05 初の討伐?
そんなこんなで会話をしながら向かっていると目的の場所に着いてしまった。そう、着いてしまったのだ。目の前には鬱蒼と茂る森があり、草木が伸び放題になっている。辺りはシンとしておりいかにも、嵐の前の静けさといった感じだ。
「索敵を頼む」
声を掛けられた魔法使いは杖を地面に突き立て何かを言い始めた。
「魔力の導、そのモノを我が魔力と呼応せし、居場所を示せ『索敵』」
カッと目を開くと頭を横に振った。
「ダメね。この近くには居ないわ」
「そうか……ならあっち側だな」
そう言いながら目線を向ける。三人も目線の先を追うとその先にはゴツゴツとした岩山があり、傍を川が流れていた。
「あの岩山に隠れて作戦を練るぞ」
それぞれ相づちを打つと辺りを警戒しながらそこへ向かう。と、ガサガサと茂みの奥から何かが飛び出してきた。
「『炎弾』!」
すかさず魔法を放ち対象を黒焦げにした。よく見るとゴブリンのようだった。
ウグルァァァ。
どこからともなくゴブリンの呻き声が聞こえてきた。僕はすぐさま周囲に目を走らせる。
(どっち。どこ、どこにいるっ?)
ただ怖いだけだが警戒心がマックスになり、鳥肌が立ちまくっている。
「避けて!! ブルーウルフが来るわ」
「よ」と言われた時点で僕はすでに動いていた。極限まで研ぎ澄まされた感覚に僕は一瞬で反応し、その場から十メートル以上距離をとっていた。
草木を縫うようにして飛び出してきたブルーウルフの群れは僕を飛び越え、森と挟み撃ちするようにこちらを睨む。
「まずいわね……これじゃぁあたし、防御しかできないわ」
苦虫をかみ潰すように言うと足を一歩引いた。
「ならば、わしの出番というわけじゃな!」
今まで一言も喋らなかったもう一人がようやく声を上げた。背中に携えていた大剣を引き抜くと両手で構える。
「頼むぞじじい。俺も手伝うがあんま期待するなよ」
「ほっ。バフを掛けておくれ」
「分かってるわよ」
息の合ったコンビネーション。と言えるのかは不明だが、さすがはパーティを組んでいるだけはある。ちゃっちゃかと戦闘態勢が整った。僕は彼らの後ろで息を潜めている。理由は簡単、戦いたくないからだ。
そろっと後ろに足を出すと何かを踏みつけた。これが石ならばまだ良かったのだが、踏みつけた感触が石ではないことを物語っていた。
ぐにゃ。
「ひぇっ?!」
咄嗟に変な声と共に飛び退くとその正体を視界に入れる。
「虎の頭から蛇が伸びてるっっ?!」
蛇の頭が僕の足元まで迫っており、それをたまたま踏んでしまったみたいだ。蛇の頭が微妙に折れ曲がっており気色悪さが増している。
僕が叫ぶと同時にサーペントタイガーも吼えた。
グルルガァッァ!!
三人も僕の異変に気付いたらしく、横目で状況を確認してくる。
「俺らじゃ対処できねぇ……あんた召喚者だろ?! パッと全部倒してくれ!」
(いや、そんなのこっちが頼みたいよ! 僕にそんな力あるわけ無いじゃん!!)
そもそも勝手に召喚されてクエストをほぼ強制的にやらされて、追い出されて……この世界のことなんて何も知らないのに、そんなにすぐ理解出来るわけがない。知ったことなんて、日本料理が多いのと何故か箸がないことぐらいなものだ。
僕が必死で頭を振っていると舌打ちとともに小さな声が聞こえた。
「(チッ……ハズレかよ)」
(ハズレって、どゆこと? は? 僕がハズレってこと? 冗談じゃない。僕は好きでこんな世界に来たんじゃないんだよ……!!)
──僕の中で何かが渦巻き、感情を支配していく。
「もう良い。あんたは下がってろ」
諦めたようにそう言うと剣を構え直す。そうして再び口を開いた。
「あんたが逃げるくらいの隙はつくってやる……さっさと失せろ」
その瞬間、三人は一斉に目の前のブルーウルフへ突撃した。
怒りよりも先に驚きが出てしまった。僕を囮にして自分等が逃げれば良いのにと……思い浮かんでしまう。
だが、足を前に出した。
それも、不思議と軽い。
これならば街まで帰れる。あの三人を置いて逃げることが出来る。迷いはなかった。考えるよりも先に体が前へ前へと突き進む。
──死にたくない。僕は、生きて帰るんだ。
平日は学校があるので、今日くらいの時間か、17時過ぎとかになると思います!
ではまた明日──