浄し、
そして、
何度も、何度も、
手で、揉み込んでいく。
その、地道な作業によって、
革は、
まるで、高級な、
ラムスキン(子羊の革)のように、
しなやかで、
それでいて、
強靭な、素材へと、
生まれ変わった。
次に、重要なのが、
この、最高の革を、
縫い合わせる、『糸』だ。
麻糸では、話にならない。
俺が、素材棚から、
取り出したのは、
一見、ただの、
美しい、銀色の糸玉。
だが、その正体は、
ギルドの廃棄場で、手に入れた、
『巨大蜘蛛』の、
巣の、糸だ。
【巨大蜘蛛の糸】
非常に細いが、鋼鉄に匹敵する強度を持つ。
軽くて、伸縮性にも富む、奇跡の繊維。
しかし、
あまりに、細く、
そして、滑らかすぎるため、
普通の針では、縫うことができず、
染色も、できないため、
用途がないとされていた。
「宝の、持ち腐れとは、
このことだな…」
俺は、
この、奇跡の繊維を、
数本、束ね、
自作の、撚糸機にかける。
スキル【万物再編】の、
アシストを受けながら、
俺は、
糸に、
絶妙な、撚り(より)を加え、
縫いやすく、
そして、
さらに、強度を増した、
『スパイダーシルクの魔法糸』を、
作り出した。
材料は、揃った。
俺は、
ステラの、体格を思い出しながら、
生まれ変わった革を、
人間工学に基づいて、
立体的に、裁断していく。
肩や、肘、
関節部分は、
動きを、阻害しないように、
より、薄く、
そして、柔らかく。
胴体や、心臓部など、
重要な部分は、
革を、二重に重ね、
その間に、
薄く、スライスした、
アームドビートルの甲殻を、
サンドイッチのように、挟み込み、
防御力を、飛躍的に、高める。
複合装甲の、考え方だ。
そして、
それらのパーツを、
スパイダーシルクの、魔法糸で、
一針、一針、
丁寧に、
そして、頑丈に、
縫い上げていく。
全ての、作業を、
終えた時。
俺の目の前には、
もはや、
元の、ガラクタの、
面影など、
どこにもない、
一つの、完璧な、
芸術品が、
静かに、佇んでいた。
ジャーン!
・‥…━━━☆・‥…━━━☆・‥…━━━☆
【流麗なる守りの革鎧】
Rank:C
分類: 軽装鎧
解説:
職人イツキが、機能美と防御性能を、一切の妥協なく追求した革鎧の傑作。
最高品質のなめし革と、奇跡の繊維スパイダーシルクを使用。あらゆる動きに追従し、着用者を確実に守護する。
付与効果:
物理防御(中)
軽量化(中)
運動性向上(小)
防水・防汚効果(中)
・‥…━━━☆・‥…━━━☆・‥…━━━☆
(ふぅ、できたできた)
(ちょっと、やりすぎた、気もするが…) (;´∀`)
完成した、革鎧は、
体に、吸い付くような、
美しい、シルエットを持ち、
それでいて、
驚くほど、軽かった。
これなら、
ステラも、
もっと、速く、
そして、自由に、
戦えるはずだ。
俺は、
生まれ変わった、
剣と、鎧を、
工房の壁に、並べて、飾った。
それは、
まるで、
どこかの、博物館に展示されている、
伝説の勇者の、
装備のようにも、見えた。
俺は、
その光景に、
しばし、見惚れていた。
職人としての、
達成感が、
俺の、心を、
温かく、満たしていく。
さて、と。
問題は……。
(これ、どうやって、
あの子に、渡せばいいんだ…?)
最高の、装備は、完成した。
だが、
俺の、コミュニケーション能力は、
相変わらず、
Rank:F のままだった。