騎手
昨日の夜は眠さも相まってあまり意識してなかったけど、ステラの家は森の隣だ。村から数百メートルは離れてる。村の中心にいたら分からないわけだ。中心からだとステラの家は遠すぎるし死角にもなってるから見えない。すると村が何やら騒がしかった。僕は足早に向かった。
「ねぇ、どうしたの?」
「おぉうフリッグか。あそこを見ろ。静かにな。」
村長の友人のナグラおじさんだ。おじさんが指を指す方を見ると、巨大な生き物が村の家畜を襲って食べていた。
「あれは?」
「あれはリントヴルムじゃ。本来ならここには生息しないんじゃが……どうしたものか。」
ジャイ村長が小声で皆に行った。
「いいか?絶対に声を荒らげるんじゃないぞ?慌てるのもな。ゆっくり村を離れるんじゃ。」
今は早朝、仕事のために村の人々は外に出ている。皆リントヴルムの癪に障らないように少しずつ村を離れた。すると、赤子の大きな泣き声が聞こえた。
ご近所に住むヘリアさんの息子さんが泣き出してしまったのだ。
リントヴルムは目をギョロっとこちらに向け、体の向きも変えると、大きな前脚を使って猛スピードで駆けてきた。
「ま、まずい!逃げろぉ!!」
こんなのどうやって逃げるんだよ。ワイバーンの飛行よりも速いぞ?
リントヴルムは村人達の家々を破壊しながら突進してくる。僕は恐怖で動けなかった。
唖然として動けなかった僕をあいつは見逃さない。あいつは僕を食べようと口を開けて突進する。食べられる。う、動け。
「あ、あぁ……。」
その時だった。突然リントヴルムに爆炎が起こり、大きく仰け反った。いや、起こったんじゃない、何か飛んできたのか?
「見ろ!!ライダーだ!!ドラゴン騎士団が助けに来てくれた!」
僕はハッとして空を見上げた。そこには驚くほど真っ黒なドラゴンが飛んでいた。その背には鎧を来たライダーがいた。
「ライダー……。」
ライダー。ドラゴンの背に跨って行動する。人のように見えるけど、人以上の身体能力と長寿を持ち、魔法を扱う。
リントヴルムはドラゴンに狙いを定め、強靭な脚力で大きくジャンプすると、あっという間にドラゴンが飛ぶ高さまで飛んでいた。しかし、ドラゴンは軽い身のこなしでリントヴルムの攻撃を躱すと、赤黒い稲妻のブレスを当てた。リントヴルムは真っ逆さまに地面に衝突した。リントヴルムでも流石にこの高さから受け身も取らずに落ちたらひとたまりもない。リントヴルムはよろめきながら退避した。
ドラゴンが地に降りると、村の人々は歓声を上げた。
「ライダー様、ありがとうございます。」
皆口々にお礼を言った。ライダーは軽く会釈すると、ドラゴンが大きな翼を一振して天高く舞い上がった。あっという間に小さく見えなくなってしまった。
僕は開いた口が塞がらなかった。ライダーと、その相棒のドラゴンを生で見るのは初めてだった。この村は呆れ返るほど平和なのだ。だから滅多にライダーはここに来ない。それに王国から一番遠い村でもある。
「いいなぁ……僕も、あんな風になりたいな〜。」
そう僕は呟いた。
リントヴルム。ドイツで伝わる竜の一種。後脚は無く、前脚だけで歩行する。