司令官決戦
そしてついに司令官決戦当日となった。場所は闘技場で行われる。私は準備室で鎧や武器の手入れをしていた。
「はぁ。グレイヴ、あなたそんなに特訓してないけど大丈夫なの?」
俺を舐めるな。
「じゃあ今回も期待してるから。」
お前もな。
正直あまり乗り気じゃなかった。戦うことは好きだが、あれは命を守るための戦いだからだ。相手が大嫌いなルイスとは言え、特訓でもない仲間と戦うのは気が引ける。しかも司令官決戦は相手が死にそうになるまで殺し合うのだ。なんでこれが国で1番か2番目くらいに盛り上がってるのか理解出来ない。去年なんか王子吐いちゃってたし。
司会の声が響く。私は立ち上がって軽く準備運動をすると、ゲートの前で待った。
観客から一段と盛り上がりを見せると、ゲートがゆっくり開いた。深呼吸をし、ゲートの先へ進んだ。視界が一気に眩しくなる。目を慣らすと、視界にはまっさらなフィールド、周りには観客が座って歓声をあげている。反対にはルイスと相棒のエクレアが入場した。お互い指定の位置に着く。
「少しは強くなったのか?」
「随分と余裕そうだな。」
「だってお前弱いんだもん。」
「はぁ?」
「エルテノ・レガーレぐらい使ってくれないと話にならん。」
以降なんかガミガミと言い返してきたが、ほとんど聞いてなかった。
「それではお二人とも、武器を構えてください!」
私は筒から騎龍武器を展開し、構えた。対してルイスは2つの筒から二刀流の短刀を構えた。
「よーい……初め!」
私達は同時に突っ込んだ。騎龍武器の剣戟の声が鳴り響く。ドラゴン達からも激闘が聞こえてきた。
基本的にライダー同士、ドラゴン同士で戦う。余裕がある時にお互いの相棒の援助をする形だ。
「お前が生きていることが憎い!下半身潰された時にさっさと死んじまえば良かったのに!」
「口よりも手を動かせ!基礎中の基礎だぞ!」
「その真面目さも虫唾が走る。」
そういうとルイスは風魔法を放ってきた。しかも鋭い。当たれば鎧は簡単に裂けるだろう。私は水魔法で風を凍らせた。
我々ライダーの武器は騎龍武器だけではない。魔法も交えながら容赦なく撃ちまくる。
すると、ルイスはいきなり1本だけで斬りかかってきた。私は不審に思いながらも防御した。このサイズの武器では軽すぎて押し切れない。まさか!……あっぶな。なるほどな。自由である片手で防御で無防備となった私に攻撃……やはり戦術を変えてきたか。
ルイスの実力は本物だ。こいつは俗に言う天才なのだ。戦闘中で異常な成長速度を見せる。だからこいつは特訓も何もしない。『習うより慣れろ』を具現化したようなやつだ。今まで色んなライダーと本気で手合わせしてきたが、総帥を除けば私の動きに着いてこれるやつはルイスしかいない。さすが見習い生を1週間で卒業し、入隊して1年も経たずに司令官になり私が入るまで無敗だった奴だ。
突然白黄色のブレスが飛んできた。エクレアの魔法ブレスか。
「勝利したらお前のことどうしてやろうか。永久追放でもいいが、それじゃあ面白くない。女だからといって優しくするつもりはねぇからな?」
ほんと、お喋りな奴だ。台詞がまるで悪役ではないか。
僕達はステラから特別に会場を招待してくれたおかげで特等席で見ることが出来た。
「ねぇサンドラ、ステラ……厭世部隊で手抜いてない?」
「うん。思った。アイツらとは空中戦だから……とか?」
「確かにドラゴンの上だと戦いづらいもんね。」
今僕達の目の前で起こっている戦いは異次元だった。人間の動きをしていない。いや、人間では無いからこそできるのか。
グレイヴとエクレアもその巨体さから繰り出される技はもはやドラゴンとは思えなかった。
「本気のステラなんかと戦ったら秒で終わりそう。」
「あはは!確かに!でも、やってみたいな。」
「サンドラ!?」
「いや〜だってさ、2番目に強いって言われてるライダーと本気で手合わせして、ボコボコにしてくれたら逆に楽しくない!?中途半端に負けるより、完封された方がスッキリするよ。悩み事とか全部吹き飛ばしてくれそう。」
「へ〜、僕は怖くてちょっとできないな。」
「仕方ないよ。でも、強い人から特訓してもらえるのは強くなる近道なんだよ。」
僕もそう思えるくらいになりたいな。
2人とも互角かと思ったが、ステラは確実に追い詰めていた。
お互いが身につけている鎧が所々破損して下に着ている服が剥き出しになっていた。
ルイスの武器、小さいとは言え2本あるのはかなりの強みだ。対してステラの武器種はハルバード。体のしなやかなステラとは相性がいいが、長身武器のためか隙ができてしまう。
ルイスがその隙に斬り掛かる。それをステラが咄嗟の判断でエルテノ・レガーレを使い、翼で防御。すると、ルイスが突然武器を逆手持ちにして突き刺そうとした。翼と刃がぶつかり合い、火花が散る。
「ス……シリウス!」
翼がルイスの武器で貫通し、血が吹き出した。ステラが咄嗟にルイスを蹴り上げて距離を取った。
「ね、ねぇ、そこまでする必要あるの?止めた方が。」
「いや、司令官決戦は相手を殺すつもりで戦わないといけない。この決戦は強さを試すだけじゃなく、覚悟も試されてるんだ。」
見ていられなかった。ルイスなら本当にステラを殺してしまいそうで不安だった。なのに観客は盛り上がっている。
いった!くそ!こいつまじで。
その状態で攻撃受けるのは勘弁してくれっていつも言ってるだろ。普通に痛え。
しょうがないじゃん!そんな変化球打ってくるなんて思ってもみなかったんだから!
正直言うと久々に楽しいと思える戦いだった。厭世部隊や今まで決戦で戦ってきたルイスは弱すぎてつまらなかった。でも今回は変化球が多くて面白い。痛みに我慢して戦うのがどれほど面白く私を滾らせるか。常人には決して理解できないであろう楽しさがそこにはあった。
「さぁペースを上げるぞグレイヴ!」
私は一気に翼や尻尾を駆使してルイスを追い詰めた。兜でどんな表情をしているか分からないが、恐らく焦っているだろう。受け流しやカウンターがまともにできなくなっている。
「どうしたもう終わりか!?」
「クソが!」
ルイスの武器を1本切り飛ばし、立て続けにもう1本も切り飛ばした。ルイスは魔法で自分の武器を引き寄せようとしたが、そうはさせない。思いっきり手を膝蹴りしてやった。そして私の武器の短刀部分を仕舞って打ち付け、仰け反ったところを回し蹴りで畳み掛けた。
ルイスが立ち上がろうとした時に、私は首目掛けて武器を振り下ろした。が、寸のところで止めた。
「勝負ありだな。」
見ると、グレイヴもエクレアを完全に押さえ込んでいた。
私は武器を引くと、思いっきり天高く掲げた。観客から大歓声が上がった。
「勝者は黒龍部隊長シリウス!やはり最強だ!」
その後実況者が色々と話をしている間、私は準備室に戻ろうと歩き出した。その時だった。
「死ね!」
その声に咄嗟に振り向いて腕を構えて防いだ。だが、ルイスの武器が腕を貫通してしまった。
「くっ、とっくに勝負は着いただろ!」
「まだ終わっちゃいない!」
「仕方ないやつだ。」
「ゔっ。」
「ふん。」
「うー、あれは痛い。」
私はルイスの股間を思いっきり蹴り上げてやった。ライダーの本気の蹴りを弱点に受けるとタダでは済まされない。さすがに気を失ったようだ。
エルテノ・レガーレを解除すると、翼の痛みは引いた。
「ステラ、大丈夫か?」
「イーサンに皆。まぁ別に。後で医務室で治療してもらうから気にするな。」
コロシアムから離れ、鎧を片付けると黒龍部隊の仲間と会った。
「お前、相変わらずすげぇな。お前が司令官でほんと良かったよ。お疲れ。ゆっくり休めよ。」
「ありがとう。じゃあまた後で。」
「おう。」
ドラゴンレースも司令官決戦も終わり、宴が始まった。
城下町の中心では無料で食べ物や飲み物、ケーキが提供されどんちゃん騒ぎ。ドラゴン騎士団の中には同じ部隊同士で宴を開いている者もいた。
「ステラー!準備いいぞ〜!」
「了解!グレイヴ。」
はいはい。
私達は薪に火を灯した。薪の上には灯篭が沢山乗っていた。その灯篭に火が灯ると、天高く昇った。
司令官決戦の勝者は必ずこれをする。箱庭でドラゴン騎士団のエンブレムと同じ形に薪を並べ、勝者の炎で焚くのだ。
「綺麗ね。」
そうだな。
「ステラ!」
「イーサン、もう全部昇った?」
「あぁ。後はこれだけだ。」
「了解。」
イーサンが持ってきたのは他のよりも大きく、蒼色に染まった灯篭だった。これは特別な灯篭で、最後に飛ばす決まりだ。何故蒼なのかは分からない。そういう慣わしらしいが、どこかで言い伝えが途絶えたのか誰も知らなかった。
私は蒼い灯篭に火を灯して飛ばし、見守った。
「腕は平気か?」
「えぇ。まだ思うように動かせないけど、痛みは大分治まったかな。」
「全く、不意を突くなんてようやるぜ。」
「ほんと。よし、後は団歌歌って終わりかな。」
「はぁ、めんどくせぇ。早く飲みに行きてぇよ。」
「これやって終わりだから。」
「おーーい!おめぇら集まれー!」
薪の準備をしていた黒龍部隊の仲間たちが返事をし、集まってくると、団歌を歌った。




