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癒しの鱗粉

「……あんた。」

「ステラ!」

僕はここで初めてステラの強さを思い知った。今までは2番目に強いと聞いても、実感があまり湧かなかった。

「イーサン、陸上頼んだよ。」

「了解。」

戦場に着いた時、真っ先にグレイヴと離れ離れになったかと思いきや、邪龍の背に跨る厭世部隊の首を的確に切り落とし、その死体を伝ってまた1人と仕留める。空中で邪龍に襲われそうになった時はグレイヴがブレスで必ずフォローする。飛び乗るものが近くにいない時はグレイヴが支えになる。そしてグレイヴに乗っていても、立ったまま巧みに武器や魔法を使いこなし、確実に仕留めていく。

気づけばあっという間に邪龍に乗る部隊は全滅していた。たった1人で。

そしてイーサンも、他の黒龍部隊の仲間と共に陸上にいる奴らを殲滅した。あとは幹部のルーシーだけだ。

「なんなのよ!この役立たず!」

ステラがルーシーの前に降り立つ。

「役立たずはお前だ。もう終わりか?上手く仲間を育成し、使いこなすのがリーダーだ。何も面白くない。もっと俺を苦戦させろ。」

ステラは武器を回転させ、ルーシーに突っ込む。

「ふん!無駄よ!」

邪龍を大量に呼び出す。しかし、そんなものステラには通用しなかった。体を捻りながら、巧みに躱す。そして思いっきりルーシーの腹に膝蹴りした。

「うっ!お前たち何してんのよ!守りなさい!」

ステラは容赦なく切りつけるが、ルーシーは杖で防御し、黒魔術を連投した。どうやらルーシーは近接が苦手のようだった。

「おいステラ!はやく決着つけてくれ!邪龍が普通にきつい!」

「やれやれ。」

僕も何か……いつも精鋭部隊ばかりに任せて。

僕は邪龍に向かって手を伸ばした。すると、サンドラが止めた。サンドラもかなり傷だらけだった。

「フリッグ……オイラたちが手を出したら……かえって足でまといになる。」

「でも……痛!え?待って!」

僕は片方の手で伸ばしてる手を掴んだ。またあの時と同じ、手と騎龍晶が!

「ふ、フリッグ!?どうしたの!?」

「わ、分からない!止まって!」

痙攣が止まらない。騎龍晶から出た大きく黒い煙が邪龍目掛けて飛び出した。煙はドラゴンの姿に変わった。邪龍……でも、どちらかと言うとワイバーンの姿だった。光の色も紫色だ。僕が出した邪龍はルーシーの邪龍を容赦なく攻撃した。

「な、なんだ!?」

「次から次へとなんなのよ!」

「……イーサン!」

ルーシーの邪龍を食らった紫色に輝く邪龍は、今度は近くにいたイーサンを踏みつけて敵視した。

「よせ!!やめろ!」

僕は必死に叫んだ。正直イーサンのことは嫌いだ。でも、腐ってもステラにとっては大事な仲間であり親友。死なせることなどできない。

邪龍は目を見開いて僕の方を見た。その表情は困惑していた。僕は深呼吸した。

「……彼は、仲間だ。敵じゃない。」

邪龍はイーサンを踏みつけていた脚を退かした。伝わった?すると、今度は僕目掛けて突っ込んでくる。思わず目を瞑った。痛みは無かった。恐る恐る目を開けると、僕の手の甲にこぢんまりとした邪龍が僕のことを見上げていた。

「あぁ……君は……邪龍なんかじゃない。」

小さな竜は僕の騎龍晶の中に消えていった。

この事態に夢中になっていたせいで、幹部のことを忘れていた。見ると、既にステラはルーシーを追い詰めていた。

「言え。お前たちの城はどこだ。」

「はぁ?言うわけないでしょ。言ったところであんた達には見つけられない…」

「言え。首が飛ぶぞ。」

ルーシーの首に刃を当てて言う。

「ふん。できるものならやって、みなさいよ!」

「うっ!クソったれ!」

「ステラ!」

ルーシーが空いていた片手に黒魔術を纏わせ、それをステラの頭目掛けて放ったのだ。直撃したせいか、ステラは大きく怯んでしまった。その隙にルーシーは高笑いを上げながら黒い煙と共に消え去った。

「あーあ、逃げられちまった。あんなやつ聞かずにとっとと殺せばいいじゃねぇか。幹部なら尚更。」

「……正論言うな。村人達を救出するぞ。」

「ステラ。」

声をかけると振り向いてくれたが、ため息をついて言った。

「一般部隊司令官フリッグ、先程については大目に見る。総帥には黙っておくからもう、使うな。」

「……了解。」

そう言うと、兜の隙間から見える真剣な表情は一瞬だけいつもの穏やかな表情をしてくれた。

それからしばらくして村人達全員を救出した。幸いにも全員無傷だった。

「ドラゴン騎士団の皆様!ありがとうございます!この御恩は忘れません!」

ステラは会釈すると、村人達に建物等を復興するための費用を支給し始めた。

「そんな!守っていただいた上にこんな沢山の金貨まで頂けません!」

「民が安心して暮らせるまでが守るということだ。余ったお金は好きに使ってくれて構わない。」

ステラは本当に心が広い。僕もあんな風になりたいな。そういえば、サンドラは?

僕はアメリアに乗って村を周り、サンドラを見つけた。他の茶龍部隊も集まっていた。そこには、乱戦の中殺されてしまったライダー、ジブルの遺体が横たわっていた。

「サンドラ!」

「……フリッグ。」

僕が降り立つと、後から仲間の紫龍部隊も来てくれた。黒龍部隊は村人達の一時的な安全確保をした後、来てくれた。見ると、サンドラもかなりの重傷だった。立っていられるのが不思議なくらいに。

「ジブルさ、呑気で全然働いてくれなくてさ、うんざりしていたんだ。でも、面倒見が良かったんだよ。とてもね。動かないのは任務の時くらいで、仲間のことになると誰よりも早く動いてたんだ。」

「……。」

「はは、さ、遺体を運ぼう。ドラゴン騎士団の者の遺体は国の決まった所に焼いて埋めて弔うんだ。相棒のドラゴンと一緒にね。って見習い生の時に習ったよね?」

サンドラは苦笑いをしながら言った。常に気楽な彼だけど、確実に強がっていた。

「う……。」

「サンドラ!?」

突然サンドラがよろめいて倒れそうになり、僕は咄嗟に支えた。出血が酷い。早く医務室に行かないと。

「ごめん、フリッグ。この傷を負ってから、大分時間、経っちゃったから。」

「サンドラ!だめだ!」

僕は持ってきていた救急箱で応急処置をした。

「フリッグ、お前さんはサンドラを連れて早く帰れ。遺体はこっちで何とかするから。」

「ワイアット。分かった!アメリア!ロース!」

急ぎましょう!

サンドラ……。

僕はサンドラを抱えたままアメリアに飛び乗ると、急いで城に向かった。でもここから城までかなり遠い。すると、ロースの速度が落ちた。

「ロース?」

飛び方がよろめいている。サンドラ!呼吸が弱くなってる。そうか、ライダーとドラゴンの生命線は連動しているから……。

行け、フリッグ。私に構うな。

ロース。

主を、サンドラを頼んだぞ。

……分かった。アメリア!

分かっています!

アメリアは翼を一振し、一気に速度を上げた。

その時だった。急に辺りが薄紫色の光に包まれた。最初は敵襲かと思ったが、この光の中はとても穏やかな気持ちになった。というか、光そのものと言うよりかは光の粒子に近かった。

フリッグ、これは。

見ると、その光の粒子はアメリアの翼から出ていた。まるで本当に蝶が鱗粉を散らすように。

「う、うーん。」

「サンドラ!?」

「あれ?オイラ……。」

夢を見ているようだった。サンドラの傷が薄紫色の光と共に見る見るうちに塞がっていく。助かったのか?

サンドラは体を起こした。

「フリッグ!」

「サンドラ……!」

「あはは、助けられちゃったな。ありがとうフリッグ。」

「い、いや、僕は何も。それより本当に良かった!もう間に合わない、死ぬかと思った。」

思わず僕はサンドラを抱きしめた。

「ちょ、フリッグ。大袈裟だって。オイラは君を置いてったりなんかしないよ。だってオイラ達、親友だろ?」

「うん……うん!もちろんだよ!」

すると、サンドラが辺りを見回した。

「ねぇこれって……アメリアの魔法能力じゃない!?」

「え、ほんとに?」

「ほら習っただろ?ドラゴンの力は大きく分けて3つある。1つは基礎能力である炎ブレス。もう1つが魔法ブレス。最後に補助能力である魔法能力。うん。これは間違いなく魔法能力だよ!凄いや!こんな短期間で魔法能力も習得しちゃうなんて!」

「僕のことじゃないのに、なんだか照れるな。」

誇ってもよろしいと思いますよ。

アメリア。

フリッグ!サンドラ!アメリア!

「ん?あ!ロース!」

サンドラが完治したおかげで、ロースも元気になったようだ。

「心配かけてごめんなロース。」

いいや。サンドラなら大丈夫と信じていた。そしてフリッグ、アメリア、主を救ってくれてありがとう。

「僕の親友だから。それにこれはアメリアのおかげだ。」

サンドラはロースの上に飛び乗った。もうすっかり元気のようで良かった。

「一旦戻ろう、皆を置いてきちゃったし。」

「うん。」

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