4. It’s not a curse.
ここで待つ、と二人の騎士が座り込んでしまったのでミュゼッタも木の下に座った。そのうちぞろぞろと体格のいい男たちがぞくぞくと現れた。
「遅くなったが、昼飯にするぞ」
号令でおのおので荷物を広げている。フォーティスが部下を一人連れてミュゼッタのところへやってきた。魔物へ飛び出していったうちの、「同行するなら聖女さまがよかった」と口走った男。いまは無駄口も叩けぬほど苦痛に満ちた顔をしている。連れられてきた目的は明らかで、左肩から腕を重点的に噛まれていた。
「悪いけど、食べる前にスコウトの治癒を頼めるかな?」
「もちろんですーーが、」
「なんだよ、オレの治癒はできないってか?」
怪我で気が立っているのかなかなかの喧嘩腰だ。
「そうではありません。……公開していいのならいいですけど」
部下らはミュゼッタの能力の全容を承知しているのだろうか。フォーティスはスコウトを寝かせた後に木の枝に一枚布を垂らして、他の騎士たちからの目隠しにした。
「これでいい?」
「はい。ビドジール団長さま、彼を抑えていてくれませんか」
目を合わせたフォーティスがスコウトの怪我のない半身を固定する。
「スコウト、これから行われることは治癒魔法だ。おまえの目にどう見えたとしても。叫んだりするなよ」
「は? なんですか、それ……」
痛みから脂汗をかいているスコウトにミュゼッタは助言する。
「できるなら目を閉じていたほうがいいですよ」
「やるならさっさと治してくれよ! これでも痛ぇの我慢してんだぜ」
手を患部に近づけて、ミュゼッタは集中した。
ぼたたっ、と紫と茶と緑色が混ざり合ってイモムシのようにうごめきながら落下する。うぞうぞと体を這う。
「うぎゃぁ!!」
大の男の絶叫が響いた。直後にスパァン、とフォーティスの平手がスコウトの頬を叩く。
「ブッ……」
「うろたえるな、忠告しただろう」
悲鳴が耳に痛かったのはミュゼッタも同じ。うるさいからといって手は出さないけれど。
「だってアレ、の、呪……れ? 痛くねぇ」
目尻に涙も見える。自身の腕がすべすべお肌に戻ったのを確認した。自失から戻ったのは三秒後。
「ありがとう、あれは治癒魔法……なんだな?」
「どういたしまして。ちゃんと治っているでしょう」
「スコウト。彼女の治癒魔法について、部外者への口外を禁ずる」
ぴしっとスコウトの背筋が伸びる。
「はっ……はい!」
「出血もあった。めまいやふらつきといった不調が出たらただちに報告せよ」
幕を畳んでみんなのもとに戻ると、彼らはスコウトを取り囲んだ。
「なぁなぁさっきの悲鳴なんだよ? お医者さん怖くて泣いちゃう三歳児か」
「おまえらもそのうちわかるよ……」
スコウトの声に力はない。よっぽど脅かしてしまったようだ。それかフォーティスの平手がキツかったか。
大きな怪我は治癒魔法を使うけれど、発熱や病原菌を原因とする病には薬理作用を必要とするため薬理学を修めた医師の診断を受ける。注射や服薬をいやがる人間もいる。彼らは同僚がそのたぐいだと信じてからかっていた。スコウトには悪いが、ミュゼッタから弁解することはない。
小さくまとまった携帯食を配られて、隅っこで固形をかじる。飲み込めなくはないが、喜んでまた食べたいとは思えない味だ。
「悪かった。出掛けに気分を害するようなこと言って」
どこで見つけたやら、スコウトは果物を差し出した。お詫びと口直しに分けてくれるらしい。
「気にしてません」
あんなのは嫌味のうちにも入らない。ミュゼッタの治療を受けても感謝を告げる彼は気骨がある。フォーティスなどは狼狽すらしていなかったから、さらに特別神経が極太なのだろう。
その日魔物に遭遇したのは一度きり。
魔物が出たということは近辺に瘴気が溜まっているという証拠なのだが、聖女が来れる四日後まで放置だろうか。
二日目は魔物を退治したが負傷者は出なかった。預けられている救急セットも消費はなくここまできている。
三日目にまた別なひとりの騎士を絶叫させてしまったが、これもまたちゃんとミュゼッタに感謝を伝えてくれた。彼らの中に口が悪いものがいても、騎士をやるくらいなので性根は悪くない。根っこのところで上の者の教育が行き届いている。
It’s not a curse.
(呪いじゃありませんよ。)