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第2話 奥様は剣豪です

本日5話投稿の2話目です

「ジョージ、今日はよろしくね?こればっかりは私もどうしようもないのよ……」


ノルとレーナはすでに家を出ておりセレスと二人。今日は珍しく護衛任務以外の仕事への同行だ。


基本、俺は戦えないし普段の狩りなら倒した魔物はそのままギルドへ提出するので片づける物もない。


護衛任務なら周囲との連絡調整や食事の用意など各種バックアップで役に立たないこともないが。しかし今日は魔物討伐の付き添いだ。魔物討伐の場合、俺はほとんど役に立たない。はずなのだが今回の対象の場合はいつも付き添っている。


そんな討伐対象である魔物はハロウィンという。まんまハロウィンで見かけるでっかいカボチャの顔を持つマントを羽織った化け物だ。


こいつが意外と厄介で通常、魔物は自分のテリトリー内から外には出てこない。素材などのために冒険者から討伐に行くのが普通だ。


だが中には外に出て来るやつもいてコイツもそうだ。特にコイツは悪戯というやっかいな特性を持っている。畑を荒らしたり物を壊したりと出現すれば被害が出る。


睡眠が必要ないらしく昼には人を襲い、人が出歩かない夜には物や畑を襲う。お菓子もあげても悪戯はやまないのである。あげる人もいないが。


「準備は終わったよセレス。ノル製鎧は少し重いけど。まぁ俺でも結構な魔物の攻撃にも耐えられる代物だからな。贅沢は言えないね」


「今回のハロウィン、昼は森の方にいるみたいだから少し急がないと夕方に帰ってこれないかもなのよ。だからちょっと急ぐけど、いい?」


「嫌とは言えないよなぁ。嫌だけど。でも森じゃ仕方ないよな。宜しくセレス」


本当は結構イヤだけど時間は大事である。夕方に帰れれば子供たちの夕飯も作って上げられるし。


護衛任務の時みたいに家を空けたり俺が作れない時はノルが作るんだが「肉!塩!焼く!」だからなぁ。


レーナはもっとひどい「肉!焦がす!」だからね。奇跡的に焦がさない場合でも味付けどうなってんの?だからなぁ。


なので外食になってしまうことも多い。たまの外食はいいんだが主夫のプライドってもんがあるわけよ。


という訳で街の外に出るなり俺はセレスにおぶさり、そしてセレスは全力疾走する。そっちの方が早いから。


おんぶされることは嫌じゃない。この世界なら女性の方が力があることだって十分にあるのだから。魔法もあるしそもそも力の性差がない。


嫌なのはめっちゃ揺れるし怖いんだよ。情けないかもしれないけどさ、想像してみて欲しい。100m3秒で走る人間の背におんぶされることを。


チーターの全速力が30分続くんだぞ?がっくんがっくん揺れながら。コレは何度やっても慣れる気がしない。


一回おんぶが怖いっていったらソリみたいに引っ張ってくれた。もっとひどかった。考えれば分かることだったと今では反省している。




そして30分後、俺たちは森の入り口にたどり着いた。ここからは人間ロデオから解放される。酔わないだけでもたいしたもんだと自分を褒めたい。


「本命を探すにはもう少し中に入らないといけないわ。それまでには色んな魔物に遭遇するかもだけど……数が多い時は合図するからいつもの感じでお願いね?」


「了解。まぁこの森で魔物に対して心配せずに進めるのは流石セレスだよな。俺一人じゃ絶対無理だなこんな森に入るの。国をも守る絶対の壁だけはあるな」


「そうね。鎧をも断つ剣筋たる攻撃と後背を守る絶対の壁たる防御。攻防一体である断鎧絶壁の剣豪セレスティーンとは私のことよ?だからジョージを傷つけることは絶対にさせないわ。安心して付いてきて頂戴」


本人が気に入ってるから別にいいよねこの二つ名。もとは絶壁剣豪と呼ばれてたんだよな。


それじゃあんまりだったんで鎧を断つってことで断鎧絶壁の剣豪という二つ名を流布したんだ。4字熟語っぽいの流行ってたし。


因みになんで絶壁の剣豪だったかはそりゃ絶対の壁だったからよ。俺は大好きだけどな、絶壁の剣豪。



この森には様々な魔物が出現する。昆虫系、爬虫類系などが多いな。あとは植物系。逆に悪霊系や人型は少ない。


人型魔物は慣れるのに時間がかかったなー。やっぱ現代人に異世界は基本キツイ。セレスに会えて本当に良かった。


あ、ヘビの魔物ビショーネだ。「一閃」切られた。蟷螂の魔物だ「一閃」切られた。蝶の魔物の群れ「千の太刀」全滅した。


速すぎるんだよなぁ。一閃はセレスの使う基本のスキルであり最速であるため弱い魔物はコレ一発で大体お陀仏。


千の太刀は無数の剣閃を飛ばす対多数の基本技だがセレスが使えば威力は十分以上。現れるなり切られていく魔物たちである。


売れる素材を持つ魔物はバックパックに素早く収納していく。コレは一緒にいる時は俺の役目だ。内助の功スキルには「無駄なく収納」があるからな


無限に入るアイテムボックスって訳じゃないが見た目以上に収納が可能だ。主夫たるもの収納術はお手の物ってな。


「ジョージ、ちょっと多めの魔物の群れよ。開けた場所に向かうから準備お願い」


順調な道中かと思ったが厄介な魔物に遭遇したみたいだ。俺は索敵みたいなことは出来ないので分からないがセレスは気配を掴める。


敵の気配が掴める主夫なんていないだろ?せいぜい値引きのタイミングが読めるくらいだ。嫁の怒るラインも読めるようになりたいです。


開けた場所へと向かう理由はその方がセレスが戦いやすいから。俺を守りながらという条件があるからだが。条件がなければセレスは戦場を選ばないだろう。


そして敵性魔物と対峙、エキドナの群れで十数体といったところだ。下半身がヘビで上半身は老婆である。この森では珍しい人型だ。しかも結構強い。


「それじゃジョージは私の後ろに。絶対に抜かせないから」


「頼むぜセレス?それじゃ俺は後ろにいるからな」


「オッケー。それじゃまず目くらましの千の太刀、続けて一閃、そんでもって三文字切りっ!」「三歩後ろ」


セレスが基本技から瞬時に右、左、右と剣を薙いでいく三文字切りでエキドナに先制攻撃を行う。


千の太刀は集団の動きを留め、続けて放った一閃は一体の動きを完全に止める。三文字切りは3体とはいかないが2体のエキドナを屠る。


そして俺は内助の功「三歩後ろ」で激しく動くセレスの常に3歩分後ろを追随する。なんだかなー、なスキル名だけど便利なんだよ。


セレスが囲まれないように動けばそれだけで俺の安全は約束される。セレスは圧倒的な強さで敵を屠っているがセレスの真の強みはそこじゃない。


真骨頂は機動性にこそあるんだ。常に優位な位置取りで相手に背中を見せない。ゆえに後背にいさえすればその者にとってセレスは絶対の壁となる。


だからこそ絶壁の剣豪。そして鎧を断つほどの攻撃力だって備えている。


「大分減ったけどリーダー格が残ってるわね。アレを切れば一気に瓦解するかしら?それじゃ……チェス盤切り!」


集団のなかでも一回り大きい体格のエキドナに僅か一歩で接近、そして大技。


エキドナリーダーは対抗するかのように腕を翳すが……無情にも腕ごと両断される。


並外れた技量での回避や受け流し、もしくはドラゴン級の皮膚の硬度がなければセレスの大技からは逃れられない。


リーダー格がやられたからか、その後はセレスさん大暴れで対抗策なくエキドナは殲滅された。


詳しい描写は内助の功「子供は見ちゃダメ」によってカットされたため俺の精神衛生も守られた。ゆーても人型は苦手なんだよ。


「さ、大物は倒したから暫く森自体がおとなしくなると思うわ。本命の気配もつかめたし、先に進むわよ」


セレスさん、男前っす。一生ついていきたくなっちゃうじゃんね。15年前からそのつもりだったけどな。




そしてエキドナ戦から10分でハロウィンを補足しそれから30分ほど。一体のハロウィンをセレスはまだ倒せていない。


それほどにハロウィンが強いのかと言うとそうではない。なんならエキドナより弱いくらい。


なら何故こんなにも時間が掛かっているのか?それはハロウィンの顔の表皮がドラゴン級に堅いから。


それでも両断なら出来るがそれをすると中身がぐちゃぐちゃになるから。なっても倒せるが素材がダメになる。


ハロウィンの素材はカボチャそのもの。ハロウィンカボチャの果肉は至上の美味なのであるからして。生きてる状態で果肉を取らないといけない、どこまでも厄介なやつなのだ。


レーナ謹製の過熱魔道具にて温めつつ弱らせるという手順を踏んでいるため時間が掛かっている。とは言え30分、世界最高峰の剣士、剣豪であるセレスの相手をしていたハロウィンはすでに満身創痍。


「ジョージ、ここまで弱らせれば大丈夫よ。表皮の加熱も十分。後は任せたわ」


その動きは俺ですら制圧できるほどに弱っていた。ここからは俺の仕事だ。


「それじゃあここからは魔物戦じゃなくて料理の時間だな」


そう言うと俺はノル謹製の包丁を取り出し皮むきを始める。カボチャの皮は温めてから切る。基本だな。現代日本ではレンチンだろうな。


なんなら包丁使わんでも切れるくらいにスルスルと表皮を剥いていける。そして果肉を切り分けつつバックパックに収納する。


哀れ顔を失ったハロウィンはセレスに両断され討伐終了。以上がハロウィン退治の要領だ。え?俺の出番こんだけ?って思うかもしれない。それならセレス一人でもイケるんじゃない?と。そう思われるかもしれないが……


セレスは野菜を切れない。果物も切れない。皮むきとかマジ無理。


リンゴの皮むきをすれば皮と残った果肉どっちが多いの?となりかねないし、ネギを刻もうとすれば潰すだけ。


半分に切る、くらいなら出来るかもだけどそれでも切り口は悲惨なものになる。魔物は奇麗に両断出来るのにね。


嘘みたいな話だけど本当なんですよこれ。なのでハロウィン退治の際は果肉保護のために俺が同行するって訳。


レーナは完全にセレス似ですね。間違いないです。セレスは野菜を切れないだけでなく料理全般できませんので。


ま、そんなわけで無事今回のお仕事は終了。その後は何の問題もなく森を出て再びセレスにおんぶされて帰りましたとさ。


因みに移動時に三歩後ろは使えません。数分なら持つけど持続させられません。生活力以外は貧弱なのよ俺。


そして夕方より大分前に帰宅できた俺は温かい料理を家族に提供できたのだった。


勿論主役はパンプキンスープ。めっちゃおいしかったです。

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