追い出したから手おくれ
空気というスキルをネタにしたかっただけ
「偽聖女エア!! 聖女の名を騙り国を傾けた報いを受けてもらう!! また、それに手を貸した我が兄アリストも同罪だ!!」
断罪するのはこの国の第二王子であるフリード。
「フリード。何を言っている。エアは……」
「聖女でありながら何もせずにただ豊かな生活をしているものが聖女とは思えません。聖女というのは豊穣のスキルを持つガイアこそふさわしい」
とフリードの側近と共に現れたのは先ほどまで農作業をやっていたという格好の一人の少女。
「えっ、あの……」
戸惑っている初々しさもあって、この場にいる誰もが彼女こそ聖女の様に思えた。
「フリード。エアは」
「アリスト殿下。彼は間違っていません。私は聖女ではないので」
そう。聖女と名乗っていないのに聖女だと言われただけだ。長くこの国に滞在するつもりはなかったが求められたからいただけだ。
潮時だ。
「食事も服も報酬としていただいたので返すつもりはありませんが、この国に不必要だと思われたのなら去りましょう」
たまたま来て、アリスト殿下に会った事でアリスト殿下の人柄を気に入ったからいただけだ。去れと言うのなら迷いはない。
ただ、思うのは。
「アリスト殿下にご迷惑を掛けて申し訳ない」
盗賊に襲われて着るものと食べるものがなくなっていたのを助けてもらって、ただでもらうのは申し訳ないと告げたら報酬を前払いだと言われて気が楽になったのだ。
「いや……」
アリスト殿下は周りに視線を向ける。誰しも自分たちに向ける眼差しは冷たい。
「貴女の貢献の結果がこれだと思うと自分がきちんと説明できてなかったのだと痛感しました」
自分が罰を受けるのは気にしないと言う感じの口調に、
「なら、一緒に出ていきますか?」
国を捨てて。
問い掛けると迷うように視線を動かしたのは一瞬。
「ああ。そうしよう」
とアリスト殿下が告げたと同時に二人と周りの間に透明な壁が現れる。
「じゃあ、国を頼むな」
任せるとアリスト殿下の言葉を負け惜しみだと誰もが思っただろう。
「空気などという妙なスキルを持つだけの女に騙されて兄上は愚かだな」
と嘲笑するフリード殿下の声が聞こえたのだから。
空気というスキルを持っていると分かった時周りは私に失望した。あってもなくても関係ない無意味なスキルだと。
そんな役立たずはいらないと追い出されて一人でずっと旅をしてきた。だけど、それを唯一素晴らしいスキルだと言ってくれたのはアリスト殿下だった。
そのスキルで国を助けてくれと。
「**の国が滅んだんだってさ」
「何があったんだ?」
「環境破壊で大気が毒だらけだったのを聖女と第一王子が改善しようと政策に取り組んでいたのだけど、それを金食い虫の行いだと計画を中止して、聖女と第一王子を追い出したとか」
とある国で食事をしていたらそんなうわさ話が聞こえた。
アリスト……元殿下は複雑そうな表情を浮かべる。
「後悔してますか?」
出てきてしまった事を。
そっと尋ねる。ちなみに内緒話がしやすいように空気を操って音を遮っている。周りの音は集めるがこちらの音は聞こえない便利なスキルだ。
「………………いや、あのまま国にいたら殺されていただろう。あの時はたまたま君を理由にしたが君が居なくても別の理由を付けて手を回したはずだ」
悲しげにそれでいてどこか淡々と告げる声に実際ありそうだなと思って頷いてしまう。
スキル空気という意味の分からないそれの使い道を知ったのはアリスト元殿下に会えたからだ。かの国は国を豊かにする政策を代々行っていて、その豊かさの裏で喘息などで苦しむ人々が多かった。
原因が環境破壊による大気の汚染だと気付いたアリスト殿下は大気を綺麗にする方法を探って、政策に取り込んだが、なにぶん空気という見えないものだ。理解されなかった。
「せめて、ガイア嬢の豊穣の力で伐採した分の木の成長に回してもらえるといいですけど……」
そうすれば壊した分だけ回復して大気も綺麗になっただろう。
でも、もう自分たちの知る事ではないと思うだけだった