襲撃
日が昇る数時間前に僕は飛び起きて、顔を洗って急いでステラの元に向かった。
ドアをノックする。返事が無い。
「ステラ〜?」
って時間帯的にまだ寝ているだろうか?申し訳ないことをした。
僕は特訓場所に行こうと思った。一足先に特訓していたらステラはきっと驚くかもしれない。
特訓場所に近づくと何か音が聞こえた。誰かいるのかな。ゆっくり僕は近づいて、傍の木に隠れて様子を見た。
「ステラ?」
誰かに囲まれている。ステラは険しい表情をしていた。
「お前運動能力が高いな?女の癖して。奴隷には丁度よさそうだ。」
奴隷?まさか厭世部隊か?だとしたらまずい。例え兵士でも邪龍を出されたら終わりだ。村も滅ぼされる。
「悪いが、お前たちの奴隷になる気は無い。」
なんだ?普段と声色が違う。
「なら死んでもらう。」
ステラは腰にナイフに変形するあの筒を取り出した。いくらなんでもナイフじゃ……。しかし、ステラが筒を軽く振ると、両端からエネルギーのようなものが溢れ出して一気に長くなると、先端から剣状の刃が出てきた。あの筒、槍にもなるのか?本でよく見る槍とは刃の形状が違うけど。
ステラは槍を軽々と振るった。斬る時は首を。突く時は脳天を的確に。攻撃が受けそうな時は槍を横にして防いだ。ステラの動きはまるで踊っているようだった。今まで習ってきた動きがちっぽけに思える。
「お前ら弱いな〜。厭世部隊の割に。飛んでくる黒魔術も対して強くない。邪龍も扱えないんじゃないか?あぁ!ごめんごめん、作れないの間違いだったか?ハッハッハ!」
「ちっ、貴様ァ!!」
今までの優しいステラとは全くの別人のように思えた。すると、頭上を煙のような黒い塊が横切った。……邪龍ウィケルネクロだ。
「本命はこっちかい?」
ステラは地上にいる厭世部隊を全員仕留めた。邪龍はステラの頭上を飛んでブレスを放とうとしていた。
「やれやれ、一体だけで来るとは、舐められたものだな。」
ステラは走り出すと近くにある木を伝ってジャンプした。邪龍の上に行ったのか?すると、邪龍が消滅した。煙に混じってステラが降ってきた。厭世部隊の1人の頭が槍に刺さり、着地と同時に頭を貫きながら槍も地面に刺さった。槍を地面と頭部から引き抜くと肩を回した。
「これで最後かな。」
「ステ……」
「死ねぇ!」
しまった!厭世部隊の1人が後ろから僕を殺そうと剣を振るった。ぎゅっと目を瞑る。すると、空を切るような音が鳴った。痛みは無い。恐る恐る目を開けると、僕を殺そうとしたあいつは頭部に槍が刺さって死んでいた。ステラがやってきて槍を抜くと、槍を振るって血を飛ばして綺麗にした。僕は放心状態だった。
「大丈夫だった?」
声の調子がいつもの優しいステラに戻っていた。
「う、うん。ありがとう。」
敵とはいえ人の死体なんか到底耐えられるものじゃない。動物の死体は見慣れているのに僕は吐きそうになった。
「ここにいたらダメね。一旦私の家に来て。」
ステラの家でしばらくすると、大分落ち着いてきた。
「ステラ、改めてありがとう。情けないね。また、護られて。」
「いいのよ。あなたは私にとって大切な人だから。」
「え?」
「それに、民を護るのは兵士として当然でしょ?」
僕はぼーっと彼女を見つめた。僕なんかに大切な人と言われたのもそうだが、それ以前に彼女は本当に兵士なのだろうか?
「前にも、大勢の敵から民を護ったことがあって、その様子を見た人達が私を化け物だってね。」
「護ってくれたのに……酷い。」
「人が人を殺すのを見慣れない人からしたら恐怖するのは当然のこと。でもあなたは私を恐れなかった。それが凄く嬉しいの。まぁ、そういう感情の人は一部だけだからあまり気にしてないんだけどね。」
「ステラの戦い方っていうか、動き?凄く綺麗だったよ。羨ましいって思った。」
ステラはちょっと照れくさそうに言った。
「戦い方を褒められるなんて滅多にないから嬉しいわ。あなたも変わってるのね。」
「え?そ、そうかな。」
「えぇ。変わり者同士、これからも仲良くしてくれたら嬉しい。」
「もちろんだよ。」