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第1話 ウチの休日の定番はピクニックです

本日5話投稿の1話目となります

「おかん、おにい、ちょっと釣りすぎた。半分あげる」


今日は休日、家族全員でピクニックだ。俺の特製ランチパックが開けられて中にはサンドイッチや空揚げ、娘のお気に入りのたこさんウィンナーだってあるぞ?


そんな娘はほら、楽しそうに大量の魔物を引き連れている。引き釣ったともいう。俺の顔は引きつっているが。


「調子に乗り過ぎだぞレーナ。父さんがいるのに危ないじゃないか。あ、俺そっちのゴーレムの群れ貰うわ。鉱石欲しかったんだよ」


「えぇー、ゴーレムとか試し切りに良さそうじゃない?母さんに頂戴よ。ノルに作って貰った新作の剣の切れ味がみたいのよ」


「母さん、ゴーレムは切るもんじゃない、叩き割るんだよ?剣の切れ味ならあっちのオーガでもいいじゃん。まぁ母さんなら何でも切れるだろうけど」


「しょうがないわねぇ、じゃあ母さんあっちに行くから。あ、ジョージはしっかり昼ごはん確保しといてねー」


はいはい、と俺はランチパックを手に取ってその場を離れる。妻と息子はまだしも娘はきっと大規模魔法使うからな。埃塗れにするには惜しい出来の昼飯なんだ。


この世界に来た当初なら真っ青になりながら全力で逃げていたところだが俺も慣れたもんだなぁ、と思う。愛する我が家族たちのチートっぷりにもだ。


身の丈5mはあろうかというゴーレムの群れは息子のノルベルトの振るう大槌に粉砕されている。

うわぁ、一撃で5mある巨大な石像が崩れてる。それにどうしてウチの息子はあんなでかい石の塊の振り下ろす腕を簡単に弾き返せるの?


ゴーレムよりは小さいが2mを超す大柄でありながら足も速く武器も使う、普通の戦士なら1匹でも苦戦する10体以上のオーガだが。すでに妻のセレスティーンの振るう新作の剣によって半分以上が地に伏せている。

あれ?今2体同時に切ってなかった?なんで上から切り降ろして2体同時に真っ二つになったんだろうね?最近目が霞むからなぁ。老眼かな?


そして狼やらコボルトやらゴブリンにスライム。ファンタジーにありがちな魔物たち(ただし大量)は目に入れても痛くない我が娘レーナの放った風魔法によって空を舞っている。

ほらやっぱりデカい魔法使ったじゃん。あのまま移動していなければこの昼ご飯は埃塗れ確定だったよ。心配するところが違う気もするが気のせいだよね。


まぁ数分もあればスタンピートと見間違うほどの魔物の群れたちは沈黙することだろう。俺も言葉が出ないほどだ。


ある程度の距離を戦場、と言うよりは狩場か?から稼いだ俺は再びシートを広げ直し魔物たちが蹂躙されていく様を眺める。


みんな強えな。すでに掃討戦へと移行してらぁ。妻のセレスは出会った頃から強かったが子供たちもえらく強くなったもんだ。




ああ、そうそう、実は俺は異世界転移でこの世界にやってきたんだ。


ジョージ・モーリス43歳。「もりす」って言っても皆「モーリス」って言うからモーリスにしたんだ。じょうじがジョージは言わずもがな。


平成日本から剣と魔法の世界への転移だ。色々と驚きと苦労の連続だったが、すでに転移から15年。すっかり慣れたもんよ。


逆に慣れ過ぎちまって目の前で行われている普通じゃない光景が家族の日常に見えるくらいは慣れ……ればいいなぁ。


でも実際に転移してすぐのころは本当に大変だった。なにせ魔物っていう拳銃持ってても対峙したくないやつが普通にいる世界だ。


因みに俺に戦う力はない。戦闘の魔法も使えないし。一応多少は護身術を身に付けようとセレスに剣の練習をして貰ったけどたいして上達しなかった。


生活面でも大変だった。近世くらいの技術はあったが平成日本のような科学技術なんてない。社会制度だって現代人の感覚とは違う。


仕事一つ探すのだってコネやらなんやら必要だし、転移時に30歳手前だった俺に普通の職なんて望むことさえ難しかった。


だから下働きをやってたんだ。荷物運びやら下水処理やらなんでもやった。日本で介護やってたからな。汚物や血への耐性があったのは幸いだった。


そんな時にセレスに出会った。クリスは金髪碧眼長耳の日本では見たこともないようなスレンダー美人だった。エルフだし日本にいるわけないんだけど。


俺にとってエルフのイメージは魔法や弓だったがクリスは剣豪だった、腕力だって半端ない。夫婦喧嘩ダメ、絶対。


美人で腕も立ったが気性は凄まじく荒かった。当時24歳、夫に先立たれまだ5歳と3歳の子供を育てながら冒険者やってたんだ。ストレスは尋常じゃなかったんだろう。


そしてなんやかんやあってベビーシッターの真似事みたいなことをすることになって。幸いにして子供にも懐かれて、いつしか穏やかになっていったセレスと俺は惹かれあい。


セレスの再婚相手に見事選ばれた俺は世界一の幸せ者だろう。


そして戦闘力はなかったが生活力のあった俺は主夫として二人の子供を育てることになり。こうして平凡ではないが幸せな家庭生活を送っているわけだ。


そんな昔のことを思い出していると魔物は全部すっかりと退治されており、取り敢えずお腹も空いたしご飯食べよっか、とこっちに歩いて来るところだった。


「いやー大量大量。これで暫くは鉱石には困らないかも?じっくり鍛冶に専念できるよ。母さん、その剣どうだった?問題なさそうなら次は鎧でも仕上げようか?」


若くして工房を持ち街一番の鍛冶師となっているノルはゴーレムの残骸を見て嬉しそうに言う。鍛冶の腕だけじゃなく戦闘力もチートな自慢の息子だ。因みに彼女募集中だ。最近また別れたらしい。


「今回の剣も切れ味十分ね。母さんもう武器はノルの作ったものしか使えないわ。鎧は今のところ大丈夫かしら。あ、でも籠手が欲しいかも。軽いやつが欲しいのよ。耐久力も必要だし。ちょうどあそこのミスリルゴーレムから作れそうじゃない?」


俺と4つしか違わないのに、全く歳を取らないセレスは美しい長髪を靡かせながら先ほどの戦闘を振り返りノルと新しい武具の相談をしている。貴女、まだ強さが必要なんですか?もう国でも一番って噂じゃない?


「いいフィールドワークだった。新作の魔物寄せの香は効き過ぎることも分かった。おかんやおにいがいなければ危ないところだった。あとおとんも私のたこさんウィンナーをしっかり守った。MVPをあげる」


魔術師にして魔道具研究家。18歳にして日本で言う博士号持ちの天才少女である我が娘レーナは研究が進んで上機嫌だ。世の男どもよ、嫁にはやらんぞ?


ピクニックというかそれぞれが半分仕事みたいな休日を過ごしているが我が家ではこれも大事な家族の交流であり娯楽なんだ。


俺だって存分に料理の腕を振るえるし、妻の美しい剣技や子供の成長を見れて嬉しいしな。


「レーナよ、たこさんウィンナーがお気に入りなのは知っているがそれはウィンナーを切っただけだ。こっちのだし巻き卵とか父さん頑張ったんだよ?あと唐揚げもレーナの好みに合わせてニンニク抜きの砂糖多めで美味しいよ?ポテサラもリンゴ入りだよ?あとMVPありがとう」


「おとんの料理は美味しい。それは知ってる。全部美味しいはず。だから見た目は重要。たこさんウィンナーの可愛さは異常」


レーナは喋り方こそ独特だけど見た目はハーフエルフだけあって非常に愛らしい。背は小さいが大学でもかなり人気があるらしい。


この世界では18歳は結婚したっておかしくない歳だ。それにいずれは連れてくるのだろう、彼氏というやつを。俺は許せるのだろうか?


でもレーナだからなぁ。研究大好きっ子だから今のところ全く男っ気は感じない。安心もするがいずれ結婚して幸せになって欲しいし、複雑だ。


「リンゴ入りかー。俺は無い方が好きなんだけどなぁ。父さんはレーナに甘くない?ってこっちのは俺の好きなシンプルなマッシュポテト風じゃん!流石父さん、面倒でも色々作ってくれるよね、ピクニックとかイベントごとになると。だからピクニック好きなんだよな」


「ああ、それとこっちの豚バラ煮込みは別にタレを用意してあるぞ、ノルの好きなニンニク醤油風味だ。ほどよく油も抜いてあるから冷めても脂身の食感はサクサクだ。今日の自信作だぞ?」


おおっ!と顔を輝かせてパクつくノル。高身長で細マッチョ、大分前から俺は見上げる側になっている。そしてイケメンである。すでに何人か恋人を紹介してもらったこともあるが現在はフリー。モテるが続くかない理由は見た目が超絶爽やかイケメンなのにガサツだかららしい。


ギャップはモテる要素のはずだが逆っていうかマイナスのギャップは受けが悪いらしい。そんでモテるからあまり反省もしないという。モテるというところは羨ましい限りだが俺にはすでに最高の妻がいるからね。悔しくなんかないぜ?


「あらジョージ、ならあたしの好物もあるわよね?あたしのカンではこのロールサンドのなかに……あった!ロービーサンド!愛してるわ、ジョージ!」


「セレスは昔からこれ好きだったからな。あと新作のホワイトベリージャムのサンドもあるから試してくれ。甘い系だからあとがいいかな?愛するセレスのために日々研鑽を積んでるんだぜ?あ、ノルとレーナの分も勿論あるからあとで食べてくれな」


セレスさんや、サンドイッチで愛を確認しないでおくれ。でも愛してると言われて悪い気はしないどころか嬉しいぜ。


この辺のノリは海外の感覚に近いのかもしれないな。海外のこと良く知らんけど。イメージな、イメージ。俺も愛してるとか直接的な表現をすることへの抵抗はすでにないからな。


こんな金髪美形家族に囲まれた俺は黒髪フツメンというかフツオジだが、この世界では異種族婚も普通なので違和感はない。


こうして用意したランチを楽しく食べている姿はごく普通のピクニックの光景と言えるだろう。


ほんの少し離れれば魔物の残骸が大量に転がっていることや、それに魔物が寄ってこないように広範囲に結界が張られていたりすることを除けば。


結界はレーナが担当してるがこんな広範囲の結界、一般人が使うやつじゃないんだよなー。そこだけ王族みたいな感じ。


レジャーシートはペラペラなのに何故か柔らかいし(ノルが作った)周囲には花が咲き誇ってるし(レーナの実験の結果)


精霊たちが歌ったり踊ったりしているのを眺められるのは王族でも簡単にはできない(セレスは精霊の加護持ち)


熱々のコーンスープを飲みながら改めて家族たちのチートっぷりに感謝である。ノルの力作「冷めないスープボトル」の賜物だね。


「うーん、このジャムサンドも美味しいわ。ホワイトベリーって最近の品種よね?稼いだ甲斐があるわー。さて、そんじゃノル、レーナ。あそこの残骸から素材を取って来るわよ?もう食べ終わるころでしょ?それじゃ、ジョージは後のこと宜しくね」


ホワイトベリーは確かに新種で甘みも強い美味しい果物だが我が家の収入では全く問題ない。クリスはハイスぺ過ぎるからなぁ。それにそれなりに値切れてるしお付き合いもあるからそこまで高くはなかったんだぜ?賢い買い物は主夫の嗜みよ。


子供たちも食べ終わったようで素材採集に向かう。俺は片づけ担当だ。


「お片付け」


俺は自身の持つ唯一のスキル「内助の功」の能力の一つ「お片付け」を使用する。


すると一瞬で広げたレジャーシートもランチパックもバッグに収納されていく。


一見便利なスキルなんだが初見の作業は出来ないんだよな。ただピクニックは毎月行っている我が家の定番行事だ。なのでピクニックの片づけなんかは一瞬だ。新しい道具なんかがあるだけで使えなくなるが家で予行練習しとけば問題ない。


家族と過ごす時間を長くとるためにはみんなが仕事している時にこういう裏方作業もしとかないとね。優秀過ぎる家族たちだから少しでも貢献したいのですよ。


さて、あとは向こうの作業が大体終わったら今日のピクニックも終わりかな。帰るまでがピクニックだ。帰りのおしゃべりも楽しもう。



「それにしても今日は随分また大量ねレーナ。もうちょっと効果は調整しときなさいよ?ジョージがいなかったら日が暮れても処理できないかもよ。素材以外の残骸をこのままにしとけば間違いなく通報ものよ?」


「効果が強すぎたのは反省してる。それにおかんとおにいと一緒なら倒すのは問題ない。後処理はおとんがいる」


「素材になる部分以外の方が多いからね。この量ですら一瞬で埋めちゃうお片付けって十分チートだよね?父さんは自分のこと一般人っていうけどさ。それにホワイトベリーのジャムサンドってあれさ、魔力の回復量えげつないんだけど?すでにほぼ全回復してる気がするんだけど?」



お、向こうは何やら楽しそうに話してるなー。こっちは精霊さんにお礼言ってお土産渡して次回も宜しくしといて、っと。


生態系崩さないようにレーナの実験で咲かせたお花も可哀そうだがもとに戻してっと。そしたら向こうに行って魔物の残骸お片付けすればやるべきことは終了、のんびり帰るとしますか。


お風呂の準備は終わってるから皆に先に入って疲れた分を癒しても貰らって……今日のアロマは疲労回復系かな。


あ、素材回収終わったみたいだな、じゃあ最後のお仕事だ。今日は楽しかったな。



明日からまた日常に戻るぞー、みんなが頑張れるように俺も内助の功で支えるからさ。俺だってやれることは精一杯やるんだぜ?


そして帰り道の雑談を楽しみながら俺たち家族は家路につくのだった。


拙作をお読みいただきいただきありがとうございます。


話が動きだす5話目までを本日中に投稿予定です。

4話までの家族とのエピソードもお楽しみいただければ幸いです。

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