2. Stu, my guardian.
以降の取り調べを穏やかに終えて、ミュゼッタは立ち上がるように促された。
「では客室へ」
騎士団本部の中にある客室では、周囲が見張りだらけ。いざというとき簡易の内鍵が剣を振るう筋力にどれだけ抗えるというのか。
やっと男の園から解放された、とは思うものの、騒乱のさなかに出てきた治療院の心配もある。騎士団が介入してミュゼッタの不在を管理してもらえるとはいえ。
さらりと室内の家具などを見てひと休みしようとしたときだった。
「ミュゼッタ、聞きたいことがあるのだけど」
別れたばかりだというのに、フォーティスがまたやってきた。
ドア越しにもガシャガシャと金具がぶつかる音がしている。ミュゼッタはそれが何なのかすぐにわかった。仕事中は別室で過ごしてもらっていたあの子が見つかってしまったのだ。
「ストゥ!」
キシャーッ、と鳥籠に入れられたストゥが暴れている。体長十五センチ、胴長短足で尻尾は指一本ほどの太さ。潰れた顔に丸い耳殻、白目のない瞳は真っ赤だ。
「籠から出してもらえませんか」
「すごく暴れているけど?」
「わたしの言うことは聞きます。ストゥ、じっとして」
ミュゼッタが話しかければ小動物はピタリと鳥籠の中心に座り込み、牙を納めた。
「生き物を一週間放置というわけにはいかないから、動物病院にでも預けておこうか?」
ミュゼッタはじっとフォーティスを凝視する。
「わたしから離れればこの子は暴れます。行動を共にする許可をいただけませんか」
「周囲の邪魔をしないのならいいよ」
あっさりと、籠の鍵を開けた。
「ありがとうございます!」
籠から飛び出たストゥはミュゼッタの肩に乗る。まるで襟巻きのように首に巻きつき、男を胡乱げに振り返った。
「あと、きみの夕食」
紙袋を受け取る。作りたてなのかまだあたたかい。礼を言って、彼が帰らぬうちに尋ねた。
「あの、ダニカは見つかりましたか……?」
この質問にはフォーティスは軽く目を見開いた。
「うちの団員が追跡中に巻かれたみたいだ。あれは逃げ慣れてるね。引き続き捜査を続けるよ」
「……ダニカは罪に問われますか?」
「どうだろう。幻覚魔法の乱用ではないから。もし見つかったらミュゼッタと同じく一週間奉仕活動かな。でも、きみを置いて逃げた人の心配をする?」
逃げたーー、はたから見ればミュゼッタが見捨てられたように捉えられるかもしれない。
「彼女は能力のせいで周囲から誤った先入観を持たれるばかりで、悪い人ではないのです」
そう、とだけ返したフォーティスは去った。これが肩入れしていた仲間の言は軽いということ。調査をする側にちゃんと話を聞く気があれば、ダニカにも向き合う勇気があれば理解しあうことは難しくないはずだけれど。片側からの視点しか知らなければ偏見になってしまうから、彼は公平でいる立場を守った。
寝台はミュゼッタの自室に置いたものよりも大きく柔らかく、部屋は快適だった。
明日から一週間奉仕作業。やる気は出ないがやるしかない。
「ストゥ、あなたがいてくれてよかった」
仕事上の付き合いしかなかったダニカがいなくなったいま、精神的に頼れるのはもこもこの言葉も通じない小動物だけだ。それでもミュゼッタはひとりじゃない。寂しい思いをせずにすむ。
Stu, my guardian.
(ストゥ、わたしの守護獣。)