第3話 鍛冶屋と言う名の何でも屋
本日5話投稿の3話目です
今日は家の掃除も調子良く早めに終わったのでいつもより少し早い時間帯だが買い物に出かけている。
うちははっきり言って高収入なので家計に余裕はありまくりなのだが日本で庶民中の庶民だった俺は習慣で普通の買い物をしているんだ。
この国は大陸中央部に存在するアルディー王国といって大陸にある国のなかでは豊かな方だが、それでも家族の食べたいものや好きなものを気にせず買えているウチは十分に贅沢な方なんだ。
それにセレスと結婚してからずっと家のことを俺がしてきたためか家族全員が庶民寄りなんだよな。
セレスは武器防具には拘るし、レーナは大学での研究以外に私費での研究もしているし、ノルも研究開発に金を使ってる。けど全部仕事じゃん?
日本で言えば3人ともウン千万プレイヤーなのに生活面が普通っぽい。セレスなんてガチれば億だろうに。
そんなことを考えながら歩いているとノルの工房の近くにいることを思いついた。たまには職場見学でもしてみようか?
そんな軽い思い付きでノルの工房に顔を出すことにしたのだった
「あっ、おやじさん。珍しいっすね。社長に御用っすか?呼んできやしょうか?」
ノルの工房の従業員が声を掛けてくれる。ノルが若いから従業員の皆も若いし、親方っていうのもしっくりこないらしく社長呼びである。
会社って概念は浸透していない世界だがノルは俺が育てたからなぁ。日本の話なんかノルは結構好きだったのでその影響だろう。
「お気遣いなく。ちょっと寄っただけなんで呼ばなく大丈夫ですよ。個人的に何か買うもんがあればと思って寄っただけです」
そう言って店内を見て回ることにする。さっきの彼は奥に行ったので多分ノルに報告してるんだろう。そりゃ社員の立場なら本人が呼ばないって言っても報告はするよな。
俺は主夫っていう立場だが一応小遣いを貰ってる。日本の感覚で月2万円くらい。でもあんまり使い道がないので貯まるんだよな。
家族へのプレゼントを買う時とかに困らないから助かってるけど。
ノルの店は武器防具ばかり扱ってるわけじゃない。生活用品も作ってるし店頭販売は寧ろ生活用品がメインだ。
武器防具は個別注文が多い様子。一応従業員と言う実質弟子の作品なんかが置いてあるみたいだが……
奥に飾ってある剣。あれこないだのピクニックでセレスが使ってたやつと同じ剣だよな。ゼロが多くない?4千万円?マジで?
いやまぁ武器防具は高いんだったな確か。それにあれはセレスが気に入るレベルの剣だしな。
生活用品を見よう。元々そのつもりだったし。いや何か買いに来たんだっけ?落ち着け俺。
包丁、鍋、フライパン。こういった生活用品は安心するよね。ウチはノルがくれたの使ってるから欲しいものないんだけどね。
2~3万で並んでるけど手作りだしノルのとこは品質いいからな。現代日本の価格と同じって訳にはいかない。
今俺が使ってるタイプはぶっ壊れ性能だから100万してもおかしくないけどな。カットと同時に最高の熟成度、鮮度になるんよ。マジチート。
一般には冷蔵庫も出回ってないので適切な熟成は難しいし、魚の鮮度が復活するのは現代日本でも無理だからな。あれ?100万で済まなくない?
考えると怖くなってきたので工房を出ようかと考えていると声を掛けられてしまう。タイミングが遅れたようだ
「父さん、来てたんなら言ってよ。折角時間あるんなら見てって欲しいものが色々あるんだよ。それにウチの職人からは父さん人気あるんだよ?挨拶してくれたら喜ぶだろうしさ、ほら中入ってってよ」
ノルがそう言うと店舗部分から工房内に連れてこうとするので仕方がなく入ることにしたけど、なんで俺が人気なんだ?
「おやじさん!久し振りじゃないですか!またアレ聞かせて下さいよ。日本の色んな道具の話」
「こないだの洗濯機も試作品が出来たところでしてね。伸びる剣も売れてますし、今日もなんかないんですかい?」
そうか、俺が人気なのは何気なく話した地球の生活のことか。そう言えば漫画の話なんかもしたか。ただ危険なんだよなぁ。
なにが危険ってこの人たち何でも作っちゃうんだよ。冷蔵庫、エアコンなどの家電は不思議素材を見つけてきて似たようなもの作るし。
職人たちが行き詰ってもノルがどうにかしちゃったりとか。伸びる剣とか形状変化鎧とかどうやって作ったんだって話。
ここ数年のアルディー王国ではまだ貴族階級だけだが昭和日本の家電ブームみたいなものが巻き起こってるらしいしな。
元凶はノルの工房、と言うよりは俺になるのかもしれない。だがいい加減ネタ切れなので今日は長さ調節の出来るハンガーラックの話でもしてお茶を濁そう。
今は新作よりコストダウンに努めて欲しいしな。庶民階級にも家電的アイテムが出回ればいいなと内心思ってるんだ。
便利になるのはいいことじゃない?因みにウチはノルがいるから当然のように家電は揃ってるんだ。
なんか申し訳なく思う小市民なんだよ、俺。
「はは、父さん人気あるねぇ。社長の俺よりよっぽど人望あるんじゃない?ま、あ父さんの言う通り今はコストダウンの研究中だからあんまり新しいアイデアは話さないで欲しいかな。俺もなんだけどやっぱりみんな職人だからさ、新しいアイデア聞くとそっちに夢中になっちゃうんだよ」
まぁ職人の仲でも若い子たちの集まりだからなぁ。新しいもの好きなのかもしれない。でもまぁノルはしっかりと工房のことも考えてるみたいだしソコは安心だな。
「レーナとの共同開発も多いだろ?ほどほどにしといてくれよ。コストダウンの話も含めてゆっくりでいいじゃないか。レーナも熱中すると大変なんだぜ?特に生活習慣が乱れに乱れる。ノルだって一時期は随分心配してただろ?」
「あぁ、レーナへの相談は本当に反省してるよ。ソコソコにしとかないとぶっ続けで研究するからね。俺や職人たちよりたちが悪いよね。あ、それと父さん。ちょっと時間あるなら手伝って欲しいことがあるんだけどいいかな?」
あー、ここで頼まれるってことはアレかな?まぁいっか、今日は時間あるし。でも最近やってないからなぁ。ま、やってみますか。
ノルのとこは国でも最高の工房の一つだ。最近は特に武具だけでなく各種生活用品も凄い。最早何屋か分からないくらいだ。
それでも一つだけ俺が手伝えることがあるんだ。些細なことだけどね。俺は目の前に置かれた素材である竜皮を手に取る。
「これに鱗を合わせてけばいいのか?久し振りだからちょっと時間掛かっちゃうかもしれないけどやってみるか」
竜皮は魔物の素材の中でもトップクラスの堅さだし鱗は力を入れ過ぎると割れるという結構厄介な素材なんだ。
熱にも強いんだけど溶接には向かない素材だし、結局縫い付けることになる。オリハルコンを糸状に極限まで細くした糸を使うんだ。
こんな糸が作れるのはこの国でも数か所しかないんだからやっぱりノルの工房は一流なんだろうな。。ただ、男所帯のこの工房の数少ない弱点なんだよな、裁縫。
そして俺は特製のオリハルコンの針と糸で竜皮に鱗を縫い付けていく。裁縫は得意じゃなかったんだけど子育てのなかで多少は出来るようになったんだ。
この世界で主夫スキル「内助の功」を身に着けたお陰だな。
「ハンドメイド」
正確には裁縫じゃなくて手芸になるんだろうけど、スキルの力も借りて竜皮と鱗を縫い付けていく。
ノルとレーナが小さい頃は良く小物作ったり小さいカバンを作ったりしてたんだけどな。最近はすっかりご無沙汰だ。食い気優先になってる気もする。
そんな昔を懐かしみながら小一時間。作業も終了しノルへと引き渡す。手芸って主婦の趣味になる理由が分かるよ。落ち着くし実用的だし楽しいからな。
ま、俺は主夫だけど。作業も終わったし結構いい時間になっちゃったから帰らないとだ。俺は挨拶をして工房を後にする。
皆の返事が上の空だったのはあれか、新作のこと考えだしたか。ハンガーラックくらいならすぐ出来るんじゃないかな?
「社長、おやじさんナニモンなんですか?竜皮の縫い付けが出来る裁縫師はこの街にはいませんぜ?王都にでも行けば別でしょうが。アイデアも助かりますが竜皮加工をおやじさんがやってくれるのは大助かりっすよね」
「父さんが言うには手芸の範疇らしいよ。多少の裁縫は主夫の嗜みだって。多少じゃないんだけどね。俺も裁縫出来るけど竜皮はなぁ。頼むほうが早いし正確だからね。 今日はちょうどよく来てくれて助かったな。さ、みんな仕事に戻るぞ!」
おっ、振り返るとみんな集まって何やら話してるな。やっぱり新作に取り掛かるんだろうか?ハンガーラックで喜んで貰えたならなによりだな。
さて、帰ったら夕飯の準備だ。今日は何を作ろうかな?




