罠
それから僕はどんどん任務をこなしていった。サンドラとは時折合同で任務することがあった。今回もちょうどその時だった。
「いつも思ってたけど、ロースの翼って大きいよね。筋肉質というか。」
「あぁそれは多分翼で地上を歩いてるからだよ。ワイバーンみたいに。」
「へぇ、何か変わるの?」
「うん。他のドラゴンと違って持久力があるんだ。さすがに精鋭ドラゴン達には負けるけどね。」
「こらこらお前達、任務中だぞ?」
茶龍部隊のセンクルが注意する。
「移動中は雑談くらいいいじゃないですか。」
「まったく。」
相変わらずサンドラは気楽だ。でもサンドラのそんなところが、悩み事とかある時に心の拠り所になってくれてる。
今回の任務はまたしても厭世部隊の出現報告だ。今は昼間で黒魔術の力はそこまで発揮出来ないだろうが油断はしない。しかも今回はかなり村が近いらしく、手遅れになってないといいのだが。
少し離れた村に着くと、辺りを見回す。静かだ。村人達も普通に生活している。
「変だな。」
「うーん。」
するとサンドラは片耳にかけている小さな望遠鏡を目にかけて村を見ていた。まるで絵本とかに出てくる冒険者みたいだ。
「あれ?サンドラ、その望遠鏡みたいなものは?」
望遠鏡を外して言った。
「あぁこれ?シャンクに作って貰ったんだ。最初は断られたけど、じゃあ自分で作るってオイラが鍛冶場使おうとしたら仕方なく作ってくれたよ。」
再度望遠鏡をかけた。
「凄いなサンドラは。ってライダーは視力良いから望遠鏡が無くても大丈夫じゃない?」
「オイラ、ライダーになってもあまり視力が変わらなかったんだよね。だから雲の上からだとあまり認識出来なくてさ。それに、望遠鏡があれば肉眼よりも精度は高まるし。あ、皆!村の中に黒魔術の痕跡だ!」
「ほんとか!」
「オイラが1人で行ってくるよ。」
「大丈夫なのか?」
「うん。皆で行ったとして罠だったら大変だからね。」
「サンドラ。」
「うん?」
「僕も行くよ。」
「はは!頼もしいや!うん。幹部と相手した君なら心強いよ。」
僕達は村から離れたところにドラゴンを待機させ、村の様子を見に行った。
「特に変わった様子は無いね。とりあえず黒魔術の痕跡を見に行こうか。」
「うん。」
なんだ?この違和感。村人達は普通に暮らしてるけど、何か違和感が。
サンドラは黒魔術跡の調査を始めた。
僕は辺りを見回す。
「この人参畑……。」
「どうしたの?」
「間引きがされてない。」
「間引き?」
「うん。増えすぎないために引っこ抜く必要があるんだけど、この人参畑、間引きがされてないんだ。」
「さすが村暮らし一人暮らしの知識は凄いねー。でも、村によるんじゃない?」
「植物にしろ家畜にしろ、育てるのはある程度決まった手順があるんだ。もっと良くしたい想いでアレンジを加える時もあるけど、間引きはさすがに必要だ。」
「なるほどね〜。とりあえず村人に聞いてみよっか。」
「うん。黒魔術はどうだった?」
「結構古いものだったよ。大分前みたいだ。」
「なんで村人達は無事なんだろう?」
「うーん。他の部隊が助けてくれたとか?」
とりあえず村人に聞いてみた。どうやらとくに厭世部隊による襲撃は来ていないとの事。
「変だな。一旦皆のところに戻ろうか。」
「ちょっと待って、もう少し見て回りたい。」
「分かった。村については君の方がオイラより詳しそうだし。」
僕はじっくり村の様子を観察した。人参の他にも、豚に泥が用意されていなかったり、所々餌箱が空だった。
「フリッグ……村の物置小屋の中、人がいる。」
「え?」
「タンニズアイを使ってみて。」
頷いて使う。確かに人がいる。1つの小屋につき5、6人の人が。それも何か様子がおかしい。
僕達は小屋に近づき、固唾を呑んで扉をこじ開けた。
「え。」
そこには縄で縛られ、口を封じられた人々が居た。
「どうなって?」
「早く助けよう!」
ナイフを使って紐を切り、口封じを取った。
「国の御二方、助けて頂きありがとうございます!他の者も捕まってしまって……どうか。」
「分かってます。何故こんなことに?」
「奴らですよ。最初は旅人かと思ったのです。ですが。」
「罠だったんですね。」
「えぇ。今出歩いてる奴らは偽物です。」
「分かりました。今はまだここに隠れていてください。」
「お気を付けて。」
僕達は急いで村の外に出た。しかし、扉の前で偽の村人達が待機していた。黒い煙に包まれると、姿が変わった。気づいたか。
僕は炎魔法を空に向かって飛ばし、仲間に合図した。
「へぇ?気づかれるなんて思ってもみなかったわ。」
女性の声。集まっていた厭世部隊が一歩後ろに下がると跪いた。奥から、黒いドレス姿に、緑色の結晶が着いた大きな杖を持った女性がいた。以前ステラが話していたルーシーという女と特徴が一致している。ということはこいつは、幹部。
「サンドラ!こいつは幹部だ!」
「ほんとに!?」
「あら、その察知力は血族だから気づいたのかしら。」
まずい、今回は精鋭部隊と合同じゃない。いや、弱音を吐くな。色なんて関係ない。ステラも言ってくれた。僕とサンドラは強いって。そして、自分を信じろと。
ルーシーは笑いながら大量の邪龍を作り出した。フロルと同じ緑色でも異様な邪龍。他の厭世部隊も突っ込んでくる。多勢に無勢だ。
すると、上から光線が横切った。
「皆!」
仲間たちだ!よかった。間に合った。アメリアにロースも来てくれてる。
「ここじゃ戦えない!村から突き放すぞ!」
「気をつけて!幹部がいる!!」
「何!?」
僕達は村から引き離そうと戦いながら誘導する。アメリアもサポートしてくれた。しかし、村の中では戦いにくいことを理解してるのか、離れようものならすぐに村に戻ってしまう。しかも、他の厭世部隊を処理しようにも邪龍に何度も殺されかける。
「これじゃあ埒が明かないよ。」
物置小屋には村人達が。まずい。
「もう、あんた達ってほんとに役立たずよね。一般部隊くらい速攻で片付けられないの?」
そう言うとルーシーは杖を思いっきり地面に打ち付けた。辺り一面緑色の光に包まれたかと思うと、ルーシー以外の奴らの武器が緑色の炎のようなものに包まれ、邪龍は緑色に変わった。
断末魔、爆破音、刃と刃の撃ち合う音、ブレスの音。色んな音が飛び交っているが、1部しか耳に入ってこない。
「ジブル!」
ジブルは茶龍部隊の1人だ。サンドラの叫び声。何かが落下するような大きな音。なんだ?確認する余裕が。……っ!
戦っている最中に目に入った。ジブルが起き上がろうとしている時に厭世部隊の一人が上半身を切りつけた瞬間を。彼の鎧は大分剥がれていた。そしてその横には彼のドラゴン、デザイルが片翼を失って横たわっていた。
すると、体に衝撃が走った。
「ほう?戦闘中によそ見をするとはな。」
しまった。まずい、このままだと。
「死ね。」
その時だった。大きな音のようで小さな音が鳴り響く。この音は、空を斬る音だ。この音が出るのは、最高飛行速度のドラゴンだけ。
「なん」
言いきる前に、奴は空から落ちた雷で絶命した。




