ダンジョン奥深くで追放された荷物持ちは隠し持っていた脱出アイテムを使って外に出ます ~追放した者たちは外に出ようとするも、未だにダンジョン内を彷徨い続けていた~
「テーリ、お前をパーティーから追放する」
A級ダンジョンである魔皇獣の洞窟地下53階にて、荷物持ちのテーリはA級冒険者チームの『銅毛な虎』のリーダーであるブアーカダから突然の追放宣言された。
「追放ですか?」
「そうだ」
ブアーカダだけでなくパーティーメンバーも全員にやけていた。
「理由を聞いてもよろしいでしょうか?」
「お前が役に立たないからだ」
テーリはブアーカダとの契約を思い出す。
「僕は荷物持ちですよ? それ以外で役に立たないことを承知の上で雇ったんじゃないんですか?」
「戦闘では役に立たないのは重々承知していたが、自衛ができないとは聞いていない」
「これ程の荷物を持って自衛しろとか無理ですよ」
テーリは自分の体重の倍はあるだろうパーティーメンバーの荷物を背負っている。
中には食料だけでなくポーションなどの回復薬や調理道具など必要な物資やこのダンジョンで得た戦利品が入っていた。
ただでさえ重い荷物を持って移動するのも大変なのに、さらに自衛をしろとか無理である。
「ほかの荷物持ちなら自衛くらいできる」
「そんな無茶苦茶な・・・」
力自慢の者が荷物持ちをするのは稀で、テーリみたいに華奢な体格な者が荷物持ちをすることが多い。
テーリからしてみればブアーカダがいっていることは理不尽なことだ。
「何しろ自衛もできない荷物持ちなど邪魔でしかない」
「だから僕をこのダンジョン奥深くで追放するのですか?」
「俺たちも心苦しいんだ。 理解してもらえないか?」
そういう彼ら彼女らだがあきらかに戦闘態勢をとっていた。
拒めば容赦なく攻撃してくるだろう。
「わかりました。 大人しく追放されます」
「理解してくれて助かるよ。 ああ、荷物は全部そこに置け」
「はい」
ドサッ・・・
テーリは背負っている荷物をその場に置いて離れる。
「おい、ポケットとかに隠している物も全部だ」
「・・・わかりました」
ズボンのポケットにある銅貨10枚を地面に放り投げる。
チャリンチャリン・・・
硬質な床に落ちたことでダンジョン内に音が反響する。
「おいっ! バカッ! 何大きな音立ててるんだよっ!!」
「大きな声で叫ばないでください。 魔物が来ますよ?」
音を感知してか魔物が近づいてくる気配を感じた。
「ま、まずいっ! 引くぞっ!!」
「「「「「了解」」」」」
ブアーカダたちはその場を素早く離れた。
もちろんテーリが置いた荷物は体格の良い戦士風の男が持っていく。
あとにはテーリと地面に転がった銅貨10枚だけだ。
落ちている銅貨を拾うとズボンのポケットに入れ、代わりにクリスタルを2つ取り出す。
「硬い床で助かった・・・さてと、さっさとここから脱出しますか。 もしもの時のために買っておいたダンジョン脱出用のクリスタルは・・・こっちだな」
テーリは2つのクリスタルのうち緑色に光るクリスタルを地面に叩きつけて砕く。
すると足元に魔法陣が出現して次の瞬間テーリの姿が消えていた。
そこに音を聞きつけた魔物たちがやってくるもその場には誰もおらず、地面には砕けたクリスタルの破片があるだけだった。
風景が変わりテーリは魔皇獣の洞窟の入口の外に転送されて無事戻ってきた。
「無事戻ってこれて良かった・・・多少損はしたけど命は金で買えないからね。 あとは冒険者ギルドに戻って『銅毛な虎』からの脱退手続きをしないと・・・」
テーリは残った青色に光るクリスタルを地面に叩きつけようとしてふと洞窟の入り口を見る。
「あ! 忘れてた! ここの魔物が外に出ないように扉を閉めておかないと」
そういうとテーリは魔皇獣の洞窟の入り口にある扉を閉め始めた。
「うーん・・・重い・・・」
テーリはなんとか扉を閉めるとポケットを弄ってブアーカダから預かっていた魔皇獣の洞窟に設置されている扉の鍵を取り出す。
扉の鍵穴に鍵を差し込み回した。
カチャッ!!
扉の持ち手を引っ張って鍵がかかったことを確認する。
「・・・よし! 扉を閉めたことを確認したし戻りますか」
テーリは改めて青色に光るクリスタルを地面に叩きつけて砕くと行き先を口にする。
「アドンに戻れ!!」
足元に魔法陣が出現してテーリの姿が光に包まれて空の彼方へと消えた。
アドンの町───
壁に囲まれた町の南側入口外に突如光が落ちてきて、光が消えるとそこにはテーリが立っていた。
「ふぅ、無事にアドンに戻ってこれた」
町に入ろうと門兵のところに歩いていく。
「お前、さっきの光から出てきたよな」
「はい。 転移用のクリスタルを使ったんです」
テーリの言葉に門兵が驚く。
「あれってたしか結構高価な物だろ? よく使う気になったな」
「僕自身の命が懸かってましたから。 躊躇している暇がなかったんです」
それを聞いて門兵が納得する。
「まぁ、そういうときもあるよな。 それで身分証はあるのかい?」
「あ! これです」
テーリが懐から冒険者登録証を取り出すと門兵に見せる。
「・・・たしかに、入っていいぞ」
「ありがとうございます」
冒険者登録証を懐にしまうとテーリは入町して迷わず冒険者ギルドを目指す。
ギルドに到着して中に入るとすぐに受付に足を運んだ。
「いらっしゃいませ。 本日はどのようなご用件でしょうか?」
受付嬢のマイが営業スマイルをしながら用件を聞いてくる。
「えっと・・・『銅毛な虎』から脱退をしたいのですが?」
「パーティー脱退の手続きですね。 身分証を拝見してもよろしいですか?」
「はい」
テーリが懐から冒険者登録証を取り出してマイに渡す。
「拝見しますね・・・確認できました。 今処理しますね」
マイはテーリの脱退の手続きをしに奥へと向かった。
30分後───
マイは1つの紙を持って受付に戻ってきた。
「お待たせしました。 テーリさんの『銅毛な虎』から脱退を受理しました」
「ありがとうございます」
マイの上半身がカウンターを乗り越えてテーリに近づく。
「ところでテーリさん、このあと時間はありますか?」
「はい」
マイがギルドの奥を指さした。
「ちょっと向こうで話をしませんか?」
「わかりました」
「では、こちらに来てください」
マイはテーリを連れて奥へと向かった。
ある部屋の前にくると扉をノックする。
『誰だ?』
「マイです」
『中に入ってくれ』
「失礼します」
通された部屋はギルド長室だ。
扉を開けて入るとギルド長のトールが応接用の椅子に座っていた。
「テーリ君、よく来てくれたね。 まぁ、座ってくれ」
「失礼します」
テーリが椅子に座るとマイがお茶を出してトールの後ろに控えた。
「それで僕に何の用ですか?」
「実は『銅毛な虎』について聞きたいことがあってね。 彼らは有名なダンジョンに潜っては功績を残すんだけど荷物持ちの死亡率が高いんだ。 君も今回は荷物持ちとして同伴したみたいだけど何があったのかを聞きたくてね」
「ああ、それならダンジョン奥深くで追放宣言を受けました。 承諾しなければ今頃殺されていたかもしれません」
テーリの穏やかではない言葉にトールは眉を顰める。
「・・・その話詳しく聞かせてくれないか?」
「わかりました」
テーリは魔皇獣の洞窟の奥底で起きたことを隠すことなくすべて話した。
それを聞いたトールもマイも難しい顔をする。
「ギルマス」
「わかっている。 これはあきらかにギルドの法に触れている。 戻ってきたら『銅毛な虎』に質疑応答しないといけないな」
マイはトールの顔を見て頷いた。
「準備しておきます」
「頼んだよ」
これで話が終わったと立ち上がろうとしたところでテーリが思い出す。
「あ! それとこれを返しておくのを忘れてました」
ポケットから鍵を取り出して机に置く。
「鍵?」
「魔皇獣の洞窟の入口にある扉の鍵です。 ダンジョンから魔物が出てこないよう扉は閉めておきました」
「そうか、ありがとう。 ダンジョンの魔物は暴走化しない限りは出ることは滅多にないけど用心してくれて助かるよ」
テーリはその場で立ち上がる。
「ほかになければ僕はこれで」
「ありがとう。 色々と助かったよ。 これは細やかだが情報料だ、受け取ってくれ」
トールから情報料を受け取ると一礼してテーリは部屋を退室した。
「しばらくは冒険者家業を休業して英気を養おう。 身体を休めたら再開すればいい」
冒険者ギルドを出たテーリは日常へと戻っていった。
その頃、ブアーカダたちは魔皇獣の洞窟の奥深くにまだいた。
「ぜぇぜぇぜぇ・・・ったく、あのガキ、余計なことをしやがってっ!!」
「はぁはぁはぁ・・・そう怒るな。 あいつの持っていた物は回収できたんだからよ」
「ふぅふぅふぅ・・・た、たしかにそうね」
ブアーカダたちはその場で息を整えると皆にやけた顔をした。
「今回も上手くいったな」
「ああ、あのガキはこのダンジョンで死に、荷物はここにある」
「あとはギルドにダンジョン攻略したって適当に報告すればおしまいよ」
思惑が上手くいったのかブアーカダたちは上機嫌になる。
「それじゃ、地上に戻ろうぜ」
「そうだな、いつまでもこんな穴倉にいても仕方ないからな」
「さっさと戻るわよ」
地下50階まで戻るとブアーカダたちは地上に戻る転移陣を探す。
「転移陣は・・・お、あったぜ」
「さっさと行きましょう」
「そうだな」
ブアーカダたちは転移陣に乗ると地下1階へと転移した。
「あとは入り口に戻るだけだ」
「これでようやくこのダンジョンともおさらばだ」
「早く町に戻って豪遊したいわ」
それぞれが好き勝手なことをいっているとダンジョンの入口に戻ってきた。
しかし、入口の扉は閉ざされている。
「え?! どういうこと?!」
「なんで扉が閉まってるんだ?!」
「だ、誰がこんなことしやがったんだ?!」
ブアーカダたちは扉を押すも鍵がかけられているため開くことはなかった。
「ちっ! 鍵がかかってやがるっ!!」
「くそっ! こうなったら破壊するしかないぜっ!!」
そういうとマヌーケガが斧を構えて全力で振り下ろした。
「でやあああああぁーーーーーっ!!」
ガキイイイイイイイィィィィィィィーーーーーーーン!!!!!!!
扉に当たるも傷をつけるどころかマヌーケガの斧を弾き返した。
「うおっ?!」
マヌーケガはその勢いで尻もちをついた。
「この扉マヌーケガの攻撃を弾き返しやがった」
「まったくっ! 何やってるのよっ! どきなさいっ! どこの誰だか知らないけど余計なことをしてくれるわねっ!!」
アッフォーノが前に出ると【火魔法】を放つ。
扉は火炎を受けるも融解するどころか涼し気に受け流している。
「このおおおおおぉーーーーーっ!! ふざけるなじゃないわよぉっ!!!」
最大出力でぶっ放し続けるも扉を破壊することはできなかった。
魔力が枯渇したのか火炎が途切れてアッフォーノはその場に座り込んでしまう。
「はぁはぁはぁ・・・」
「なんて頑丈な扉なんだ」
「おい、ブアーカダ、どうする?」
ブアーカダが少し考えたのちにアッフォーノに指示を出す。
「アッフォーノ、マナポーションで魔力回復させたら【脱出魔法】でダンジョンの外に出るぞ」
「そんな魔法使えないわよ」
「「「「「はぁ?」」」」」
アッフォーノから返ってきた言葉にブアーカダたちが呆けた。
「ちょ、ちょっと待てよ、お前魔法使いだよな?」
「なんで【脱出魔法】が使えないのよ?」
「あんたたちバカなの? 魔法使いが使う魔法といえば大抵攻撃魔法でしょ? そんなもの覚えたってなんの意味もないわよ」
アッフォーノの言葉にブアーカダたちは開いた口が塞がらない。
「それでこれからどうするのよ?」
「・・・とりあえず荷物の中に脱出用のアイテムがあるかすぐに確認するぞ」
「「「「「了解」」」」」
ブアーカダたちはテーリが持っていた荷物を全部取り出して調べ始めた。
「そういえば脱出用のアイテムってどんな物だっけ?」
「俺は知らないぞ」
「私も知らないわよ」
そして、ブアーカダたち全員が脱出用のアイテムが何か知らないことに思い当たる。
「誰も知らないのかよっ?! 使えない奴らだなっ!!」
「お前も知らないって今いっただろうがよっ!!」
「あんたにいわれたくないわよっ!!」
批判したことによりアッフォーノたちから総口撃を喰らいブアーカダは凹んだ。
途方に暮れているとアッフォーノが何かを思い出したのかブアーカダたちに話しかける。
「ねぇ、たしか前のダンジョンで鑑定できるアイテムをゲットしたわよね? あれを使えばどれが脱出用のアイテムかわかるわよ」
「おおー、その手があったか。 よし! まずはそのアイテムを探すぞ」
「「「「了解」」」」
「・・・」
ブアーカダの命令でアッフォーノたちが声を上げるもマヌーケガは顔面を蒼白させて黙っていた。
「マヌーケガ、どうした?」
「え、い、いや、その・・・」
「もう見つけたのか?」
「そ、そうじゃなくて・・・」
歯切れの悪いマヌーケガにブアーカダたちは不審に感じた。
「なぁ、マヌーケガ、お前何か隠しているだろ?」
「洗いざらい話しなさいよ」
「じ、実は・・・」
マヌーケガは鑑定アイテムが高額であることを知り、ブアーカダたちに相談せずに黙って売ってしまった。
その金で1人娼館へ遊びに行ったことを白状する。
「マヌーケガ! てめぇ! ふざけるなっ!!」
「そうよ! そうよ!」
ブアーカダの発言にアッフォーノたちが同意するが次の言葉ですべてをぶち壊す。
「なんで俺も連れてかなかったんだよっ!!」
「そうだぜっ! お前だけずるいぞっ!!」
「「「はぁ?」」」
ブアーカダたち男性陣の言葉に女性陣が額に青筋を立てて鬼の形相で睨んでくる。
それを見たブアーカダたちが慌てて取り繕う。
「お、落ち着けよ、男だったら当たり前のことなんだからよ」
「そ、そうだぜ。 女だって服や宝石や食事に金かけるだろ? それと同じさ」
「ぐぅっ! 痛いところを突いてくるわね」
マヌーケガの言葉にアッフォーノたち女性陣がぐうの音も出なかった。
アイテムでの脱出も絶望的になったブアーカダたち。
「魔法での脱出がダメ、アイテムでの脱出もダメ、あと脱出する方法って何かあるかしら?」
「1つだけあるといえばあるけどな・・・」
「なんだあるならあるとそういえよ」
ブアーカダの言葉を聞いてアッフォーノたちはすでに脱出はできたも同然と楽観する。
だが、次の言葉でアッフォーノたちは絶望することになった。
「このダンジョンを攻略・・・つまり最下層である地下100階に行き、このダンジョンのボスといわれるナイトメアキマイラを倒さないといけないんだ」
「「「「「ナイトメアキマイラ?!」」」」」
ナイトメアキマイラ。
A級ダンジョンである魔皇獣の洞窟地下100階にいるダンジョンボス。
見た目は獅子のような身体に3つの獣の首、背中に巨大な羽、蛇みたいな尻尾がついた魔物だ。
ドラゴンにも匹敵する強さ、それと飛行能力、鋼をも超える頑強な皮膚、数々の属性攻撃や特殊攻撃、さらに超再生能力を持ち、首や足を1つ落とした程度ではすぐに再生する。
何より怖いのは死んでも生き返る。
それも13回もだ。
あまりにも強すぎるので悪夢の名がつけられた。
因みに魔皇獣の洞窟がA級ダンジョンの理由は道中の魔物がB級クラス以下の強さしかなく、殺傷能力が低い罠なのとそれにダンジョン自体が陰湿な造りになっていないからだ。
ただ、ダンジョンボスが極悪なのを除けばだが・・・
「そんなの無理に決まっているだろっ!!」
「そうよっ! 死にに行くようなものだわっ!!」
アッフォーノたちが不満を口にするがブアーカダが手で制する。
「まぁ、待て。 今のは確実にダンジョンから脱出する方法だ。 最後の手段だと思ってくれ」
「ほかに何か手はあるのか?」
ブアーカダはにやりとする。
「ああ、それはダンジョン内の宝箱だ。 そこからダンジョン脱出用アイテムか鑑定アイテムがでればこのダンジョンともおさらばだ」
「「「「「おおー!」」」」」
ブアーカダの言葉にアッフォーノたちに希望が戻ってきた。
「それじゃ、このダンジョンの宝箱を片っ端から開けるぞ! そうと決まれば荷物を纏めて出発だ!!」
「「「「「了解」」」」」
ブアーカダたちは散らばった荷物を纏めるも上手く入らずにいくつか地面に残った。
「おいっ! 何やってるんだっ! 全部入れろよっ!!」
「入らないんだから仕方ないでしょっ!!」
「だったらてめぇがやれよっ!!」
指摘したことでアッフォーノたちから『自分がやれよ』宣言にブアーカダがたじろぐ。
「ちっ! 入らないなら捨てるしかないか」
「何いってるのっ! これは売れば高額で買い取ってくれるのよっ?! 捨てるなんてとんでもないわっ!!」
「そうだぜっ! お前物の価値もわからないのかよ?」
「なんだとおぉっ!!」
アッフォーノたちからの無能宣言にブアーカダが怒りを露わにする。
「ふんっ! 見てろっ! 俺がすべて入れてやるっ!!」
それから10分後、地面には先ほどよりも多くの物が散乱していた。
「・・・」
「「「「「・・・」」」」」
ブアーカダは額を拭う仕草をする。
「ふぅ・・・俺には無理だったようだな・・・」
「「「「「ふざけるなぁっ!!」」」」」
アッフォーノたちは怒りからかブアーカダをボコボコに殴った。
怒りが収まったところで荷物整理を始める。
「とりあえず必要な物と不要な物に分別するわ」
「そうだな」
「これは必要・・・これも必要・・・これは不要・・・」
アッフォーノたち女性陣が仕分けしていくがここでも問題が起こる。
「ちょっと待て! それは俺の服や肌着だ!!」
「あんたたちの服や肌着なんて要らないでしょ」
「なら、お前たちの服や下着だって要らないだろ!!」
「何いってるの? あんたたち男性と違って女性には必要不可欠な物なのよ!!」
マヌーケガたち男性陣とアッフォーノたち女性陣が睨みあう。
しばらく睨みあうとアッフォーノが代替え案を提示する。
「・・・ならば、こうしましょう。 必要な物を入れて最後に私たちの私物を入れる。 入らなかった物は所有者が持っていくかその場で捨てる。 これでどうかしら?」
「いいだろう。 それでいこう」
アッフォーノたちは仕分けを再開する。
ある程度分別するとマヌーケガがいくつかあるクリスタルを見た。
「なぁ、これって価値あるのか?」
「なにそれ? 綺麗だけどほかの宝石よりかは価値が低いわね」
「それじゃ、これは要らないな」
マヌーケガはダンジョン脱出用のクリスタルと転移用のクリスタルを要らないほうへと置いた。
仕分けを終えると荷物を纏めていく。
不要な物を取り除いたことで作業は無事終了した。
「そういえば要らない物をダンジョンに放置するとどうなるんだ?」
「ある程度放置するとダンジョンが吸収するらしいわよ。 本当かどうかはわからないけど」
「このまま置いていこうぜ」
アッフォーノたちはブアーカダの傷を治すとダンジョン脱出用アイテムを探しに出発した。
ブアーカダたちがその場を去ってからしばらくしてダンジョンの魔物たちがやってくる。
魔物たちはクリスタルを手に取ると不思議そうに見つめていたが、そのうちの1つである緑色のクリスタルをうっかり落としてしまう。
それは奇しくもダンジョン脱出用のクリスタルで、その場にいた魔物たち全員がダンジョンの外へと転送された。
突然外に出た魔物たちはビックリして四方八方に別れて駆けだす。
こうしてブアーカダたちの不注意で魔皇獣の洞窟にしかいないはずのB級クラスの魔物が世に放たれて人々に多大な迷惑をかけることになった。
ブアーカダたちはダンジョン脱出用アイテムか鑑定アイテムを求めてダンジョンの探索を開始した。
それから5時間後に地下1階の探索を終えるとマヌーケガがブアーカダたちに声をかける。
「なぁ、そろそろ腹減ってきたから何か食べようぜ」
「そういえばそうだな」
「じゃぁ、荷物から食料を出して何か食べましょう」
ブアーカダたちは荷物にある食料を確認するとあと1日分しかないことに気づく。
「おい! なんで食料がこれだけしかないんだよ!!」
「あのガキが用意してなかったんだろ」
「まったくいい迷惑よね」
ブアーカダたちは憤慨するが実はマヌーケガが毎回大量に食べていたため、食料が底を尽きかけていたのだ。
そうとは知らずにテーリのせいにするブアーカダたち。
「とりあえず今はこの食料で賄うとして、今後は倒した魔物の肉を持っていきましょう」
「そうだな」
「じゃぁ、アッフォーノは【火魔法】禁止な」
突然の【火魔法】禁止宣言にアッフォーノが反発する。
「なんでよ!!」
「だってお前の【火魔法】で仕留めたら魔物はいつも黒焦げの消し炭になるだろ?」
「う゛っ!!」
マヌーケガから事実を突かれてアッフォーノが凹む。
「まぁまぁ、そんなことより飯にしようぜ」
「「「「「おおー!」」」」」
それからブアーカダたちは食事をとりながら探索の感想を口にする。
「ところでこのフロアで発見した宝箱から俺たちが荷物を纏める際に捨てた石がやたら出てきたよな?」
「武器や防具、ポーション、素材なら大歓迎だけどただ綺麗な石だとなぁ・・・」
「魔導書とか宝飾品とか出てくるからあんな石を持っていく理由がないわよねぇ・・・」
ブアーカダたちは未だに宝箱から出てきたのが自分たちが求めるダンジョン脱出用アイテムであることとは知らずにその場に放置していた。
なぜなら宝箱内にはダンジョン脱出用アイテム以外にも先の話に出てきた武器に防具、魔導書、ポーション、素材、宝飾品と持ち帰りたくなるアイテムばかりが入っていたのだ。
その中でただの綺麗な石を持って帰りたいと誰も思わないだろう。
程なくして食事を終えるとブアーカダがアッフォーノたちに今後の方針について伝えた。
「よし、食事もしたし少し休んでから次の階に進むぞ」
「「「「「おおー!」」」」」
かくしてブアーカダたちはダンジョン脱出用アイテムを求めて更なる階層へと足を運ぶのであった。
地下99階───
あれから3ヵ月が経過した。
ブアーカダたちは未だダンジョン脱出用アイテムを求めて彷徨っていた。
ここまで来る間に目的のクリスタルが宝箱から出てきたのは数知れず、すべて要らないとその場に放置していたのだ。
それといくつか魔導書を手に入れたが、残念ながらダンジョン脱出用の魔導書はなかった。
「ねぇ、もう99階よ。 この階で見つからなかったらどうするつもりよ?」
「そんなの簡単だ。 地下1階に戻って最初からやり直すだけだ」
「なるほどな。 さすがブアーカダだぜ」
ブアーカダの言葉にアッフォーノたちが納得する。
「とはいえ、そろそろ手に入れたいよな」
「ここらも粗方調べつくしたしな」
「多分見つけてあと1個か2個でしょうね」
ブアーカダたちの体力や魔力は限界に近く、全員が満身創痍の状態である。
ダンジョン内を歩いていると通路の先に部屋が1つあった。
「お! 部屋を発見したぞ」
「宝箱があればいいけどな」
「こればかりは運に頼るしかないわ」
ブアーカダたちは部屋の扉を開けるとそこは20メートル四方の広い空間だ。
その最奥には宝箱が1個置かれている。
ブアーカダたちは嬉々として宝箱に近づく。
「宝箱だぜ」
「今回こそ当たってくれよ」
「さっさと開けなさいよ」
ブアーカダが緊張した面持ちで宝箱を開ける。
そこにはモノクルと青色に光るクリスタルが1つずつ入っていた。
「おい! これって!!」
「ああ、鑑定できるアイテムだ!!」
「やったわ! これでようやくアイテムの鑑定ができるわ!!」
ブアーカダたちはその場で喜びあった。
それからもう1つの綺麗な石を見てがっかりする。
「おい、またこれかよ・・・」
「いい加減見飽きたわ・・・」
「お前たち落ち着けよ。 とりあえずこの訳のわからない石を鑑定してみようじゃないか」
ブアーカダはアッフォーノたちを宥める。
「どうせただの石でしょ」
「鑑定するだけ無駄だぜ」
ブアーカダは転移用のクリスタルを鑑定して思わず興奮した。
「よっしゃあああああぁーーーーーっ!! 転移のクリスタルだあぁっ!!!」
「マジかよっ?! でかしたぜぇ!!」
「やったわぁ! これで帰れるわぁ!!」
アッフォーノたちは先ほどの態度から一変転移用のクリスタルを崇めた。
「それじゃ、さっさとここから脱出しようぜ」
「ああ、アドンに戻れ!!」
ブアーカダはクリスタルを地面に叩きつけて砕くと行き先を口にする。
足元に魔法陣が出現してブアーカダたちの姿が光に包まれると天井に向かって飛んでいくが・・・
ダアアアアアアアァァァァァァァーーーーーーーン!!!!!!!
ダアアアアアアアァァァァァァァーーーーーーーン!!!!!!!
ダアアアアアアアァァァァァァァーーーーーーーン!!!!!!!
ダアアアアアアアァァァァァァァーーーーーーーン!!!!!!!
ダアアアアアアアァァァァァァァーーーーーーーン!!!!!!!
ダアアアアアアアァァァァァァァーーーーーーーン!!!!!!!
天井にぶつかるとそのまま落下して地面へと叩きつけられた。
「いってえええええぇーーーーーっ!!」
ブアーカダたちは天井にもろに頭をぶつけて皆頭を抱えて地面をゴロゴロしながら悲鳴を上げていた。
「なんで転移で外に出れないんだよっ!!」
「おかしいだろっ!!」
「これじゃ一生ここから出られないじゃないのっ!!」
ブアーカダたちが文句を言っていたその時、足場がぐらぐらと揺れ始めた。
「おいっ! なんだこれはっ?!」
「地震っ?!」
「嫌な予感がするぜっ! この部屋から出るぞっ!!」
ブアーカダたちは立ち上がると地面が揺れている中、部屋の入口まで走っていく。
だが、あともう少しというところで急に足場が崩壊する。
「うわあああああぁーーーーーっ!!」
ブアーカダたちは成すすべもなく下の階に落とされた。
「ぅ・・・ぅぅぅ・・・お、おい、大丈夫か?」
「な、なんとかな・・・」
「酷い目にあったわ・・・」
ブアーカダたちはなんとか立ち上がると周りを見渡した。
落ちた先は地下100階。
そこは広大な部屋で見渡す限り上り階段も下り階段もなく、このフロアにいるのはダンジョンのラスボスだけだ。
「なぁ、すごく嫌な予感がするんだけど・・・」
「俺も・・・」
「私も・・・」
するとブアーカダたちの後ろからこの部屋の主の声が聞こえてくる。
『グルルルルル・・・』
ブアーカダが地下100階にいる魔物を思い出す。
「ま、ま、ま、まさか・・・」
ブアーカダたちは蒼褪めた顔で恐る恐る声のしたほうへと振り向く。
そこにはナイトメアキマイラがブアーカダたちを見ていた。
「ナ、ナイトメアキマイラ・・・」
ブアーカダが名を呼ぶとナイトメアキマイラが咆哮した。
『ガアアアアアァーーーーーッ!!』
「「「「「「ひぃっ!!」」」」」」
あまりの圧にブアーカダたちは竦んで動けない。
ナイトメアキマイラはブアーカダたちにゆっくりと近づく。
「こ、こんなところでくたばってたまるかぁっ!!」
マヌーケガが斧を構えるとナイトメアキマイラに特攻した。
「くたばれえええええぇーーーーーっ!!」
残りの力すべてを振り絞って斧を振り下ろす。
ガキイイイイイイイィィィィィィィーーーーーーーン!!!!!!!
マヌーケガの一撃はナイトメアキマイラの皮膚を傷つけるも致命傷には至らなかった。
無防備になったところを左前足で振り払う。
「ごほっ!!」
マヌーケガは腹に強烈な一撃を受けると成す術もなく吹っ飛ばされた。
ダアアアアアアアァァァァァァァァーーーーーーーン!!!!!!!
仰向けに倒れるも身体が小刻みに痙攣している。
「じょ、冗談じゃないわっ!!」
アッフォーノは残りの魔力を全部使って【火魔法】を発動する。
巨大な火球が現れるとナイトメアキマイラに放った。
「死になさいっ!!」
火球はナイトメアキマイラに直撃すると爆ぜた。
ドゴオオオオオオオォォォォォォォーーーーーーーン!!!!!!!
「はぁはぁはぁ・・・」
「や、やったか?」
ブアーカダがナイトメアキマイラのほうを見る。
炎が収まるとナイトメアキマイラが平然としていた。
「うそ・・・」
呆然としているアッフォーノにナイトメアキマイラの蛇の尻尾が襲い掛かる。
「アッフォーノ!!」
「危ないっ!!」
アッフォーノを庇うべくブアーカダ以外の3人が前に出て防御態勢をとった。
しかし、壁にすらならずアッフォーノたちはマヌーケガ同様に吹き飛ばされる。
「がはっ!!」
アッフォーノたちもマヌーケガのように死にはしなかったが瀕死の重傷を負っていた。
「ぅぅぅ・・・」
「ブ、ブアーカダ・・・」
「た、助けて・・・」
アッフォーノたちは必死にブアーカダのほうへ手を伸ばす。
だが、ブアーカダは動かない。
否、動けない。
なぜならナイトメアキマイラが残されたブアーカダを見ていたからだ。
「お、俺は・・・俺はこんなところで死んでいい人間じゃないっ!!」
ブアーカダはナイトメアキマイラに背を向けるとアッフォーノたちをおいて逃げ出した。
「ブ、ブアーカダ・・・」
「お、おいてかないで・・・」
アッフォーノたちの願いはブアーカダには届かなかった。
広い空間をブアーカダは走り続ける。
「ど、どこかに99階へと上がる階段があるはずだっ!!」
すると上り階段と思しき扉を発見した。
「や、やったぞ! これで助かるぞ!!」
ブアーカダは扉の持ち手を探すが見つからない。
「ないっ! ないっ! ないっ! なんで持ち手がないんだっ!!」
ガンッ!! ガン!! ガン!! ・・・
扉を叩き始めた。
「開けろっ! 開けやがれっ!!」
必死に叩くも手が痛いだけだ。
ブアーカダは忘れていた、このフロアがボス部屋であることを。
倒すか倒されるかしないと扉が開かないことを。
『グルルルルル・・・』
ブアーカダは怯えた顔で恐る恐る声のほうへと振り返る。
そこにはナイトメアキマイラが悠々と歩いてくる姿が見えた。
ある程度ブアーカダに近づくとナイトメアキマイラは動きを止め右前足を高く上げる。
「や、やめろ・・・」
右前足が最高点に達するとナイトメアキマイラはブアーカダに狙いを定めた。
「やめろおおおおおぉーーーーーっ!!」
ブアーカダの叫びも虚しくナイトメアキマイラは高らかに上げた右前足を振り下ろした。
あれからどれだけの年月が経っただろうか。
魔皇獣の洞窟を最後にブアーカダたち『銅毛な虎』を見かけた者は誰もいない。
A級冒険者チームの失踪は最初こそ大きな話題になったが、時間が経つにつれて人々の記憶から消えていった。
そして、ブアーカダたちが魔皇獣の洞窟地下100階ボス部屋で骨となって見つかったのはそれから10年以上も先のことであった。