別れ
森の少し平らな岩に僕達は腰掛けた。
「えっと。」
「1から説明した方がいいかな。」
「うん。お願い。」
「見ての通り私はドラゴンライダー。そしてドラゴン騎士団の1人なの。この黒いドラゴンは私の相棒グレイヴよ。」
「じゃあ、リントヴルムが来た時に助けてきてくれたのは、ステラ?」
「そうよ。」
「な、なんで言ってくれないのさ。」
「ライダーは、親族以外の一般人に顔を知られちゃ行けないの。声もね。」
「どうして?」
「厭世部隊は一般人に紛れ込んでる場合があるの。顔も声もバレたら狙われる。実際に昔ね、私と同じように休暇中に自分達がライダーであることを村の人々に教えたの。そしたら翌日、ライダー全員が殺された。」
「……。」
「ライダーが殺されたら終わりなの。ただでさえドラゴンに選ばれる人間って少ないのに。……ライダーが死んだら…」
「ドラゴンも死ぬ。」
僕はステラと顔を見合わせた。ステラは黒龍……グレイヴに顔を向けると言った。
「そう。流石に知っていたみたいね。」
「歴史の本はよく読んでるから。でも気になるんだけどさ。歴史の本を読んでも女性のライダーっていない……よね。」
「私でも分からないの。グレイヴに聞いても軽く流して答えてくれないし。」
「ふーん。ねぇ、もしかして君のお父さんもライダー?」
「そうよ。赤龍部隊長且つ精鋭部隊司令官だったの。名前はロッド。相棒のドラゴンはフレイムよ。凄く厳つくてかっこよかったわ〜。休暇中の時はお父さんとよく背中に乗せて空に連れてってくれた。」
「へ〜いいな〜楽しそうだ。それ聞くとやっぱり僕もライダーになりたいな。」
そう浮かれていたら、鋭い視線を感じた。見ると、グレイヴが僕を睨みつけていた。
「えっと、どうしたの?そんな怖い顔して。」
「グレイヴはお前みたいな小僧はなれないってさ。気にしないで、グレイヴっていつもこんな感じだから。」
「本当にそんなことを?」
見るとグレイヴはニヤッと笑った。どうやら本当らしい。
「ねぇ、ライダーってことは人間じゃないってことだよね。」
「そうね。私のこと……嫌い?ずっとあなたを騙してて、嘘ついて。」
「そんなことないよ!」
「……ありがとう。狩りの邪魔しちゃったわね。ここ、村から近いから一旦離れるわ。また後で会いましょ。」
そう言うとステラはグレイヴに飛び乗ると、ひとっ飛びで遠くに行ってしまった。
僕は少しため息をし、狩りの続きをした。家に帰宅すると、解体をして休んだ。
「今日はこんなものかな。あまり取れなかったお宅がいたらお裾分けしよっと。」
そして、ステラが仕事に戻るのがもう今日になった。何か贈り物がしたい。そう思って物置部屋で探し物をした。
「なんか、ゴミを押し付けるような感じするからやめといた方がいいかな。」
すると、キラッと光るものを見つけた。これは……ヘマタイトでできた指輪だ。これ、僕が初めて綺麗に作れた加工品だ。そうだ、僕らの家系は加工屋なんだっけ。幼少期の頃色々あって破綻して、貧乏になっちゃったけど。石を削って作るの、楽しかったな。
僕は指輪を綺麗にして閉まった。物置部屋を出るところで立ち止まり、少し考えて振り向いた。
「フリッグ〜?いる〜?」
ステラの声だ。僕は慌てて物を手に取った。
「ここにいるよ〜!」
「あらそんなところで何をしていたの?片付け?」
「う、うん。そんなとこ。ステラ、今日はどうしたの?」
「ほら、今日私仕事に戻っちゃうでしょ?やっておきたいことがあって。」
「やっておきたいこと?」
「来て。」
ステラは僕の手首を掴むと、森の中にどんどん引っ張って行った。
「ステラ?」
しばらく歩き続けると、崖にやってきた。崖下にも森が広がっている。僕達は崖ギリギリのところまでやってきた。
「凄い景色だ。こんなの初めて見たよ。これを見せたかったの?」
「フリッグ、それだけで満足?」
「え?」
ステラはそう言うと、グイッと僕を引き寄せ、一緒に崖から落ちた。
「ああああぁぁぁぁぁ!!!!????」
ぎゅっと目を瞑った。多分、気を失ったんじゃないかと思う。
「フリッグ、フリッグ……目を開けて。」
言われるがままに恐る恐る目を開けた。
「あ、あれ……。」
僕は、雲が届きそうなところにいた。辺りを見回すと、グレイヴの背中に乗っていた。後ろにステラが座っている。
「す、凄いよ……!」
遠くの方に小さく王国が見えた。ダヴィンレイズ王国だ。真下を見ると、村もとても小さかった。これが、ライダー達が見ている世界。風がとても心地よい。
「どう?」
「なんて言うか、その……あぁ、上手く言葉に出せないな。とにかく凄いなって。」
「少し周りましょっか。グレイヴ、ゆっくりね。人間のフリッグは多分、消し飛んじゃうから。」
その言葉に少々驚きつつも、僕は空の旅を楽しんだ。以外にもグレイヴはちゃんとゆっくり飛んでくれた。多分、本当にそういうことになってしまうのだろう。
夕方頃……というかもうほとんど暗くなり、村近くの森に帰ってきた。
「じゃあ、私はこのまま仕事に戻るわ。」
「そのために荷物ちょっと多かったんだね。」
「えぇ。それじゃ、グレイヴ行きま…」
「待って!」
「どうしたの?」
「あの、話しがしたくて……降りてきて欲しい。」
「……?分かった。」
ステラが降りてくると、僕は小さな箱を差し出した。ステラは箱を開けた。
「これ、指輪?」
「うん。今まで……ありがとう。ステラがここにいてくれたおかげで毎日とても楽しかった。それ、僕が幼少期の頃の手作り。初めて綺麗に作れたんだ。本当は新しく作りたかったんだけど、ヘマタイトはこの辺じゃ取れないから。」
「……私も、凄く楽しかった。大事にする。」
ステラの声が震えていた。
「本当はね、あなたと別れるの嫌で、それで……軽く話すだけにしようって思ってたの……辛くなってしまうから。もう、二度と会えないかもしれないのに。休暇は、不定期だから。また休暇が来ても、あなたがまだ生きているか分からなくて……。」
ステラは涙を拭って一呼吸するとにっこり笑って言った。
「あなたがドラゴンに選ばれるの、願ってるからね!」
「うん!選ばれるよう、特訓は欠かさないよ!」
ステラは再びグレイヴに乗った。
「じゃあ。またね。」
「うん。また。」
グレイヴは僕を見つめると大きく翼を広げた。そして鼻息を出した。そして翼を一振すると、あっという間に天高く昇ってしまった。なんとなくだけど、グレイヴは別れの挨拶をしてくれたんだと思う。
また毎日が寂しくなるな。それに……結局想いを伝えれなかった。
僕は空を見上げたまま、思いに耽っていた。