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第10話 妻と夫 力と責任

「どういうことなのよマスター?そもそも本人より先になんで大学やら他のところに情報が行くわけ?ジョージなんだっけ?あれ、あれよ。そう、個人情報保護どうなってるの?」


ギルドに向かった俺はセレスを発見、ことの経緯を話すとセレスも知らなかったということでそのままギルドマスター室へ。


そしてセレスは烈火のごとく怒ってるわけだが多分ギルドマスターは言ってたつもりだったんだ。褒章ってつまりそいうこともあるわけで。


勲章の授与くらいかもしれないし、叙爵まであるかもしれない。そんで大学だって「かも?」レベルなわけで。


言葉がなかなか出てこなかったセレスに親近感を抱きつつそんなことを考える。セレスの見た目は俺と違って若々しいからなぁ。こういうことでもないと一緒に歳とってる感がないんだよ。


「あー、すいませんギルドマスター。私の伝え方が悪かったかもしれません。セレスもあれだ、ちょっと一回落ち着け。俺たちは褒賞と褒章を勘違いしてたんだ。それによくよく思い出してみたら王都の返事待ちって言ってた。褒賞なら王都とのやり取りなんて無いはずなのに」


あの時は余計なこと考えながら聞いてたしなぁ。家族が褒められるの聞いてて上機嫌だったし浮かれてたのかもしれん。


セレスも言われて少し落ち着いた様子で寧ろちょっと起こりすぎたかな?と申し訳なさそうにしてる。割と脳筋だからなウチの嫁。



「そうです、私は伝えたつもりだったのですが、それでももう少し伝え方があったかもしれませんね。あと関係各所への連絡は許していただきたい。だってそうでしょう?セレスだけでも大戦果、それに加えて息子さんや娘さんも戦果に加えてそれぞれの分野での功績も大きい。平民に対してです、相当な功績とはいえ騎士爵とか一代限りの名誉爵位になるんです、普通なら。ただし一家全員となると私だってどうなるか分からない。今回の件はギルドの件というよりこの街全体の問題になるかもしれないのです。当然、領主様も貴族の方々も知ってます」


それはそうだよなぁ。そもそも今までだってウチの家族たちはそれぞれ街では有名だし王都にだってその名声は届いている。


ノルはこの街だけでなく国で最年少工房主だし工房の武器防具は騎士団で正規採用されてたり生活用品も国の発展に寄与してるレベル。


レーナもこの国で最年少博士号、その研究は王都大学でも及ばずヴェルデの大学は飛ぶ鳥を落とす勢いだったりする。


セレスだって以前から何度も王都に行くように言われていたし望めばギルドの役職や騎士団入り、それも結構な役職が貰えるくらいの実力はある。


全員もともとなんかしらの褒美を貰ったり叙爵の可能性はあった。騎士とまではいかなくても、親方だったり教授だったりなら士爵とか。


俺は、まぁ自分でも普通の主夫レベルではないことは分かってるけど家族と比べれば普通寄りだと思う。それにスタンピードの功績も無いしな。


そんで今回の場合だが。貴族になるとミドルネーム的なものが付く。武門系ならゲン、学術系ならヴィン、産業系ならトゥとか。それで〇〇爵とかも付く。家事系は勿論ないぞ?


ウチの場合はそれぞれ変わっちまうだろうけど、場合によるとセレスを準男爵にでもしてそれぞれが士爵。とかもあるかもしれないってこと。


そうなるとこの街の議会とかともかかわることになるかもだし確かに大事ではある。しかし、しかしだ。


ウチは家族全員がそれを望んでいない。だって考えてみて欲しい。いくら教育制度が発展している現代だったとしても。


明日からいきなり議員になって街の政治をお願いしますとか言われても「いやいや無理無理」としかならないだろ?


会社でさえ、まだ管理職にもなっていないくらいからいきなり社長になって経営して?って言われても嫌だろ?給料が上がってもだ。


そこ持ってきてウチは俺以外全員高給取り。そんで議会とかと絡めば本業の時間が削られて収入は寧ろ減る。そんで気苦労だけが増えるわけ。


名誉欲があったり生活がめっちゃ良くなりますとかだったらまだいいけどなぁ。名誉欲ないし仕事好きな家族だし生活水準も高い。


俺はそういったウチの事情をギルドマスターに相談し諸々説明をしたのだが……


「事情は分かりますけどね。今貴族やってる人たち、特に名誉爵位、私も含めてですが。好きでやってるわけじゃない人も多いんですよ。ただマスターなり親方なりやるには士爵以上が付いて来るし誰かがやらないといけない。やれる人は嫌でもそのうち順番が回って来るんです。力あるものには責任が付いて来るのです。あなた方の場合は遅いか早いかの問題でしかないと思いますが?」



そう言われると何も言い返せなくなり、俺とセレスはその場を後にするしかなかった。


しかし、考えなければならないことが多いなぁ。どうしよっか?取り敢えずセレスと相談だし子供たちとも相談しないとな。


気分は少し落ち込み気味だが家に帰ってこんな時用のお菓子でも食べるか。気分転換が必要だからな。


―――――――――――――――――――――――――――


セレスと俺はとっておきのクイーンハニーを使用したクッキーを食べながら今後のことを相談していた。


「ノルもレーナも嫌がるでしょうね。例え世襲できたとしても、あの子たちの考え方はジョージの考えに近いところがあるから。多分だけど自分達のこども、あたし達にとっては孫になるけど、その子たちには自分の力で自分の望む未来を歩ませようとすると思うのよ。世襲貴族はある意味安泰ではあるけど間違い犯せば没落するのは貴族も平民も一緒だし、レールの上の人生を嫌がると思うのよね」


「だよなぁ、俺の育て方が悪かったかなぁ……セレスには悪いことしたのかもしれないな。一応、俺もこの世界の常識とかはあったつもりだけど、どこかで前の世界の常識に引っ張られたのかもしれない」


少し落ち込む俺に対してセレスは


「そんなこと言うとジョージでも怒るわよ?あの子たちはジョージに育てられたからこそ今があるの。ノルは想像力豊かになったか怪しいし、レーナだって論理的思考だっけ?身に付けられたかわからないわ。

 あたしが一人で育ててたら……ちゃんと育てられたか分からないけど、もし一人だったら二人ともただの冒険者だったと思うのよ。戦える子だっただけになおさらね。でも、ただ戦いが強いだけの子なんかより、今のあの子たちの方がきっと楽しく生きてるわ。

 あの頃のあたしは……だめな母親だったからね。ジョージと出会えてなかったらと思うと、たまに怖くなるくらいよ。初めて会った時は弱い男だなとしか思わなかったけど。今は全然そんなことないけどね。私にはない強さを、貴方は持ってると思うわ。」


セレスに慰められる、後半のちょっとした惚気が聞けたのも嬉しいな。世界一強くてきれいな嫁に褒められるんだぜ?嬉しくないわけがないだろ?


それに懐かしいな、初めて会った頃のセレスか。


あのころの俺はポーターやってたんだ。それでセレスと会って。最初は戦えないの?足手纏いだけはやめてね?とキッツい感じで言われたな。


美人系のセレスがキッツい顔で言うもんだから結構ショックだった。でもポーターとしてはソコソコ使えたので徐々に軟化してくれたし。


何回か一緒に依頼を受けてそのうち弁当作るようになって。そんで子供たちの分も弁当作ってと頼まれて。そっからさらに子供の面倒見るようになって。


その頃はセレスの両親に見てもらってた子供たちだが徐々に俺との時間が増えて。小学生くらいの年になるころには正式に父親になってた。


それで平民は特に学校に行く世界でもなかったんだけど、うちはセレスの稼ぎが良かったので時間があったんだ。普通は子供も両親の仕事を手伝うもんなんだけどね、


その時間を使って少し現代日本での都筑も活かして子供たちに教育も出来たってわけ。レーナの研究はすでに俺の理解を超えているが考え方なんかは教えられたし。


ノルが若くして工房主になったのもある程度は教育の成果なんだと思う。それをセレスに肯定して貰えたのは、やっぱりうれしいな。


そうだ。ノルもレーナも、セレスの子で俺と血のつながりこそないが、それでも俺の子だし俺たちの子だ。


二人とも立派に育ってくれてるわけだし、さっきセレスが言った孫のことだってもう現実的な話だ。家の話なら一緒に相談するのもいいかもしれないな。


まぁ孫についてはレーナは男っ気が全くないし、ノルは逆に遊んでる節があるからな。そこは両極端な兄妹なんだけど。


―――――――――――――――――――――――――

 

「俺は親方のこと見てたからね。工房持ってるし、従業員が増えてきたらいつかはギルドの役職も覚悟してたから。そりゃ親方も事務仕事や議会やらの仕事は面倒だってぼやいてたから良くは思ってないけどね。それでも必要なことなら仕方がないかなって思うよ」


「私は別に何でも構わない。大学でも教授たちは好き勝手に研究してる。私も同じようにするだけ」


ノルは親方の姿を見てたから理解してるってことだし、レーナは教授たち見てるから特に気にしないと。


子供たち二人は俺たち夫婦よりよっぽどしっかりしてた。レーナのはちょっと違うかもしれないけど。


「あたしは嫌よ?今のマスターは同世代だし貧乏くじはあいつに任せてあたしは好きにやっていけると思ってたのよ。そりゃ少しは後進の育成くらいはするわよ?でも事務仕事は本当にイヤ。そしたらジョージに丸投げするから覚悟しておいてよね?」


……子供たちの方がしっかりしていた。


セレスはあの苦労性っぽいマスターがいるから自分は大丈夫と思ってたらしい。それに俺の仕事は家事であって事務仕事代行ではないぞ?


「あ!そしたらさ。おじいちゃんたちに相談してみるのどうかな?里の仕事をやってることにしちゃえばなんとかなるかもよ?俺とレーナは仕事の関係上、最低限の爵位はそのうち必要になるかもだけど二人はそうじゃないでしょ」


ノル!ナイスだ!


そうだ、エルフの里の自治権を利用するのか!確かにそれならイケるかもしれない。


セレスは嫌がるかもしれないけどそこは叙爵とのトレードオフだ。諦めて貰おう。


「それはいい考えかもしれんな。流石はノルだ。でもどうする?里に行くとなると恐らく相当家を空けることになるぞ?工房は大丈夫なのか?行き来の手段があればいいんだが……それにレーナも、レーナは大丈夫かな?」


「あぁ、それならちょうど考えてたことがあってさ。この間話した部門の話を進めることになってさ。事務仕事なんかも任せ始めたんだ。それで俺がいなくても大丈夫かどうかを試す期間に使うと思えば少しくらいなら大丈夫。……少しならね。まぁ、一カ月くらい?で、済むなら……」


「私はまったく問題ない。長期のフィールドワークと言えばどうとでもなる。数年帰ってきていない教授もいるから、1年くらいは大丈夫」


「あたしは……我慢するしかないわね。いやあたしだって一日二日なら全然問題ないわよ?でも、ねぇ?まぁでもノルの考えはいい考えだわ。


 マスターには里帰り兼、向こうでの依頼を頼まれたって言えばどうとでもなるわ。それに、そういうことなら急がないとだものね」


エルフの里、つまりセレスの実家である。そこでのやりようによっては今後の我が家の平穏が約束されるかもしれないのだ。


それならばやってみる価値はあるだろう。準備をしないとな。


ただなぁ、あそこは時間の感覚がなぁ……物理的な意味じゃなくて精神的になぁ……


少なくともノルだけは工房もあるし、一カ月だな。うん。俺たちは最悪延長もあると考えておこう。


そして家族それぞれが準備を始めることになった。ノルは工房の、セレスは冒険者ギルドの、レーナは大学のあれこれ。


俺は家族全員分の必要なものや義両親と里の皆さんへのお土産、その他長期逗留に必要なものを準備し、その日を待つのであった。

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