06 まだ帰れない
僕は嫌な人間だ。駆けているうちに段々と罪悪感が出て来てしまう。時間が経つごとにその気持ちは強くなっていく。今さら引き返したところで僕にはなにもできない。だってそんな力も、勇気も、気力も無いからだ。
(見えてきたっ!)
ようやく街へ近づいてきた。呼吸を乱しながらやっとの思いでたどり着く。
街を出てすぐの場所にはたくさんの人が居り、ゴブリンやら犬のような魔物と戦っていた。僕はそれを尻目に街の中へ駆け込む。
「はぁ、はぁ。ここまで来ればっ……安全……」
走るのに疲れ、地面へと膝を突き崩れる。するとギルド職員らしき人物が僕の元へ寄ってきた。
「何かあったんですか?」
「……あっちの森にサーペントタイガーとブルーウルフが出て、僕だけ、逃げ、て……」
そこで言葉が切れてしまう。僕は理解した。あの時の、言葉の意味を。
「あの人達は……僕を逃がすために、あんな言葉を……」
その瞬間、僕の頬を撫でる雫が現れた。思いがけず、次第にそれは大粒となり両手で顔を覆う。
──人助けは彼女との約束であり、なにより大事にしないといけない理だ。
「彼らが危ないわ! 急いで討伐隊を組んで向かってください!」
僕は声にならない音を漏らすと頬を力強く抓った。
「痛っ……なにか、なにか僕に出来ることは……ないですか」
(殺らなきゃ……僕が、みんなを助けるんだ……!)
目を擦り、涙を拭くと立ち上がった。
精々気を引くくらいしか出来ないかも知れないが、それでもしないよりかはマシだ。僕がそうしたいからする。
討伐隊が組み上がり、僕がその場所まで案内することになった。しかしそこまで距離があるので馬車に乗り足早に向かう。
「──! ────!!」
その場所に近づいてくると声のようなモノが聞こえた。僕は安心しホッと胸を撫で下ろす。
馬車が止まる。乗っていた冒険者達が降りていき、足を止めた。僕は不思議に思う。だって早く加勢して魔物を倒して欲しいんだ。でも、ここからの位置だと突っ立っている冒険者しか見えず、その先の状況が何も見えない。
「……えっ」
仕方なく僕も馬車を降りる。冒険者をかきわけると先頭に出た。目の前の光景に脳の処理が追いつかず僕は思考を止める。
そこにあったのは紅く染まった地面に大剣と杖が落ち、剣が突き刺さっている光景だった。冒険者達はこれを見てパッとこう考えたのだろう「あいつらは助からなかった」のだと。
(まっ、まだどこかにっ……!)
そうだ。武器を捨てて森の中にでも逃げたのかも知れない。僕は急ぎ走ろうとするが、誰かに腕を掴まれた。
「!! 生きてっ──」
「あの森に入るのは止めときなさい」
違う人だった。驚きと混乱と怒りと、悲しみと……色々な感情が僕の中で渦巻く。どうにか手を振り解こうと暴れるも、僕の力では適いもしなかった。途端膝から崩れ落ちると地面へ座る形になる。
(僕のせいだ……僕に、力が無いせいで……助けられなかった)
激しい後悔と、なにもできない僕への怒りが幾度もの層に連なり僕を追い詰めていく。
「大変だ! こっちにでかい魔力が近づいてくるぞ!」
「散開して戦闘態勢をとれ! お前は下がってろ」
(また……)
ただなんとなしに言っただけなのだろうが、その言葉が僕の傷を抉るように突き刺さる。
──僕はいらないのか。
──必要ないのか。
──生きてる価値もないのか。
負の感情だけが僕の中を渦巻き、激しい嫉妬が溢れ出してくる。
僕は嫉妬していた。嫉妬に感情を支配されていく。
ずるい。僕だってそんな力が、みんなを守れるような……助けることが出来る力が欲しい……! この世界の人達だけなんずるいよ。郷に入っては郷に従えでしょ? 僕にもその力をくれよ。それとも、この世界の人達と僕とでは似て非なる者なの?
──と、森の中から魔物が飛び出てきた。冒険者達はすでに包囲網を敷きいつでも殺れる態勢になっている。討伐隊のリーダー、僕が森に入ろうとしたのを止めた女性が指揮をとり戦闘が始まった。
「『炎弾』」
「『風切り』」
「『火纏い』」
各々が魔法を放ち、剣を燃やし立ち向かっていく。サーペントタイガーはその全てを避けると俊敏な動きで冒険者を攪乱させた。
「なんて速さだ!」
「照準が定まらねぇ!!」
冒険者達から苦悶の声が上がる。
サーペントタイガーの動きが止まった。謎の行動に不思議がるが、一人が好機だと思ったのか剣を振りかざしながら突っ込んで行ってしまう。
「なっ、おいやめとけ!」
静止の声に顔だけ振り向かせ言葉を放つ。
「こいつを倒せば俺がスレイヤーの称号を貰えるんだよなぁ?! うへへへへ!!」
とち狂ったように剣を縦に一線。
──男が木端微塵に飛び散った。
「な、何が起こったんだ……」
「攻撃が、見えなかった」
「うそでしょ……あんなの倒せるわけないよ」
絶望と、恐怖が一瞬で刻み込まれた。
「ねぇ! どうやったらみんなみたいなアレ使えるっ?」
「魔法のこと?」
「そう魔法だよ! どうやったら使えるの!」
僕には試してみたいことがある。だがそれの仕方を知らない。リーダーの女性に訊くが
「魔法なんて感覚よ。出来たものに名前を付けて分かりやすくしてるだけのね」
理論も知識もない。ただの偶然、いやたまたま出来てしまった異物かも知れない。やり方さえ分かればと思ったが、これでは使うことすらその一部分も分からない。でも、このおかげで思いついた。
(無いなら創れば良い……!)
僕にはそういう、魔法やらなんやらの知識は無いけど考えたりするのは得意な方だ。
第1章の終わりが見えてきた
まだ投稿して3日なのに思ってた以上に伸びててめちゃくちゃ嬉しいです!
明日も同じくらいに投稿すると思います!
(水曜は忘れてる確率が高い)