第15話 5人目の家族
「お父さんっ!!!」「ジョージ!!?」「おぬしっ!?」
古龍の拳が俺の身体を貫き、そしてその後に光に包まれる俺の身体。
その身体は光の中で徐々に元の姿へと修復されていく。一瞬だけど自身がグロ画像になるとは思ってなかったな。
なぜ身体を貫かれた俺がこのように冷静かと言うと。スタンピードの際にレーナが俺にくれたスクロールがあるからだ。
一度だけ致命の攻撃を回復するスクロール、だ。
一般人に近い俺がセレスですら吹っ飛ばされる攻撃をまともに受ければ致命傷を負うことは確実。
しかしそれ故にこのスクロールで無効に出来るというからくりである。
なお、このスクロールはあと9枚ある。古龍用の準備は何もしてなかったが普段からの用心が大事。火の用心と一緒だな。
ことが起こる前に準備をしておくのが一流の主夫だぜ?「こんなこともあろうかと」がいい仕事してくれたぜ。前回は仕事しなかったから今回で相殺だな。
「お父さんっ!何もお父さんが攻撃される必要なんて無かったじゃない!私だって致命避けスクロールは持ってるのよ?100枚くらい」
レーナよ、キャラがブレてるぜ。まだ小さかった頃、義理の親子ってことで呼び名に苦心してた頃もあったんだよな。
そんな時に地球での親の呼び名を色々教えてたら小さかったレーナはおとんおかん呼びを気に入ってそれ以来使ってたわけだが。
独り言ではお父さんお母さんって言ってたの俺は知ってたんだぞ?まぁ絶対に本人は恥ずかしいだろうから言わないけど。
それにそんなに焦ることもないだろ?親が子供に痛い思いさせたくないなんて普通のことだぜ?やせ我慢がばれてるんだろうけれどそこは気づかないふりしてくれよ?
腹を貫かれたやつはいないだろうから分からんだろうけど痛いって言うか熱い。あまり経験したくない痛みだったが……戦闘が続くなら何度でも身代わりになってやるぜ?痛い思いをするのは父である俺が引き受けるんだ。
レーナもスクロール持ってることは知ってるけどな、そんなこと考える前に身体が動いちまったんだよ。親ってそういうもんだ。そのうち分かると思うぜレーナ。
そして多分だけど、戦闘も続くわけじゃないと思うんだよなー。
「おぬし……大丈夫なのか?流石の我も焦ったぞ?遊びで殺してしまってはこの先何百年も目覚めが悪いところじゃったぞ」
……うん、やっぱり古龍が言ってた「遊び」ってのはまんま遊びの意味だったか。だって俺の身体を貫いたあとは驚いただけじゃなくて。
ずっとオロオロしてたもんなこの古龍。それはもう寧ろ気の毒になるくらいに狼狽してた。龍の表情よくわからない俺でもはっきりとわかるほどに。
「あんたにとっては遊びかもしれないけどな?こっちは必死だったんだぞ?ダメージ与えすぎて焦る姿を見るまでは遊びとも思えなかったしな。それにレーナは障壁魔法も苦手だしいくら手加減してようが絶対痛い思いしてたと思うぞ?あんたの遊びってのは相手を不快にさせてでもやるもんなのか?」
「いや、それは違うんじゃが……すまんのう、少し酔ってたかもしれん、いや、それはいいわけにならんかもしれん。でもな、お前が急に入れ替わらなければソコまでのダメージにはならないようにしとったんじゃぞ?」
「酔ってたって言い訳は分からんでもないがいい大人だろ?数千年生きてるんだろ?頼みますよ古龍さん。それにあんな圧を発してたら普通の人間は身構えるもんだ。
あんたらドラゴン基準は知らんけど今後はもう少しこっちも気遣ってくれ」
「いやまぁソコはドラゴン界隈では圧を発し合うのも礼儀のうちと言うか何と言うか。それにドラゴンの数千年はまだ子供じゃ。なんせ1000年くらい冬眠しながら生きていくからの。実働はまだ数十年じゃ」
なんか俺にわかりやすい言葉に変換する魔法でも使ってんのかな?実働とか冬眠とか。まぁそんなことはいいとしてだ。
流石に戦う空気は霧散してどこかのんびりとした空気になったことにようやく安堵出来る。
結構キツめにドラゴンを詰めてみたが別に怒ったりしないあたり本来は穏やかな龍なんだろうな。こっちも酔わせた責任があるっちゃあるしな。
「そもそも遊ぶか?と我が言ったのに先に切りかかってきたのはそっちのエルフじゃったぞ?もう少し話そうかと思っておったのに。貴様ら人間はいつもそうじゃ。我の話を遮ってすぐに戦闘したがる。じゃから我ら龍よりも好戦的な種族と認識しておったんじゃ。まぁ我も戦闘は嫌いじゃないからな。それならそっちで遊ぶかと思ったわけで。うん、よく考えたら我あんまり悪くなくない?」
うーん。龍の言ってることも正論っちゃ正論か?いやでもあんな圧かけられたら人間はビビッて自己防衛に走ると思うんだよな・
その辺は種族間の感覚の違いかぁ。理解して欲しいが向こうだってその辺は同じか。なら話を聞いてみるか。エルフ以上に感覚がのんびりしてそうな龍だが俺の傾聴力ならイケるんじゃないか?
「あのねぇ!あんなプレッシャー掛けといて先に切りかかったって言われても困るのよ。言わせて貰うけど喧嘩売ってきたのはそっちってならないかしら?」
「いやでも殺気はなかったじゃろ?お前の剣には殺気が籠もっておったがの」
あ、セレスさん反論できなくなってこっち見るくらいなら言わなきゃいいのに。いや気持ちは分かるよ。なんか段々と龍が調子に乗ってきてる感じもするし。
言いくるめようと思えば出来るだろうけどそれも違うしなぁ、異種族交流は俺たちなら出来ると思うんだよね。ゆっくり話合いましょ?
因みに言いくるめるスキルは主夫スキルにはないぜ?モンスターペアレンツスキルにあるみたいだがそのスキルはノーセンキューだ。
そうしてすっかりと緊張感を失ったさっきまで戦場だった、元宴会場で、大本は畑である空間で。俺たちは龍と異種族交流と言う名のおしゃべりを開始したのだった。
「というわけでな。そもそも龍というのはドラゴンとは微妙に違っていてな。それで我が魔法を覚えるきっかけについてだが……」
あれから5時間が経った。マール爺さんを思い出す強敵である。
あのあとノルがエルフの皆さんを援軍として引き連れてきた時にはすでに場はすっかりとなごんでおり全員が腰砕けした。
で、俺はこの龍と話してたから横目で見ていたがセレスやノルが必死に説明してエルフの皆さんに帰って貰ったんだ。
ただノルに食わせる予定だったコメを横取りされたと思っているエドモンさんの視線は殺されるかと思うほど鋭かったな。
そこはまぁノルになんとかしてもらって機嫌を直して欲しいところだ。
で、この龍の話を聞いてみたところ。
ドラゴンのなかでも知性の高い種族がいてそれが龍というらしい。ドラゴンはドラゴンなんだけどね。
それでそいつらは1000年単位の睡眠をとる時期と数年から数十年の普通に生活する期間を繰り返すらしい。
コイツは2回冬眠してるから数千年生きていることになるんだが起きてた期間は数十年、ドラゴン的にはまだ子供らしい。
10回ほど活動期間を経て一万歳を超えた龍が大人認定されるらしいがその辺ははっきりとした基準がない。そんでそんな単位での生活だから予想通りエルフ以上ののんびり屋だ。
すでに何時間も話をしているがこいつらにとってはちょっとお茶したくらいの感覚なんだろう。そりゃ人間とは波長が合わんわな。
セレスやレーナはとっくに飽きてそれぞれ鍛錬してたりなんか採集してたりと自由に過ごしている。3時間は前から「帰ろうよオーラ」も出している。
でももう少し……少しじゃないかもしれんが待っててくれ。俺はとことんコイツの話を聞くと決めたんだ、暗くなったら帰っていいからさ。
でも帰らないで一緒に居てくれて、話を誰かが聞いてくれる、ってのがコイツには必要だと思うんだ。話を聞いててそう思った。
龍ってのは家族と過ごす時間は非常に短いらしい。最初の冬眠までの十年くらい一緒に過ごせば生物界の頂点とも言える存在だ、
後は一人でやってけよ?みたいにそれぞれが自由に過ごすのが常なんだそうな。
でもそれって寂しいよな?
俺はこの世界に来て、それなりに特殊な力も得て、多分だけど一人でも生きていくことは出来たと思う。
でもセレスと出会って、ノルとレーナと出会って。一緒に暮らしてきたからこそ幸せになれたんだと思ってる。
一人ならここまで幸せを感じることも無かったんじゃないかな?
ずっと嬉しそうに俺に話しかけてくるこいつを見てると余計にそう思えてくるんだ。そして思うことがある。
コイツはきっと寂しかったからわざわざ畑を荒らしたりしてエルフに絡んでたんじゃないかな?以前にも人間と交流しようとしたが恐れられ戦闘になり。
それで自分で自分をだまして戦闘したり絡んだりを「遊んでいる」と認識していたんじゃないだろうか。本当はただ一緒に話をするだけで良かったのに。
そう思うと可哀そうにもなって来るし、妙に懐かれちまってるんだよな。
それで俺はセレスとレーナ、それに里へとエルフの皆さんを返して再び戻ってきたノルに、そろそろ帰るかー、と提案するとともにもう一つの提案を相談したんだ。
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「それじゃ、お世話になりました。また近いうちに来ますよ。里での役付ってことをアピールする必要もあるので暫くは割とこちらに来れると思います。ノルは一番仕事の都合が付きにくいですが、セレスやレーナはそこそこ来れると思いますよ?」
「そう、もう帰っちゃうのね。まだ1カ月くらいじゃない?でもまた来てくれるならいいのかしらね?1年とか空けちゃいやよ?そしたら私からそっちに行っちゃうわよ?サラちゃんも迷惑かけたらダメよ?なんならサラちゃんはずっとこっちにいてもいいのよ?」
今日はアレから数日、我が家に帰る日だ。ノルの最初の予定である一カ月でもあるしな。引き留めはいつものことだし多分またすぐに来れるだろうし。
街で面倒なことが増えそうな予感がするので。そしたら里に退避の予定だからな。サラちゃんへの引き留めはいつものことではなかったが。
お気づきかもしれないがサラは古龍だ。コイツは森で暮らすには好奇心が旺盛過ぎるし寂しがり屋さんだ。
きっとエルフの里の皆さんに迷惑を掛けちまう。そこで、だ。数千年生きているサラには悪いかもだがペット枠として家族になることを提案したんだ。
そしたら二つ返事でOKを貰った。曰く「毎日あんな料理が食えるのか?行く行く!ペットでも何でもいいぞ?もっと小さくもなれるし!」
流石に毎日あのレベルの料理は無理だぞ?まぁ森で獲物攫ったり作物そのまま食うよりは遥に美味いもん食わしてやるけどな。
それにエルフの里の特別職として龍の世話役にもなったし。これでより自由に生きる大義名分が得られるってわけだ。
なにせその証拠の龍が家にいるわけだしな。ギルドマスターの気苦労は少し増えるかもしれんが大丈夫、サラは賢いんだぞ。セレスと一緒に魔物退治にも参加予定だ。戦闘力は折り紙付きだしな。ウチの家族の反応も上々だ。
セレスは修行相手に最高!となったし。
ノルは生え変わる牙や爪や鱗を貰えるので最高!となったし。
レーナは龍の生態の研究とか最高!となったし。
まぁ欲もあるんだろうけどちっちゃいモードはめっちゃ可愛いしな。あの不必要に強烈な圧も抑えられてるし。
なんなら街の皆さんの癒しにすらなるだろう。喋るし。いいか?めっちゃ可愛いちっさい生物が喋るんだぞ?人気者確実だよ。
そんなわけで4人家族からサラを加えて5人家族となった俺たちは久し振りの我が家へと帰るのだった。
唯一未だにちょっとだけサラをにらんでくるエドモンさんの展開した転移陣に乗って。




