黒と紫
合流場所に着くと、既に青龍部隊がいた。クールで一段と顔の整った男性が手だけで他の仲間に合図している。すると、ワイアットが小声で話しかけてきた。
「あいつは青龍部隊長だ。ローラットと言ってな、あのバーラット教官の弟さんだ。性格が真反対だから、接する時は気をつけな?」
「そうなんだ。分かった。」
「あと、手話は分かるな?」
「うん。」
「ならいい。青龍部隊のコミュニケーションのほとんどが手話だ。必要最低限でしか言葉を交わさない。変に話しかけると白い目で見られるから注意しろ。」
僕は軽く頷く。ビースがローラットに手で合図した。ローラットは呆れるように目を回した。確かに青龍部隊は関わりづらい。
「北北西だ。」
「了解しました。」
本当に必要なことしか話さないな。これじゃあ何を伝えたいのか分からない。ビース隊長はこれだけで分かるのだろうか。
僕達は隠れながら北北西に向かった。見ると、ローラットの言う通り大量の厭世部隊がそこに居た。皆邪龍に乗っている。連隊はあるか?こんな数、いったいどうやって。
すると、ローラットが手話で僕ら紫龍部隊に指示をした。それを見た瞬間、怒りが沸き起こった。内容は簡単に言うと、囮になれ。厭世部隊が紫龍部隊に夢中になっている間、青龍部隊が裏を取って叩くと。
「あの。失礼を承知でお伺いしたいのですが、何故囮に?」
「おいフリッグよせ。」
ローラットの仲間は僕を睨みつけたが、当の本人は驚いたように僕を見た。仲間の1人が呆れたように目を回して言う。
「確実に仕留めるために決まってるだろ。」
「本当に確実なんですか?」
舌打ちをしてきた。
「囮になった一般部隊はどうなったんですか?」
「……。」
黙り込んだ。やはりか。毎回この数では無いにしても、訓練が滞っている一般部隊が囮になるなど無理がある。
ビースが僕を止めようとしたが、僕はそれを振り払って前に出た。
「あなた方は命を無駄にするんですね。」
「一般部隊1人死ぬくらい大したことじゃない。自分の身は自分で守れ。それも出来ずに勝手に死んでっただ...」
「ベレンツ。」
「すまん...…了解。」
「不満があるのなら、代替案を出してもらいたい。」
ローラットは話の分かるやつのようだ。こういうのは大抵問答無用なのに。...代替案か。反論してはみたもののさすがに代替案は……
『私よく1人で旅団とか相手すること多いんだけど、そういう時は風魔法を使って相手を混乱状態にするの。あなたは風魔法を使いこなすつもりでしょ?なら、そういうの覚えておくといいかもね。』
風……。ふとステラにそう教えてくれたのを思い出した。
「あの、風魔法を扱える方は居ないでしょうか?」
「風か。風を使って何をするつもりだ?」
「相手のバランスを崩して混乱状態にするんです。僕達が得意なフィールドを作り出すんですよ。」
「……なるほど。」
ローラットは目を閉じて少し考えていた。
「その作戦でやってみるか。」
「おい、一般部隊の言うことを聞くのか?」
「死者が出ない選択があるなら、そちらを選びたいからな。」
教官とは性格が真反対と言うもんだから、凄く悪いものだと思ったけど……物静かって意味で真反対なのか。確かに教官は結構お喋りな人だし。
ローラットは自分のドラゴンの背に乗ると、背を向けたまま手話で僕に言った。
『お前の案だ。お前がこいつらに指示しろ。』
ローラットの仲間達は不満そうに僕を睨んだ。
僕は手で皆に指示を出した。適応力が高い自分に驚いた。
作戦はこうだ。
風魔法を使いこなせる者が気づかれないように厭世部隊に近づき、死角から突風を起こす。混乱状態になった厭世部隊を一斉に叩く。
僕は手で合図を送り、突風を厭世部隊に向かって起こした。思った通り、奴らは大騒ぎになり、邪龍はバランスを崩している。
行こうアメリア!
もちろんです!
混乱に乗じて次々と奴らを殺していく。初めての任務なのに自分と同じだった人間を無慈悲に殺せるのが怖く思えた。でも、そんなこと考えていられない。相手は数多くの生き物を奴隷化し、命を踏み躙ってきた奴らだ。放ってはおけない。
しばらくし、大分数が減った。奴らは撤退し始めた。
「フリッグお前すげぇじゃん!」
「いや、皆のおかげだよ。」
これでも僕ら紫龍部隊は何度か危ないところがあった。でも青龍部隊はそのピンチを何度も救ってくれた。これが精鋭部隊……自分の目の前にいる敵で精一杯なのに、彼らは仲間のことをよく見ている。そしてちゃんとサポートできる。これで赤龍含め3番目に強いんだから……黒龍とか白龍はどんな..ステラ。
すると、ローラットが撤退している厭世部隊を追い始めた。その仲間も無言でついて行く。どうしたんだろうか。
僕達も追いかけて、彼に声をかけようとしたが、少し考えて手話で話しかけた。
『どうしたんですか?』
『奴らが撤退するなら本拠地、城があるはずだ。そこを特定する。』
確かに、王国と言う割に、奴らの城の話を一切聞いたことがない。
僕もローラットの後を追う。辺りが薄暗く、紫色の霧に包まれてきた。ここが奴らの領土か。
大丈夫ですか?
アメリア……うん。不安だけど大丈夫。
辺りを見回したその時だった。緑色の光線が僕達の目の前を通過した。
「なんだ!?」
あの一瞬で追っていた奴らを見失ってしまった。
「おやおや?ドラゴン騎士団か。」
見ると、身体中が緑色に光っている邪龍の背に乗る男がいた。
「気をつけろ。他の奴らと明らかに雰囲気が違う。」
ローラットが目を離さずに言う。
「オレサマはフロル。青と紫か?なんだよ、黒か白かと思ったのに。強いヤツと戦わせろ。」
ローラットが無言で奴に突っ込んだ。
「おっと!度胸だけはあるみてぇだなぁ!少しくらいは楽しませてくれよぉ!?」
フロルの身体中が禍々しい煙に包まれると、そこから何体もの邪龍が飛び出してきた。
「おいおい、そんなのありかよ。」
ワイアットが言う。
アメリアの魔法ブレスや、僕の風魔法を放っても動きが素早く当たらない。しかも的確に攻撃してくるから避けるので精一杯だ。
フリッグ、今の私達では……。
『緑色に発光している邪龍が1番強い。』
サンドラと一緒に読んだ本に書いてあった。それにこの邪龍、知っている情報とまるで違う。
「紫龍部隊!お前たちは撤退しろ!こいつはまともに戦って勝てる相手では無い!」
ローラットが声を荒らげた。見ると、ローラットとその相棒の雌ドラゴン、名前はニールと言ったか。彼女も負傷していた。さらに他の青龍部隊も苦戦していた。……彼らが、ここまで押されるのか。
邪龍を退ける方法はただ一つ。作り手を殺害するのみ。でもあいつは別格だ。近づくことすら出来ない。
その時だった。
「アメリア!」
邪龍がアメリアの首に噛み付いた。彼女は悲鳴をあげる。
「やめろ!離せ!」
僕は我武者羅に剣を振るった。効かないって頭では理解してるのに、体は無意味な行動をとるだけだった。
フリッグ……。
嫌だ!君は僕の人生を変えてくれた!絶対に君を救ってみせる!
僕は邪龍に風魔法を放とうと手を伸ばした。すると、突然騎龍晶が光り出した。そしてそのまま薄紫色の光線が邪龍に直撃した。邪龍はすぐ様退避する。身体中に紫色の結晶がこびり付いているが、効いてないようだった。
「これ……。」
レガーレよ。
アメリアの声でハッとする。見ると、首が血だらけになっていた。
「アメリア。」
私は……大丈夫です。フリッグ!追撃が来ます!
あの邪龍が僕達に突っ込んでくる。僕はちらっとローラット達の方を見た。あいつを何とかしないと一生終わらない。しかもあいつ、じわじわと嬲るようにして戦闘を楽しんでる。
「ごめん、アメリア。森に行けるかい?」
もちろんです。
僕達は邪龍の攻撃を回避しながら森の中を飛び回った。しばらくすると、邪龍は僕らを見失ったようだった。
ローラットとフロルが見えるところに来た。
一瞬でいい。一瞬だけ時間を作れれば。
僕はフロルに向かって手を伸ばしてレガーレを使おうとした。
うっ。
アメリア?
レガーレってドラゴンにも影響するのか?見ると、アメリアの首から血だけでは無く黒い煙が出ていた。まずい、黒魔術か。
お気になさらず撃って下さい!フリッグ!
くそっ!
僕はばっとしっかり手を伸ばし、騎龍晶に力を込めた。すると、騎龍晶が濃い紫色に変わったと思ったら、腕が黒ずんできたのだ。
え?何?
そう思うや否や、黒と紫色の光線が発射された。
「なんだ!?ぐっ!」
それはフロルに直撃した。邪龍達が全員消滅した。やったのか?
しかし、地面に墜落する直前で再び邪龍を作り出して乗った。身体中には黒い紫色の結晶が着いていた。
「黒魔術!?ルーシーの言う通り本当にいるのか!?」
どういうことだろう……もう頭が回らない。
アメリア……大丈…夫?
そう声に出そうと口を開いたのに、声が出ず、そのまま気を失ってしまった。




