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4:猫




それから、特になにも変わりがないまま2か月が過ぎた。

・・・本当になにも変化がないのだ。

私は相変わらず誰に心を開くでもなくその場その場でその人に合う自分を取り繕いながら、誰に愛されるでも嫌われるでもなく生きていた。

仕事は順調だし、彼氏ができたなどのプライベートでのトピックもない。


強いて言うなら、2か月という月日が流れたことで季節が春から夏に変わり、衣替えをしたことだろうか。

・・・めちゃくちゃどうでもいい変化である。



今年の夏は例年と比べ特に暑いらしい。

それに加えて梅雨に雨があまり降らなかったこともあって水不足、暑さと降雨量不足で野菜や果物が上手く育たず食料不足、と散々な年となっていた。


食料品の高騰はイタイが、気ままな一人暮らしで給料もそこそこな正社員である。

さほど暮らしぶりに変化は出ていないのであまり気にしてはいないが、この暑さは本当に問題だ。

寒いのには対策ができるが暑いのには対策にも限度がある。熱中症で倒れる人も今年は特に多いらしい。私はニュースもあまり見ない質だが会社のみんなが口々に暑さへの文句を言うので、嫌でも耳に入ってくる情報だった。


とにかく暑いのでクーラーはもはや必須。

今日もこれから出勤だが、会社が徒歩圏内にあるので私は徒歩通勤である。部屋の外の灼熱地獄を介さないと出勤ができないと思うと本当に億劫である。


とはいえ、「暑すぎてしんどいので会社休みます」というわけにはいかない。

覚悟を決めて、灼熱地獄に足を踏み出した。





ーーーーーーーーーー





思った通り、今日も灼熱地獄だった。


会社はもちろんクーラーが効いているため、これから帰るためにまた灼熱地獄を介さなければならず億劫になっている所である。

でもまあ、出勤よりは帰路につく方が気は楽だ。


「仕方ないから帰るかぁ・・」


雲で覆われ星が見えない真っ暗な夜空に向かってひとり言を呟き、私はまた足を踏み出したのだった。







自宅と会社までの徒歩時間、およそ15分。


5分ほど歩いた頃だったろうか。

顔にポツッとなにかが当たった。頬に当たったそれを確かめると触った手が濡れた。


ーーー雨だ。


そう確認した瞬間だった。

ザーーーーっ!とすごい勢いで雨が降り出したのだ。スコールのようなその大きな雨音にはゴロゴロと雷の音も混じっているのが聞こえる。


多少の雨なら冷たくて気持ちいいと思えたかもしれないが、とんだスコールである。

雨粒が大きく勢いがあるので当たると少し痛い。散々だ。早く帰りたい。


鞄は耐水ではないので、中身が濡れてしまわないよう鞄を胸に抱えながら走って家路を急いだ。






あと少しで家に帰れる、目の前に自宅マンションが見えてきたそんな頃、

大きな雨音に紛れて「ニャー」と小さくか細くなく声が聞こえてしまった。


ーー猫がいる。

この大きな雨音だ。どこか屋内から聞こえているはずがない。猫がこんな土砂降りの中、外で雨に打たれている。

私でも少し痛いと感じるほど大きくて勢いのある雨粒は、体の小さい猫にとってどれだけの衝撃だろうか。

そう考えてしまったらもう放っておくことはできなかった。


声の聞こえた方へ踵を返すと、電柱の明かりにうっすらと照らされた段ボールに入った猫を見つけた。捨て猫のようだ。

元の飼い主はきっとこの暑さだからせめて日陰に置こうと植木の陰に段ボールを置いたに違いない。

それが仇になって誰にも見つけてもらえなかったのだろう。

・・・この暑さで外に段ボールで猫を放置すること自体がどうかと思うが・・。


怯えさせないように少し歩調を緩めて猫のもとに向かう。

猫は人に慣れているようで、ある程度の距離まで近づくと自分から近寄ってきた。


飼わない。飼わないが、この天気の中で外にいるのはかわいそうだ。

今日だけ私の家を宿として貸してあげよう。


猫をそっと抱き上げて、鞄と同じく胸に抱えできるだけ雨が当たらないようにしながら、今度こそ走って家路についた。







読んでいただきありがとうございます。


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