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高貴なる紫縁

ステラと別れてから数年が経った。時々会いたいな〜って思う日も来るけど、もう普通の生活に戻っていた。変わったことといえば、僕から金を巻き上げて暴力を振るっていたあいつらが、もう僕に手を出さなくなったことくらい。

そんなある日のことだった。真夜中、フードを深々と被った旅人?っぽい人が僕の家にやってきたのだ。

「えっと……。」

「フリッグ様ですね?」

「え、まぁ、はい。」

「お届け物です。機密情報ですので、絶対に他の者に知られないようにして下さい。」

「え?知られたらどうなるの?」

「あなたを殺します。では。」

「ちょ、ちょっと!?」

僕を無視して怪しい人は馬に乗って行ってしまった。

「うーん。なんだろ、これ。」

とりあえず家に入ってまず手渡された手紙の表紙を見た。

「これ、王国からだ。どうしたんだろう。」

中身を開けて読み始める。


フリッグ様

おめでとうございます。

あなたは龍に選ばれました。そのため、あなたを選んだ龍の卵をお渡しします。あなたの手に渡れば、卵は1週間で孵ります。孵化してから1ヶ月後、背に乗れるほどの大きさに成長していることでしょう。そこであなたに最初の課題を課させていただきます。

成長するまでの間、絶対に他の者に教えてはいけません。教えた場合、無かったことにしないといけないため、龍諸共処刑させていただきます。あなたの行動は魔法で常に監視されているので、隠れて教えようということは考えないように。また、背に乗れるようになった次の日、日が昇りきる前に王国に来て頂き入団手続きをして貰います。

ダヴィンレイズ王国 ドラゴン騎士団


脳の処理が追いつかない。え?僕が?ドラゴンに?ライダーになれるの?

僕は一緒に渡された抱えるくらい大きな袋から中身を取り出した。

「これが、ドラゴンの卵?」

それは綺麗な紫色の卵だった。心臓が痛いくらいにドキドキ言ってる。

あの時、ステラにリントヴルムから助けてもらった時から憧れていたドラゴンライダー。もちろん、長年の夢が叶うのはとても嬉しい。でも、嬉しい理由はもう1つあった。ステラに……会える。入団したら、真っ先に会いに行こうと思う。

それから僕は毎日卵の様子を見た。1週間後に産まれるって言っても待ちきれない。布で拭いて手入れしたりした。

そして真夜中になり、寝ていたところを物音に起こされた。

「ん〜、なんだろ。」

目を擦りながら、物音のする方を見ると、棚に保管していた卵が床に落ちていた。

「転がっちゃったのかな。」

僕は拾おうと卵に手を伸ばした。

「わっ!」

グラッと卵が揺れた。揺れはどんどん大きくなる。僕は息をするのも忘れて、卵を眺めた。卵にヒビが入った。

「頑張れ。」

ヒヨコの孵化は何度も見てきているが、ここまで緊張したのは久しぶりだった。

一欠片が飛ぶと、それを合図するかのように一気に割れた。美しい紫色の体、立派な翼に角。愛らしい幼龍だ。幼龍は頭を振りながら目を開ける。目の色は翼膜や体の一部分と同じラベンダー色だ。産まれたばかりの赤子というものはそんなにすぐ目を開けない。本当にドラゴンという生き物は不思議だ。

幼龍は大きく翼を広げる。この子はよく描かれるドラゴンの姿として、蝙蝠に似た翼では無かった。というのも、腰にも翼があるのだ。小さな翼。反射なのだろうか?大きい方の翼を広げると、小さい翼も開く。それが合わさって蝶の羽のようにみえる。

「君はドラゴンにしては変わった翼を持つんだね。君みたいなドラゴンはほかにもいるのかな?」

分かってないのか幼龍は首を傾げた。

「僕の名前はフリッグ。これからよろしくね。」

ステラとグレイヴの出会いも、こんな感じだったのかな。

幼龍は目をパチパチと瞬きをすると、僕に近づいてきた。そして、腕に擦り寄ってきた。

「痛っ!」

幼龍が腕に触れた瞬間、激痛が走った。焼けるように痛い。見ると、腕が光っていた。そして、しばらくすると光が収まった。そこには薄紫色の菱形の石が埋め込まれていた。凄まじい力を感じる。それと同時に、この龍の意思も感じる。とても気高く、高貴で…なんというかその、気品を感じる。ってほとんど同じ意味か。

それから、僕は幼龍と共に過ごした。1ヶ月経つまで、誰にも見つからないように。ドラゴンというものは不思議だ。僕が外に出ようとするとついてくる。口で待て。と伝えても、伝わってないのかついてこようとする。でも、心の中で待て。と念じると、部屋に戻って健気に座って待ってくれるのだ。それを繰り返していたら、何も念じなくても外にはついてこなくなった。

そんなこんなで1ヶ月が経った。おかしいな。手紙によると1ヶ月で乗れるまでになるって。産まれた時とほとんど、というか変わってない。すると、幼龍は外に出たがった。無理もない。産まれてから今まで少ししか外に出したことがないのだから。流石に広いところで運動させた方がいいか。

「ちょっと待っててね。」

僕は外に顔を出して、誰も居ないことを確認した。誰も居ない。昼食の時間で皆家にいるのだ。僕は幼龍を抱えてダッシュで人目のつかないところに向かった。場所はステラと毎日特訓したところだ。厭世部隊の襲撃にあってから場所を変えていたため久しぶりに来る。死体は野生動物に食べられたのかもう無くなっていた。

幼龍を地面に降ろすと、ジャンプしながら翼を羽ばたかせた。飛ぼうとしてるのだ。そして、あっという間に体が宙に浮くようになった。どんどん高いところまで飛んでいく。

「ま、待って!そんなに高いところに行ったら!」

流石に村の人々にバレるんじゃないだろうか。すると、腕の石が少し痛がゆくなった。見ると、ほのかに光っていた。

「なんだろう…これ。騎士団に入団したら教えてくれるかな。入団したばかりのライダーは正式に軍として活躍する前に見習い生として勉強するみたいだから。」

しばらくぼーっとすると、大きな咆哮が聞こえた。

「な、何?」

ワイバーンかリントヴルムかと思った。でも違った。声のする方を見ると、天から舞い降りるドラゴンがいた。紫色のドラゴン。特徴的な蝶のような翼。あの幼龍だ。あの子はあっという間に大きく成長していたのだ。一体いつ?空に飛び立った後?すると、透き通るような美しい女性の声が頭の中で響いた。

フリッグ。

「え、だ、誰?」

私よ。目の前にいるでしょう?

「目の前って言われても…目の前にはドラゴンしか……え、君?」

ドラゴンは頷く。綺麗なラベンダー色の目でこちらを真っ直ぐ見つめる。

私の名前はアメリア。やっとあなたと会話ができる。

「喋れるんだ。」

もちろん。声に出さなくとも、念じるだけで私に届きますよ。

「そうなんだ。その、アメリア、改めてよろしくね。」

えぇ。よろしくお願いします。フリッグ。

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