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第4話 天才娘の普通は普通じゃない

本日5話投稿の4話目です

「レーナ、ご飯置いとくぞー」


空になっている食器を下げながらまた新しい食器を置く。特に返事はない。ここ三日はこんな感じだ。


三日。レーナが部屋に籠っている日数だ。レーナの場合はまだ三日なんだけど。


別に怒ってるわけでも病んでるわけでもない。また何か研究に没頭してるらしいんだ。こういう時は好きにさせることにしてるんだよ。


最初は心配もしたけどな。籠り出す時は声を掛けることだけはお願いして今は家族も受け入れている。


ただ、ちょいちょいレーナのタイミングで出てくるもんだから夜に遭遇するとちょっとびっくりするくらいだ。因みに過去最長記録は2週間だった。そのうち更新するだろう。


アルディー王国に義務教育はないけど教育機関はあるんだ。年齢は関係なくてお金と能力次第で通うことが出来る。


レーナはすでに大学相当の教育機関を卒業し博士号を持っている。今も大学に所属しているが研究者としてだ。魔術師としても一流だが魔道具や模倣アイテムの研究でもすでに特許をいくつか持っている天才なんだ。


だからと言う訳ではないのかもしれないが、行動や言動も変わってることが多い。集中しだすと止まらないのもこういうタイプのアルアルだよな。


そして俺は下げた食器に添えてあった手紙を呼んで必要なものの買い付けや食事のリクエストなんかに応えることでフォローする役目だ。


さ、手紙を確認して必要なものを……ん?今回はなんか違うぞ?どうやちょっと厄介な研究らしいな。どうも手伝って欲しいことがあるらしい。今日の分の掃除洗濯を済ませてからだな。



「おとん、髪の毛頂戴。一本で良い」


あれ?ウチの娘おかしくなった?いや普通とは違うのは知ってたよ。


研究と言って何日も部屋に籠る18歳は普通じゃないけど、魔術師界隈では案外普通みたいだし結果も出してるわけだし。


でも部屋に入るなり第一声が「髪の毛頂戴」はびっくりするじゃん?俺の感覚、普通だよな?あ、俺はフサフサだから。髪の毛の一本や十本、抜くのは構わないよ?本当だよ?


「レーナ、流石に端折り過ぎだ。なんかの研究に使うんだろうが、少しくらい教えてくれてもいいんじゃないか?」


そう言いつつもすでに身体は動いており髪の毛を渡しちゃうのは娘に甘すぎるのだろうか?いやコレは仕方がない。よね?


その気になれば同居家族の髪の毛なんて手に入るんだし新鮮なやつが欲しかったんだろう。……新鮮な髪の毛ってなに?猟奇回かな?


「ん。そしたらコレ飲んで。30分後にまた髪の毛頂戴。今回の研究はこれが最終行程。掃除も頼みたい。おとん、お願い?」


娘のお願いは断れないよ。もうDNAレベルで断れないよ。お父さんなんでも聞いちゃうぞ?


でも渡された飲み物は禍々しい色してるんだよなぁ……治験、だよなぁ。でもレーナが頼んでくるってことは安全なのは間違いない。この子は親の贔屓目じゃなくて純粋に天才だからな。それに初めてじゃないし。過去にも何度か治験の協力はしてるんだ。日本でも一回やったな治験。


なので飲むことには抵抗はないぞ?ただこの青汁とエナドリとその他諸々を凝縮したような見た目が怖いだけだ。これポーションじゃん?リアルなアレの方の。


俺が逡巡しているあいだにもレーナは早く早く、と期待に満ちた目で俺を見てくる。くっ、娘の期待に応えるのは父の嗜み……


意を決して一気に飲み干す。


「…ッぐッ、う…、ッぬをッ…ああぁ……ぁっ…………」


これは……悪意か?この世の悪意を煮詰めた味か?レーナよ、いくら薬とは言え飲めなければ意味がないのだぞ?


具体的に表現すると下手するとR指定ものの味であったが覚悟を完了していた俺は既に嚥下を終えている。ふっ、やり切ったぜ……




結局、復活に相当な時間を要したので掃除まで手が回る前に30分が経過。再び髪の毛を採取され俺はレーナに話しかける。やっと口が開けるようになったとも言う。


「で、レーナ。結局なにを調べたかったんだ?というかあのポーション?薬?もなんだったんだ?所感としては何も変わった感じはしないぞ?」


ちょっとふらつくがそれは薬の影響ではないだろう。というか味による身体への影響がデカすぎて効果計れないんじゃないか?


「ちょっとだけ待って、……ん。解析終了。……前にも話した不妊の実験。転移した人でも子孫が残せればいいと思ってるから。おとんは望んでいないだろうけど、他の人は分からない。今回のは数時間だけ不妊の呪いが解けるか試したかった。いつもありがとう。言葉足らずな私の実験に協力してくれるのはおとんだけだから。気を付けてるけど集中すると特に話が端的になってしまうの。変わり者でごめん、あと部屋散らかし過ぎてごめん。私は掃除苦手なので今日はこの後一緒に片付けてくれると嬉しい」


「まぁ転移者関連のかな?とは思ってたし、身近には俺しかいないしな。協力は別に気にしなくていいぞレーナ。それに掃除もだ。なんなら一緒にじゃなくていい。俺一人でやっておくから少し寝たらどうだ?どうせほとんど寝てないんだろ?」


恐らくほとんど寝ずに色々していたんだろう、不健康そうな顔をしてるぞ?レーナ。親として出来れば健康的な生活を送って欲しいとは思う。変わり者は親の贔屓目でもそう思うけど。でもそれも含めて可愛い娘なんだ。


それに研究者や魔術師のことは俺も良く分からんしな。セレスとも相談してそこはもう自由にさせることにしたわけだし。あまりにも異常な時はセレスが止めることになってるし。


それと部屋の掃除は一人でやった方が早いんだ。レーナの生活力の無さは異常、天は二物を与えなかったのだ。いや、可愛さと聡明さはあるけれど。


そして実験の件だが、実は俺以外にも地球から転移して来る人はいるんだ。数年~数十年に1人レベルのレアケースだけどな。転移者がみんあチート持ちってことはない。寧ろこの世界に存在する種族のなかでも弱い部類になる。俺もそうだ。


知識にしたってこの世界で転用できるものは少ないしな。俺のアイデアが活きたのはノルの工房が特殊だからなんだ。


そして転移者と現地人の間では子孫を残せない。遺伝的には異種族婚が出来てるので問題ない様子だが別の問題があるらしい。詳しくは知らんがレーナはその研究を続けている。


今の俺には必要ない研究だ。俺にとっては3歳と5歳から育てた2人は実の子同然。十分以上に幸せな家庭があるわけだ。


そりゃ15年前は正直、セレスとの間に子供が出来れば、と思ったことはある。普通の感情だろ?でも40歳も越えてくるとそういう気持ちもないし、いろんな事情で子供を持てない人だっている訳で。


ノルとレーナがいる俺にとってこの研究は本当に必要ないんだ。今は心からそう思っている。最初は俺のことを想っての研究かと思ってレーナと相談したこともあったが、今後も転移があるかもしれないし、その人たちのためにという気持ちらしい。


2年前から始めた研究だがその頃には俺に子孫を残したい気持ちがないことはレーナも分かっていたようだ。それで、転移者である俺と、天才であるレーナが同じ時代、同じ屋根の下にいることは一つの運命とも思っている。らしい。


天才ゆえの責任感、なのだろうか?凡人の俺には分からない感情だな。分かってあげたいけど、そこはセレスの方が分かるんだろうな。


出来過ぎた子を持つと親は苦労するとか言ったっけ?俺は苦労とは思わないけどね。どこまでいっても、例え家族でも、人の心情を100%理解することなんて出来ない。

自分にやれることを精一杯やって、自分が持つ愛情を精一杯注げば、それでいいじゃないか。


すでに寝息を立てているレーナの顔を見て俺は改めてそう思い「レーナ、愛しているよ」思わず心中を口に出してしまう。



(私も愛してるよ、お父さん)



ふと漏れたレーナへの言葉に一瞬寝息が止まり、起こしてしまったかと焦る。


しかし再び寝入った様子に安心し、惨状と言うべき部屋の片づけを始めるのだった。


こんな日常が、俺はたまらなく好きなんだ。


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