第12話 ガチで帰れないヤツ
里に来てから一週間。気づけばあっという間に一週間だ。
一応、お願い事はしてある。義両親から長への連絡はまだなんだが。
エルフの里では里長が一人と副里長が10人、そしてそれぞれに補佐役ってのが100人くらいいる。
里に住んでいる人は無役が多い。外に行くエルフ向けだ。この人たち基本のんびり屋さんなので外で国の役職とか凄い嫌がる。
そのため無駄に役職を増やして今に至る。ただ、一応そんな無駄に思える役職にも一応は義務があって強力な魔物やスタンピードがあった時の対応に呼び戻される義務が発生する。他には他国に攻められた時とかあるみたいだがもう何百年と他国との争いなんて発生していない。
魔物の方はたまに発生するが里の皆さんで退治出来ることがほとんど。実際には縁故のある人を呼ぶために使われる。
なのでセレスは外で活動しつつも役職は貰わなかったということになる。他のエルフは外で活動していても呼ばれたら呼ばれたらで暫く里で過ごすかーとなるのが普通らしい。
義両親も良い人たちなんだけどね。ただ行き過ぎたのんびり屋さんなだけで。
役職の件を長に話に行かないのも全く悪意が無いことは分かっている。この人たちの感覚だとすぐに頼んでみるよ、は1週間くらい。
その内なんて言われたら何カ月か先って感覚だから普通のことなんだ。それにあんまり急かすのも悪いし……義両親と俺の関係は悪くはないがやおおあり遠慮はあるじゃない?
セレスも諦めちゃってるしなぁ。まぁもう一週間くらいすれば流石に少しずつ急かしていく予定ではあるが。
なんて思ってたんだが、珍しく来客が見えたようだ。しかも里長。何か別件で来たのだろうがコレは僥倖。
ついでにこっちの件もお願いするようにしていこう。
「ドラゴン?本当にか?儂らの感覚でも久し振りじゃないか!で、どうするんだ?」
「あぁ、本当だ。今は先遣隊が向かっているが状況が芳しくない。さてどうしたものかと思っていればお前のとこのセレスが帰郷しているというじゃないか。セレスは役付ではないが腕は立つ。助太刀を頼みに来たという訳だ」
「それだったら丁度良い。実はセレス達からお願いされていたんだ。この子たちは今ヴェルデに住んでいるんだがややこしいことがあったようでな。役付にして貰えんかと相談に行こうと思っておったところなんだ。初仕事がドラゴンってのはツイてないがまぁセレスなら大丈夫じゃろ」
「そりゃ本当に丁度良いな。では補佐役に任命するから今回のドラゴン退治に協力するように。早速呼んできてくれ、第2陣に加わって欲しい」
ありゃ、滅多にないお仕事のタイミングでのお願いになっちまったか。まぁどうせ暫くは滞在する予定でもあったしそこはいいか。
それよりドラゴンか。ドラゴンは魔物のなかでも相当に強い。竜皮は堅いし爪や牙での攻撃も鋭いし魔法を使いやつもいる。
全身高級素材であるともいえるがな。エルフの里の皆さんは基本的に皆強いしセレスが加わるなら特に問題はないだろう。
普段の魔物退治だって多少は危険があるわけでそこまで心配することでもない。
寧ろあとどれくらい掛かるか分からなかった役を貰う話が進んで良かったってところだ。
……その時の俺はそう思っていたんだが、思ったよりも厄介なドラゴンだったんだよなぁ
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「もう!ぜんっぜん捕まらない!こんな厄介なドラゴン初めてよっ!?憎たらしいことに畑は荒らすわ、わざわざ罠に掛かった獲物を攫っていくわ。ドラゴンなんだから自分で狩りなさいよ!なんでそんな怠惰で迷惑かけんのよ?」
セレスさんが荒れておられる。どうやら非常に厄介なドラゴンらしい。
あの日、セレスはめでたく補佐役に就任したのだが。因みに式典みたいなものはない。長が一言これからは役付な?と言っただけ。
こんなとこも貴族的な面倒さは一切ないのはエルフのいいところでもある。
そんでもって即座に討伐に向かったわけだ。正直その日のうちに終わると思ってた。
しかし発見して近づけばその姿はふわりと消えてしまう。遠距離からの攻撃を試みれば不思議とかき消えてしまう。
討伐隊が補足していたはずなのに同時刻に畑の作物を食べて行ってしまう。狩人の獲った獲物を攫って行く。
まるでこちらがからかわれているかのように遊ばれているように感じてしまうのでセレスや討伐に向かっているメンバーは苛立ちを募らせている。
そして気付けば討伐が始まってから2週間が経っていた。被害も拡大してきている。
向こうでエドモンさんが「わしのコメがぁああ」と叫んでいるがエドモンさんの畑や田んぼも被害に遭っているらしいな。
ノルに食わせるはずじゃったのに、わしも討伐にいくぞ!と気炎をあげているが還暦過ぎなのに元気だな。まぁ身内が元気なのは嬉しいが。
それよりドラゴンである。こいつは知性が高いタイプで恐らくは幻術系の魔法を使用していると思われれる。
退治にはひと工夫必要かもしれないな、魔法であればレーナへの相談も必要だろう。
「多分だけど。使い魔と幻惑を使い分けてると思う。あっちこっちで目撃されてたりするのもそれが理由。本体は殆んど動いていないと思う。でも作物を食べたりしているのは多分本体。だから待ち伏せが有効なんだけど。待ち伏せしてると気づけば近寄ってこないかもしれない。思ったより慎重さもある厄介なタイプ」
「じゃあどうしたらいいわけ?気配察知も優秀みたいでこっちが気配を出来る限り消しててもきが付くみたいだし。罠に掛かった獲物を攫ってくくらいよ?罠も効かないでしょうね。ノルはなんかいい罠作れたりする?」
「うーん、そこまで頭が回るヤツ相手だとあんまり有効な罠は思いつかないかも?こっちの被害が大きくなってもいいなら畑に地雷埋めるとか?それも有効かどうかはわからないなぁ」
「巣を見つける。もしくは何かでおびき出す。一応ドラゴンが好みそうな香を今から作ってみる」
セレスとレーナに有効打は無さそう、レーナも香を作るらしいが自信はなさそうだな。他のまっもの大量に呼び寄せてもまずいし、そもそもドラゴン寄せの香って今までは無かったはずだ。
ウチのチートな家族たちをも悩ませるドラゴン。なかなか手強いじゃないか。エドモンさんも悩ませてるしな。
そう考えると俺も腹が立ってきたな……待てよ?龍退治か……
古典的って言うか昔話的な方法だが現状で有効な手段がないなら試してみるのもありか?
今のところあそこは荒らしに来てないのでもしかしたらこのドラゴンの好みには合わないのかもしれないが……
それでもやってみる価値はあるかもしれない。
「俺のいた世界では龍退治の割と定番な手段があるんだけど……試してみるか?」
俺がそう家族に相談すると案は採用され準備をすることになった。
どうやら食いしん坊さんなドラゴンみたいだしな。効いてくれることを祈るぜ?




