第一話 「再会・初陣・咆哮」
「君は南雲青太くん・・・であってるかな?」
「えっ、はい・・・そう、ですけど・・・」
15歳の少年、南雲青太は登校せんと開けた玄関扉の先で、見知らぬ男に名前を言い当てられ間の抜けた返事をしていた。
「僕は立花宗助。君のお父さん、南雲群青司令の部下をしている者だ。」
「父さん・・・父さんのッ!?」
父の名を挙げられ、青太に先程まであった朝特有の眠気は一瞬で吹き飛ぶ。
それもそのはず、とある研究機関に所属していたらしい父・群青は5年前のある日突然、”家には帰れなくなった。”とだけ寄越して以降、生活費を振り込むのみで顔を見せることも連絡を寄越すことも今日まで無かったのだ。
「青太―?・・・あら、立花くんじゃない!」
「お久しぶりです。」
玄関に様子を見に来た母・晴香のリアクションから父の関係者なのは間違いないらしい。
「うちに来たってことは・・・夫からの指示かしら?」
晴香からの問いに、にこやかだった立花はスッと真剣な面持ちになり答える。
「ええ、”至急、私の息子、南雲青太を連れてこい”とのことで。」
「申し訳ないけど、お引き取りねg・・・」
「行きます。」
「青太!?」
「5年ぶりに父さんから連絡寄越したんだ、会って色々話すチャンスだよ。」
「でも・・・。」
「大丈夫、父さんに”家に帰って顔見せろ”ってガツンと言ってやるよ!」
「・・・決まりかな?」
立花に顔を向けなおし、青太は強く頷いた。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
重々しく分厚い隔壁に覆われた”怪人殲滅機関 M・E・A(Monster・Extermination・Agencyの略)”本部、その通信指令室にて司令たる南雲群青は部下たちに現状を問う。
「透子の容態は?」
「先の戦闘の負傷はやはり大きかった模様です。意識ははっきりしていますが、即日復帰は厳しいかと。」
黒髪を長く伸ばした女の返答に「そうか。」とだけ返し、今度は茶色のミディアムカットの女に視線を投げる。
「・・・M・E・S制式初号機の調整はどうだ?」
「調整完了済み、十中八九稼働問題ありません。今動ける人間に適合者がいないことを除けば、ですが。」
「むぅ・・・。」
「やはり、お前さんの息子に頼るほかないやもしれんな。」
無表情のまま腕組みをする群青に、傍らの細身の老人が投げかけたその時───。
「司令、青太くんをお連れしましたよ!」
指令室と廊下を隔てる分厚い自動ドアが開き、先ほどまでの神妙な声色の会話とは打って変わった立花の明るい声が響き渡った。
「噂をすれば、だな。」
老人は微笑するが群青は表情を崩さない。
「ご苦労・・・もう少し声は小さくしろ。」
「・・・父さんっ!!」
先ほどの立花よりさらに大きい叫び声と共に駆け込んできた青太。指令室の最奥にして最も高い位置のデスクを挟んで、父と5年ぶりに対面を果たしたのだった。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
5年ぶりの再会。
様々な感情を内に渦巻かせながらも、青太は真っ直ぐに父を見据える。そんな息子の姿を暫し、まじまじと見た後、群青は重い口を開いた。
「青太、M・E・Sの装着適合者として人類の敵”リフレイン”を殲滅しろ。そのためにお前をここに呼んだ。」
「・・・・・・・・・それだけ?なんで5年も帰ってこなかったかとか、母さんに申し訳ないとか、もっとこう、ないの?」
親子の5年ぶりの再会を固唾を飲んで見守っていた面々に緊張が走る。口調こそ抑えられているものの、青太の声に怒気が混ざっているのはその場の誰の目にも明らかだった。
(司令・・・!?)
(あれ、感動の再会的なシーンじゃない・・・のか・・・?)
(ハァ、息子さんの反応も無理ないわね・・・)
「そうだ。私がお前に求めることはさっき言った通り。それ以上話すことなど、ない。」
群青がそう言い終わるのが先か否か、青太は父のスーツの胸ぐらを掴んでいた。
「───けんな・・・ふざけんなよ、クソ親父ッッ!!!!!5年も!!!妻と息子を!!!ほったらかして顔も見せず連絡すら拒んでたあんたが!!!再会した息子に言うことがそれだけなのかって聞いてるんだよ!!!!!答えろ!!!」
顔を真っ赤にして怒鳴り散らす青太を前にしてなお、群青は無表情のまま視線をそらさない。
胸ぐらから右手を放し振り上げた青太の握りこぶしを、立花が背後から掴んで静止した
「落ち着け。」
「放せよ、これは俺と!!このクソ親父のこt・・・!」
青太の怒号が言い切られるのを待たずして、けたたましい警報音と共に天井の赤いランプが激しく明滅した
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
耳をつんざかんばかりに、市街にけたたましく鳴り響く警報音。この街においてこの音が意味するもの、それは───。
リフレインの出現である。
「リフレイン出現、周辺の皆さんは速やかに避難を行ってください!繰り返します、周辺の皆さんは・・・。」
放送に促され逃げ惑う人々と入れ替わるように、“M・E・A”とそれぞれに刻まれたヘルメットと防弾チョッキ、そして機銃で武装した集団が躍り出る。
「目標確認!」
彼らが構えた銃口の先に、人々がリフレインと呼ぶ存在は佇んでいた。
シルエットは大柄で筋骨隆々な人間を思わせるがその体表は漆黒に染まり、顔面と胸部は髑髏と肋骨を思わせる白いパーツで覆われている。そしてその顔に口や鼻と思しき部位は見受けられない。
その異容の主は何か言葉を発するでも、はたまた恐れや警戒を感じさせるでもなく、陽光に熱されたアスファルトにゆっくりと歩みを進め部隊に近づいてくる。
「殲滅開始ッ、撃てええっ!!」
勇ましい合図とともに力強く握られた機銃たちが一斉に火を噴いた。おびただしい数の弾丸はそのほとんどがリフレインの肉体を抉っていく。
しかし弾丸の雨が確かに開けたはずの傷は、隊員たちを嘲笑うかのごとく瞬く間にふさがっていった。
「・・・ッ!バケモノめ・・・!」
そう誰かがつぶやいたのも束の間、リフレインはかざした孔の空いた掌から一発の光弾を放つ。着弾したソレは眩いばかりの光とともに炸裂、機銃が、メットが、そして隊員たちの肉片が宙を舞った。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
時を同じく、M・E・Aの通信指令室の大型モニターには、その戦闘と呼ぶのも憚られる蹂躙の様が映し出されていた。
「攻撃部隊全滅・・・!」
「南雲司令、琴峰指揮官、いかがなさいますか!?」
オペレーターたちの絶望的な声色の報告を受けて黒髪ロングの女、琴峰美緒は内心歯嚙みする。
(分かっていた・・・M・E・S以外の一般兵器では奴らの殲滅は不可能なこと・・・時間稼ぎにもならないってことぐらい・・・!)
美緒は再び南雲親子の方へ目を向けた。
モニター越しの惨劇に立ち尽くす青太に群青は淡々と語りかける。
「奴らはM・E・S以外で倒すことはできない。そして今この場において、M・E・Sを起動できるのはお前だけだ。・・・こうしてお前がくだらん口論をしようといる間にも人は死んでいくぞ?」
「・・・ッ!」
「その必要はないわ・・・私が出る・・・。」
「透子!?あなた・・・まだ動いちゃだめよ!」
透子、と呼ばれた淡い水色のショートヘアの少女は息も絶え絶えに、開かれた分厚い自動ドアに手をついていた。
「心配ない・・・これは私のやくm・・・!」フラッ
「おい、大丈夫か!?」
膝から崩れ落ちる透子を、いち早く駆け寄った青太が抱き寄せ支える。腕の中の少女のその華奢な体には至る所に包帯が巻かれていた。
駆け寄った青太の俊敏かつ身軽な動きに、同じく駆け寄らんとしていた宗助や美緒たちは目を見張る。その視線には目もくれず、再度父を睨みつける青太。
視線の先の群青が口を開く。
「彼女は初月透子。M・E・S試作零号機の装着適合者だが、見ての通り先の戦闘で著しく負傷している。だが・・・お前が拒むというならやむを得ん、満身創痍の透子を出撃させるほかないな。」
この期に及んでなお高圧的な姿勢を崩さない父に内心舌打ちしつつ、目を閉じ荒く呼吸する透子を暫し見つめ、その場にそっと横たえた。
「今すぐ初月さんの治療を。俺が・・・俺が出ますッ!」
薄っすらと口角を上げた群青はすぐさま表情を戻す。
「作戦目標はすぐそこまで来ている、今すぐ迎え。琴峰戦術指揮官、並びに今川開発室長は装着者のフォローを。」
「「はい!!」」
美緒と、茶髪の女今川恵梨香の声が指令室に力強く響いた。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
髑髏を思わせる白い面のリフレインは、既にM・E・A本部の目と鼻の先まで迫っていた。夕焼けに照らされ立ち止まるその背後の至る所でビルは崩れ、地面は抉れ、そして人類の敵に立ち向かった名もなき勇者たちの屍は転がっていた。
「・・・。」
リフレインはやはり一言も発することはない。
その見据える先、M・E・Aの隔壁の重々しい扉がゆっくりと開く。
腰にベルト状の機械を巻いた青太が、そこに立っていた。
━━━隔壁が開いたら、M・E・Sドライバーユニット両サイドのレバーを押し込んで。そこから先は通信で伝えるわ。
美緒の指示を脳内で反芻しながら目を閉じ、レバーに手を添える。思い浮かぶのはモニター越しに見た惨劇と傷だらけの透子、そして「こうしている間にも人は死んでいく」という父の言葉。大きく息を吸って、吐く。
「俺は・・・俺にできることをするだけだ・・・![[rb:構築起動 > ビルド・オン]]!!!」
レバーを押し込むとM・E・Sドライバーユニットの中心に埋め込まれた八角形パーツがキィィィィィィィン・・・という音と共に凄まじい勢いで回転し、青太の頭部含めた全身をメカニカルな装甲が覆っていった。黒のアンダースーツ上のほぼ全域が青色の装甲に包まれている。そして頭部は口元には生えそろったいくつもの大きな牙を思わせる意匠のクラッシャーを、その上には釣り目気味の大きく黄単色の一対の眼を持ち、そして眉間の辺りには一本の長い角が生えていた。カブトムシともサメとも取れるようなデザインなのだが、当然今の青太本人の眼にそれが映ることはない。
「おお~・・・」と腕周りを数秒眺めまわす青太のメットに琴峰からの通信が響く。
「聞こえてるかしら?あなたが今装着しているそれはMonster・Extermination・System、略してM・E・S。私たち人類が奴ら、リフレインに唯一対抗できる力よ!・・・ところで青太くん、あなたスポーツなんかの経験は?」
「自慢じゃないですけど100mを8秒で走れます!」
「・・・ふざけないで頂戴。」
「本当ですって、まぁいいや行きますッ!」
「あっ、ちょっと!?」
勢い良く駆け出した青太=初号機を認識した”怪人”は手のひらから光弾を撃ち放つ。
「うおっ!?」
「青太くんッ!?」
咄嗟に防御姿勢を取った初号機を、光弾が炸裂した爆炎が包み込む。が、初号機はそれを振り払い勢い良く飛び出した。
「うおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」
猛スピードで助走を付けたパンチが白い面に直撃し、その大柄な体躯を思い切り後方に吹き飛ばした。体勢を立て直したリフレインがひび割れた面に手を当てるも、ひびが治る様子はない。
「傷が治ってない、効いてる!?」
「そう、M・E・Sでの攻撃は奴らの自己再生を阻害してダメージを与えられるわ!畳みかけるのよ!」
「了解です!あっ、ちなみに武器とかないんですか!?」
「開発室長の今川よ。左腰のホルスターに高振動ナイフが入ってるわ。今はそれしかないけれど、切れ味なら保証するわ。」
熱くなり気味な美緒と対照的な、落ち着いた口調のまま恵梨香がそう答えた。
「・・・これか!」
引き抜かれたナイフは片刃で刃渡りは約20㎝といったところか。高振動ナイフを順手で構えた初号機に再び美緒からの通信が入る。
「解析情報から3つ、伝えることがあるわ!1つ、最初の光弾は拡散するタイプなうえに距離があったから軽微なダメージで済んだけど至近距離なら装甲を貫通しかねないこと。2つ目にさっき言った光弾を撃つ前は毎回硬直があること。そして最後に人間でいう心臓の部分が弱点の可能性が高いことよ!」
「つまり、至近距離の光弾を避けながら奴の心臓をぶち抜け・・・ってことですね?」
「それでOKよ!」
「了解ッ!」
双方が走り出し一気に距離が詰まる。リフレインの大振りな拳を初号機が姿勢を下げて躱し、高振動ナイフでの突きを心臓部目掛けて連続して繰り出す。
後方に飛び退いてそれらを避けたリフレインは再び手掌を前へ突き出し、孔から光を放った。
「見える!」
斜めに走って距離を詰めながらの再度の突きを、今度は前腕を弾く形で防ごうとするリフレイン。しかし初号機はナイフを敢えて空を切らせ、そのまま回し蹴りを叩き込んだ。
クリーンヒットの一瞬の硬直を逃さず初号機がナイフと左拳を同時に放つ。すんでの所で右手の高振動ナイフを止めるも白い髑髏面に左の拳が入り、更にダメ押しとばかりに腹部へ前蹴りが直撃。吹き飛ばされた黒い肉体の背中は瓦礫に勢い良くぶつかった。
その立ち上がる速度が確かに低下しているのは青太だけでなく指令室の琴峰たちにも見て取れた。
「・・・すごいわ青太くん、その調子よ!」
「・・・あざっす!」
初陣とは思えぬ立ち回りへの素直な称賛に短く返しながら、青太は思案していた。
(打撃のダメージは確実に蓄積してる・・・。それでも、打撃を喰らってでもナイフの直撃を嫌ってるってことは・・・。)
地面を蹴り、距離を詰める。
(ナイフで一撃入れられれば、一気に押し切れるかもしれない・・・!)
ガ ッ ッ
両者の青と黒の拳がぶつかり合った鈍い音を皮切りに打撃の応酬が再開された。互いに退くことのない拳の打ち合い、しかし初号機の右手に握られた鋭利な刃への警戒はリフレインに勝負を焦らせた。
初号機の顔にかざした右手の孔に光が集められる。
「来るわッ!!!」
「そこだッ!」
ズ バ ア ッ
待ってましたと言わんばかりに、琴峰の呼びかけとほぼ同タイミングで、それまで警戒され続けてきた高振動ナイフの斬撃が右前腕に命中、切り飛ばした。断面から緑色の液体が噴き出す。
「これでも・・・喰らえッ!!!」
ザ ク ッ
逆手に持ち替えたナイフが心臓に深々と突き立てられた。
(やったか・・・!?)
ガ シ ッ
「!?」
顔を上げた瞬間、孔の空いた左手が初号機のメットを掴んでいた。その空洞に光が収束されていく。
「まずいわ、この距離で炸裂したら装甲が貫通される!」
それまで至って冷静だった恵梨香の声に焦りが含まれたことで、指令室に一気に緊張が走る。
「青太くん!距離を取って!!!」
「うぐ・・・ぐぉぉぉぉぉ・・・!」
(手が離れない・・・ナイフも抜けない・・・ヤバい・・・!)
光の収束が終わり今にも炸裂せんとした、その時だった。
バ シ ュ ウ ウ ウ ン !
一発の弾丸がリフレインの左ひじの辺りを千切り飛ばした。
「・・・目標に命中。こういうのは俺の仕事じゃないはずですがねぇ。」
狙撃の主たる宗助は隔壁の上で通信機に悪態をつく。
「黙れ、緊急事態にできることをするのは当然のことだ。むしろ人類の敵の殲滅に貢献できることを光栄に思うんだな。」
通信相手の群青に冷たく返された立花は再びスコープを覗き込んだ。
(───!!よくわかんないけど、助かった!)
「うおおおりゃああああああああ!!!」
リフレインの胸に突き刺さったままのナイフの柄尻へ、叫びと共に渾身の右ストレートが叩き込まれた。
ズ ボ オ オ
初号機の右腕がナイフごと心臓部を突き抜けた。
リフレインの左腕の再生がピタッ、と止まり膝から崩れ落ちる。右腕を引き抜くと同時に黒い体はうつ伏せに倒れ、暫し痙攣したのちピクリとも動かなくなった。
「エネルギー反応、消失を確認・・・!」
「ヨシッ!リフレイン、殲滅完了よ!」
美緒のガッツポーズと共にフッと指令室の緊張が解かれた。
「いよっしゃあぁ!何とかなった・・・良かった・・・!」
通信越しにそれを聞いた現場の青太もまた、緊張の糸が切れたのかその場にへたり込む。辺りはすっかり日が暮れる寸前と言ったところだ。
「お疲れ様、素晴らしい活躍だったわ!とりあえず一度帰投して頂d・・・」
「新たなエネルギー反応を確認!!先ほどより高出力です!!」
美緒の帰投命令を遮る報告内容が指令室をざわつかせた。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
緑色の血だまりに浮かぶ黒い屍をゆさゆさと揺らす黒い影。先ほどのリフレインよりも一回り小柄でフードの付いた布を被っている。だがその下にある顔は大部分を覆うほど大きい一対の眼のような発光体があるのみだった。
「アーア完全ニ死ンジャッテルナ、ダラシネエ。マ、言葉モ喋レナイ低脳下級個体ジャショウガナイカ!」
無機質で片言な、しかし人語であることは間違いないものがどこを通って発されているのか傍からは見当もつかない。新たなエネルギー反応の主はゲラゲラと笑っていたかと思えば次の瞬間には初号機の背後で背を向けて立っていた。
振り返ろうとした刹那、感じたことのないほどの激痛が走り青太は目を見開く。
「がああああああああああああああああああああああ!!!?」
初号機の左肩から先は切り落とされていた。
「遅イナァ、今気ヅイタノカヨ。マァ・・・モウ関係ナイカ!」
顔に眼だけのリフレインの手首から伸びた細長く湾曲したブレードは、既に初号機の心臓を刺し貫いており、更に左に向かってそれをスッと振りぬいた。左腋の辺りから外に出た刃は夜の闇の中、辺りに燃え残った小さな火に照らされて鈍く光る。その刃先からは真っ赤な血がポタポタと滴り落ちる。
「がふっ。」
マスクのクラッシャーの隙間から鮮血が噴き出す。
「初号機のエネルギー反応、急速に低下していきます!」
「青太くん!?青太くん!!青太くん!!」
(全く反応出・・・来なかっt・・・声・・・も出n・・・意識ももう・・・。)
”───────代われ。”
「ッッッ!!!」
聞き覚えのない声が青太の頭の中で響き、体が一度大きく仰け反ったかと思えば、ガクッと俯き複眼の黄色い光がスン・・・と消えた。
「ナンダァ?・・・ナンダヨ、ナニモナイノカヨ。」
少し歩み寄ったのちジェスチャーと口調のみ残念そうな感じを出しながら、眼だけのリフレインが再び背を向けた・・・その時だった。
突如、初号機の複眼に再度光が灯る。しかしそれは一目見て禍々しさを感じずにいられないような、赤黒い光。そのまま立ち上がり、両手を広げ闇夜の天に向かって咆哮を上げた。
「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!」
マスクのクラッシャーがまるで本物の口の如く大きく開いている。地の底から響き渡るようなその咆哮は人間はおろか、この世の生き物が発しているとは到底思えないような代物だった。その最中、先程切り落とされた左腕と胴の傷が瞬く間に再生されていった。
「ナ、ナンナンダヨ、オ前・・・!?」
あまりの禍々しさに気圧され眼だけのリフレインも困惑を隠せずにいた。
─────一方、通信指令室は現場よりさらに騒然としていた。
「せ、青太・・・くん・・・?」
「おい琴峰、あれはどうなってるんだ!?」
戻ってきた宗助の問いに、今川が代わりに答える。
「・・・分からない、としか言えないわ。」
「こ、これは・・・!?」
「初号機のエネルギー反応異常な速度で上昇中です!先の戦闘の・・・ご、500%を突破!!!」
「なんですって!?」
大混乱の部下たちを高所のデスクから見下ろしながら群青と傍らの老人は呟く。
「やはりお前さんの息子は・・・」
「ああ、これではっきりした。青太が鍵になる。」
騒ぎに紛れ、その会話が部下たちの耳に入ることはなかった。
──────場面は再び、隔壁の外。
「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!」
闇の中再度咆哮を上げた初号機は眼前のリフレインへと飛び掛かるのだった。
予告
赤黒い眼光と禍々しい咆哮を放ちながら、圧倒的な暴力でリフレインを殲滅したM・E・S初号機、南雲青太。
しかし目を覚ました彼はその時の記憶の一切を持ち合わせていなかった。
覚えのない暴走とその力に恐れを抱く青太。いつ再び現れるか分からないリフレインの脅威。それに対抗しろと迫る父。
病床の透子との交流を経て、青太は決意を固める・・・!
次回、第二話 「暴走・戦慄・決意」
乞うご期待!
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
解説コーナー
ワード①:リフレイン
突如として現れた非常に高い再生能力を持った敵性生命体。”リフレイン”という名称は無尽蔵の自己再生能力を持つがゆえにフランス語で再生を意味するrefrainから取っている(英語のreproductionでないのは少し長くて言いづらいというのが主な理由)。
通常兵器ではどれだけダメージを与えようとも自身とその周辺の分子を再構築することで瞬く間に回復してしまうため殲滅は不可能に等しい。彼らを討伐するに当たってはこの、「回復を阻害しダメージを蓄積させる」ことが重要となる。
その生態は謎に包まれている部分が多く、上記以外に現時点で分かっていることは①M・E・A本部に向かって進行してくること、②基本的に日本国内に出現すること、③これまでの観測例では言語等を用いた意思疎通の類ができる個体は確認されてこなかったこと、などがあげられる。
ワード②:M・E・S(Monster・Exterminaition・System)
リフレインの自己再生能力を阻害し殲滅を可能としている、現状唯一の装備。ベルト状の装置”M・E・Sドライバーユニット”を装着した適合者がユニット両サイドのコの字型のレバーを押し込むことで起動、頭部含めた全身を覆う形で装甲を形成することで装着完了となる。リフレインと同質の分子の操作・構築により装甲及び登録してある武装を生成・装着している。またこれらを応用する事によりリフレインからの攻撃も微弱なものなら無効化あるいはダメージの修復を可能としている。本編開始時点で技術立証機である試作零号機と、その実戦データを基に機能の改良・調整を行われた制式初号機が生産されており更なる新型も製作中である。
キャラクター①:南雲青太
今作の主人公。15歳の高校1年生。身長178㎝、髪は黒のツーブロック。家族は父と母。幼い頃にトラックにひかれた事故から生還して以降、常任離れした身体能力を見せ始めたこと以外はごく普通の少年として過ごしてきたが、ある日突然M・E・S制式初号機の装着適合者として父に招集される。基本的に明るくポジティブな性格。5年前まで自分や母を大切にしてくれていた父の姿を知っているがゆえに今の群青の言動には強く反発しているが、内心はもう一度家族そろっての日々を過ごしたいと強く思っている。また、父が帰ってこなくなってからも変わらず愛情を注いでくれた母にはとても感謝している。趣味は体力作りと特撮・アニメ鑑賞。好物はだし巻き卵とサーモン。私服でよく変なTシャツを着ていることがある。
機体①:M・E・S制式初号機
南雲青太が装着するM・E・S。黒いアンダースーツの大部分を青い装甲で覆われている。メットは一対の黄色い複眼、口元のクラッシャー、一本の長い角が特徴。試作零号機での実戦データを基に作られた本機は、零号機との連携も想定し近接戦闘を重視した調整がなされている。具体的には腕部の出力向上による打撃や近接武器攻撃の威力の向上、各部装甲厚の増加、関節可動域の改善、クラッシャーの展開による噛みつき機能の追加などが挙げられる。
武装①:高振動ナイフ
M・E・Sの共通兵装の一つ。片刃で刃渡りは約20㎝ほど。零号機開発の時点では火器を主軸にした戦闘を想定しており、本兵装はあくまでオプションの一つとして開発されていた。しかしリフレインとの実戦を経て、M・E・Sの近接武器による攻撃は回復阻害の効果が高いことが判明。制式初号機から共通の固定装備として正式に採用された経緯を持つ。未使用時はM・E・Sドライバーユニットのベルト部分のホルダーに収納する。ちなみに初号機の初陣において武装が高振動ナイフのみだったのは火器類が修理・調整中だったのが原因であり、本兵装のみでの戦闘を想定しているわけではない。
リフレイン①:SKULL
初号機が初めて交戦・殲滅したリフレイン。第一話時点では名称はつけられていなかったが、のちにSKULLと命名される。大柄で筋骨隆々とした人間に近いシルエットをしているが、その体色は漆黒に染まっている。また顔には髑髏、胸部周辺には肋骨を思わせる意匠の白いパーツでそれぞれ覆われている。両手の掌から手の甲を貫通するかのように孔が開いており、そこから放つエネルギー弾と徒手空拳による格闘を用いて戦う。エネルギー弾は着弾と同時に炸裂・拡散するタイプで、至近距離でもない限りM・E・Sの装甲を貫通あるいは破壊するには不十分な威力だが、M・E・S装着者以外の人間や物体を殺傷するには十二分な威力である。過去に出現したリフレイン同様に言語等は発さず知能は決して高いものではないと思われる。