08 二度目の初クエスト
第二章のはじまりだぁ!
朝目が覚めると得体のしれない違和感に苛まれた。
何かがおかしい。僕自身には何も変化がないし、寝る前と特に変わったことはない。ただ身体のいろんな所が痛いが。僕はなんとなしに窓へ目を向けた。
「あれ? 寝る前に窓閉めたよね?」
なぜか窓が開いていた。妙に風が当たるなと思った原因はこれだろうが、なぜ開いているかが分からない。首を傾げるが、寝起きの頭に考え事は無意味だ。脳が働いてくれない。
窓前に行き僕は外を眺めながら伸びをする。
(王宮に行って早く日本に帰し、て……)
「は? え、ど。え?」
驚きのあまり、僕は語彙を消失してしまった。机の引き出しに入れておいた袋がない。正確に言うならば、昨日もらった七四ポイントの入った袋が無い。
「もしかして盗られた?! だから窓が開いて……」
最悪な想像をし、思わず身震いをする。
(誰がこんなことをぉ……もぉ最悪!)
怒りが溢れ出し手にギリギリと力を入れる。爪が皮膚に食い込んでくると一気に緩めた。
「はぁ……考えても仕方ない、か」
とりあえず、被害届だけ自警団へ出しに行くことにした。
(一回世話になったし、これで見つからなかったら諦めてもっかいクエストするしかないかな)
そうと決まれば早速、身支度を調えると街の中央にある自警団へ向かった。敷居を跨ぐと前に世話になった人、というか獣がいた。
獣耳に尻尾を持つ狼人。自警団の制服である衣装を纏っており、気高さがある。
「お久しぶりです。ジョイドさん、実はちょっと窃盗に遭っちゃって……」
「? 誰ですか? 以前どこかで会いましたでしょうか?」
「え? いや、五日ほど前に野盗に襲われたときに助けてくれたじゃないですか」
「……? あの頃にはまだ私はここに配属されていませんよ」
意味が分からずオウム返しをしてしまうが、結果は変わらず頭を悩ますばかりになってしまう。僕は腕を組み考える。
(まだ配属されてない? でもここの場所を教えてくれたのはジョイドさんだし……)
なにか。何かが僕の中で引っ掛かる。
やはりおかしい。
朝から思っているが、ここは何か僕が知っているディスピアエデンとは違う気がする。
そんな思惑をよそに、ふと気になったことを訊いてみた。
「今日って……何月の何日、ですか?」
「? 五月の八日ですよ」
これでハッキリした。
(僕はタイムリープしたんだ……)
この世界に召喚されたのが五月七日。つまり今日はあのクエストを受けた次の日ってことだ。
(どおりで身体のあちこちが筋肉痛になってるわけだ)
「あ~……ごめんなさい。さっきのは忘れてください。それと……信じるかどうかは別として、十六日に南区の大橋越えた路地に三人組の野盗が来るかも知れないです」
「それはどういう……あ──」
僕は言うだけ言うと自警団の詰め所を去った。
本当にタイムリープしてしまっているからには信じるしかないが、これは本当にいやらしい。でも、何かしらの条件があるはずだ。こういう知識が無い僕にもたまたまみた映画の知識がある。アレは確か回数制限があったはずだ。壊れたらもう戻ることは出来なくて、事故に遭ってしまうのを未然に防いだりするようなシーンがあったりしたな。
(これからどうするか……)
懐からポイントカードを取り出してみるとカードの色は青色のままで、ポイントの数を表すカウンターは0を差していた。僕はため息を一つ零すとクエストをするため街道まで歩く。
(あの魔獣達は二十一日に現れる。なら今のうちに街の外で出来るクエストをした方が良いね)
そう考えると僕は前回で取得したクエストを集めに行き、回収したモノの中で優先順位を付けた。
(まずは薬草採取からだ。その次は魔鉱石の回収か)
空を見上げ、大体の時間を把握する。太陽は頭上にあり昼頃といったところだろう。このぐらいなら二つのクエストはこなせるであろう。
街の外に出るとサーペントタイガーと戦った森。ではなく、手前にあるちょっとした薬草畑に向かった。
(ええっと、前あった場所が……)
一度やったおかげか、大体の場所は憶えているため自然と作業効率が良くなる。ものの一時間程で採取し終えると次の場所へ向かう。
森からはかなり離れ、鉱山へ。作業員がピッケルを片手に鉱石を掘っている。それを一輪車に乗せ倉庫へ運ぶ。魔物に襲われたりの危険はほぼ無いが、かなりの重労働のため貰えるポイントが多いのだ。
(ま、今回は回収だからそんな疲れることはしないけど)
まずはここの指揮をとっているドワーフに会いに行く。それから馬車に魔鉱石を詰めるのを手伝い、僕も馬車に乗る。あとは流されるまま街へ帰ればクエスト達成の報告をしに行き、終わりだ。
僕は馬車に揺られながらため息を一つ。
(これで七ポイントか……サーペントタイガーにだけはもう遭いたくないな)
そんなことを思いながら街へ着いた。達成報告をしたら宿に帰り晩飯を食べると、明日に備え早めに寝ることにした。
ではまた明日──