04 危険な魔獣
――それから時は過ぎ、二週間が経ったある日。僕はかなり疲弊していた。
「……なんか、疲れてきた」
二週間過ごして分かったことが一つ。娯楽が無い。ゲーセンなんてないし、漫画喫茶ももちろん映画館なんてモノもない。疲れた身体を癒やしてくれるモノが何一つないのだ。
(まあ、彼女に甘えたら癒やされるけど……やば、帰りたくなってきた)
ベットの上でゴロゴロしながらそうぼやく。
「今日は何のクエストしようかな……」
ベットの横に置いていたカバンを手探りで取ると、中から紙をガバッと取り出し布団の上に広げた。これらのクエストは二週間の間にあちこち周り、出来そうなモノを集めてきたモノだ。
「う~ん……」
手元には五枚のクエストがある。一つずつ目を通していくが今ひとつパッとするモノがない。そこで僕は一纏めに集め、ぐじゃぐじゃとシャッフルさせる。眼を閉じるとランダムに一枚引き抜いた。
「これだっ! ……うわ」
クエストの名前は『魔物討伐』内容はゴブリンを三匹討伐し魔石を回収するというモノ。報酬は四ポイントなのでかなり良い。
「魔物かぁ……怖いなぁ、怪我とかしたくないし」
ガクッと項垂れると伏せ目がちにクエストを見上げる。ため息を零すとベットから降りた。カバンの中に残りのクエストを片付けると宿屋を出た。
「このクエストしたら十五個目か……いつになったら帰れるんだろ」
未だ規定の数はこなせておらず、なかなか帰るに至れていない。
とりあえず一度街から出なければいけないので街の外へと向かった。
「――大変だぁぁぁぁ!! 魔獣の群れが現れたぞぉぉ!!」
街の外への扉から駆けてくる男がそう叫んでいた。男の後ろから三人、後を追ってくる。恐らく男のパーティメンバーとかだろう。一人はその人の背丈くらいある杖を持ち、一人は鎧を着込み剣を腰に携え、一人は簡易な胸当てと背中に弓を掛けている。
(魔獣の群れ?! そんなの魔物討伐どころじゃないよ??)
足を止め、僕はあたふたとする。街の外に魔獣の群れが出たのなら冒険者達がそのうち一掃してくれるだろう。だって冒険者なのだから。そう考えると僕は宿屋に向けて足を動かし始めた。
が、誰かに腕を掴まれ足を止めざるを得なくなってしまった。
「あんた召喚者だろ? だったら手伝え」
(え? うそでしょ)
さっきまでの他人事気分が、一気に現実へと突き動かされてしまう。腕を振り払おうにも力が強く、ビクともしない。僕が何かを言う間もなくその人に引きずられて行く。
(い、いやだ! そんなのと戦いたくなんかない!!)
半分涙目になりつつズルズルと連れて行かれた。
──たどり着いたのは冒険者ギルドだった。途中からは、流石に引きずられたまま行くのも恥ずかしいし、迷惑だろうと思ったので自分の足で走った。
ギルド前には大勢の人だかりが出来ており、ギルド職員らしき人がその中心に立っている。すると、その人が声を発し始めた。
「確認された情報ではサーペントタイガーが二頭、ブルーウルフの群れ十二頭がこちらに向かってきているとのこと。冒険者ランクB以上の方は至急掃討に向かってください。C以下の方はそれ以外の雑魚の掃討に向かってください。繰り返します──」
(冒険者ランク? なにそれ、僕ソレ知らないんだけど。そもそも冒険者じゃなくて召喚者だし)
しれっとこの場から逃げようと足を反転させると、さっきの、僕をここに連れて来た人がいた。一気に寒気が走り、目を逸らす。
「どこに行こうとしたんだ? ん?」
肩をがっしりと掴まれ僕は首を振ることしか出来なかった。
「あんたも討伐。行くんだよな? な?」
「は、はい……いき、ます……」
半ば言わされたような形になり。ようやくその人から解放されると分かりやすく落ち込む。
(魔獣……なんだっけ、虎と狼か。ああいや、僕はそっちじゃなくて雑魚で良いのか)
ひとまず、安堵のため息を零すともう一度足を反転させる。するとさっきの人の他に二人メンバーが増えていた。
「紹介しとくぜ。こいつらは俺のパーティメンバーだ。んで、俺らの冒険者ランクはBだからな」
(……お か し い な、うん。きっと気のせいだ)
「ええっと、今冒険者ランクは幾つって」
「聞こえなかったのか? Bって言ったんだ」
全言撤回。虎と狼の両方を担当しなければいけない。
「僕たちは……雑魚じゃ、ない……?」
ワナワナしながら問いかけると鼻で笑うように言う。
「だからぁ、あんた聞いてなかったのかぁ? 雑魚はランクC以下のヤツがやるって言ってただろ」
聞き間違えでも、夢でもないらしい。僕は自分の頬をつねりながら落胆した。
そうと決まれば早速、僕たちのパーティは街の外へと向かい始めた。
「ねぇリーダー。サーペントタイガーとブルーウルフはどんな魔物なんだい?」
魔女のような大きな帽子を被った女性が訊いた。
「まずサーペントタイガーはとにかく足が速い。俺達の身体強化でも追いつけないほどだ。額から伸びる蛇の頭はそれだけで全長五メートルあると言われている。基本死角はないと思っていた方が良い」
キメラを想像してしまいガチだが、こいつはキメラとは違う。キメラはライオンの頭に山羊の身体、そして蛇の尻尾を持つ生き物だ。それに対し、サーペントタイガーは虎の額から蛇の身体が伸びているだけだ。だけだというのも何か違う気もするが、キメラとは別個体らしい。
「そしてブルーウルフだが……こいつが一番厄介だ。一番の理由は群れで行動してるからなんだが、魔法使い殺しと言われるほど、魔法への耐性がとにかく強いんだ」
ただの狼と侮るなかれ。魔法使いが一人で挑めば、死体は残らず奴らの糧となるだろう。
想像するだけで身の毛が弥立つ。僕はブルブルと身体を抱くとまた嫌な顔をした。
まあ、さすがに忘れはなしない
明日も同じくらいの時間に、と言っても16時は過ぎると思います
ではまた──