38 国家滅亡?
38 国家滅亡
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――とある王宮、その一室で会議が行われていた。
「セフィア姉上様、クリステル兄上様まずは私のためにご足労頂き感謝する。クリステル兄上様が王位を継がれ五年が過ぎた。そして、内密に異世界召喚が行われた。このことはご存じであろう。私は今のこの国を変えたいのだ。たとえ王位継承権が無いとしても、腐ったこの国を変えたいのだ。協力してはくれないだろうか」
このお方は一体何を不満に思っているのだろうか。この国は充分すぎるくらい豊かであるし、犯罪も多少しか起きていない。異世界召喚についても、私たち王家の特権であり、長きにわたる歴史でもある。何より許し難いのは……このお方はまだ五歳であられる。そんな御仁にいったい何が分かるというのだ。
「私はね、過ちを正したいのだ。だからこうして二人に頼んでいる。力を貸して欲しいと」
過ち? ……この五年間、あなたは一度たりとも王宮から出たことはなかったはずだ。それなのに、なのに。
「私だけでは判断しかねますわ。クリス、どういたしますの」
ああ、だけど……疑問を憶えていたのは私も同じだ。この国は他国とは違う。だからこそ、王家が守っていかなければいけないんだ。
「……分かりました。ここに誓おう、クリスとセフィアはあなた様に着いて行きます」
「助かる」
――場所は変わり城内の会議室。貴族や商人、この国の重鎮が一挙に集まっていた。
「皆さんに集まって貰ったのは他でもありません。今の内政についてです」
やはりと言うべきか皆一様に喋りだす。
「落ち着け。なに、今の政治に不満があるというわけではありません。ただ、今まで放置していた東区を整備してみようと思っているだけですよ」
分かりやすく笑みを浮かべてみる。
説明し、皆に納得してもらうと会議は終わった。報告のため私はあの方の居られる部屋に向かう。
コンコン。
「失礼します」
入るとそこにあの方の姿は無かった。終わったら報告をしてくれと言っていたはずだ。どこに行ってしまわれたのだろうか。
と、机の上に置き手紙のようなモノを見つけた。手に取ると私宛であった。
「『ガウェイン父様に非はないかも知れないが、ケジメはつけなければいかん。私は今から父様の寝室に向かう。クリステル兄上様も終わり次第こちらに向かってくれ』と……分かりました。微力ながらお手伝いさせていただきます」
父上、不出来な息子で申し訳ありません。しかし、私はこの国を変えたい。私はこの国の王だ、その権利がある。
言葉には出さず祈の言葉を贈ると寝室へ向かう。
「――何を言っている!? やはりお前は王家の恥さらしだ! ここいらあいつらの見る目がおかしいと思ったのはやはり貴様の仕業であったか!!」
「そうであろう? 父様達は誤った。だから私が粛清していく。なにか間違っているのか?」
室内から聞こえてくる会話になにかおぞましいモノを感じた。私の本能が叫んでいる。今すぐ逃げろと、だが逃げるわけには、見て見ぬふりをするのはもうしまいにしたい。だからこそ、私はノックをする。
「入れ」
「おい! ここは貴様の部屋ではないぞ!! 勝手に入れるのではない!」
「失礼します。父上」
私を見るなり父上は目の色が変わった。おおかた助っ人が来たと思ったのでしょう。
「おお! 良く来たなクリステル。丁度良かった、こいつをつまみ出して牢屋にほっぽってしまえ――」
その後も何やらうだうだ言っていたがすべてを聞き流した。一段落したところで軽く息を吐く。
「残念ですが父上、私はあなたの都合の良い駒ではありません。ですので、こちら側です」
あの方の隣、少し後ろに控える。
「すみません父上。ですがケジメです。一度犯してしまった罪は償わなければいけない。たとえそれが歴史の闇に葬り去られていたとしても」
三人の兵士が父上を取り囲むと手錠をし牢屋に連れて行く。
「さて、兄上様着いてきてくれ」
あの方の指示に従い私は寝室を後にしました。
「どこへ向かわれるのですか?」
「装置だ。ここへ召喚された者は容易に帰還できぬようになっている。それを今から破壊する」
装置。確か父上から小耳に挟んだことがあります。なんでも時間を遡る、永遠にループする魔術だとか。古代の魔術のため解読は不可能で、破壊することも困難だととも言っていました。
「この部屋だ」
幾度の楔、結界が張られている。こんな場所が在ったとは。しかし、いとも容易く扉を破壊すると中へ入っていく。私は驚きつつもただその後ろを着いて行く。
「……これが、古代の魔術」
あまりの大きさに思わず息を呑む。人丈よりも遙に巨大なその体躯、砂時計が柱の中心となり、いくつもの魔法が掛けられている。
「『断罪の聖剣』この私に切れぬモノはない」
五歳児の身体には大きすぎる剣をどこからともなく取り出し、身長以上の長さを悠々と振り回すその姿はまさに歪。目に止まらぬ速さで私の前から姿を消す。突風が吹き荒れ私は目を腕で覆い態勢を崩さぬよう踏ん張る。と次の瞬間に大きな音を立てて消えたはずのあの方が砂時計の奥に立っていました。
「あ、あれだけ掛かっていた魔法が……そのすべてを破壊された?!」
隣を見るといつの間にか戻ってきており、あの一瞬ですべてを破壊したのだと感じた。やはり、このお方の力は本物だ。勇者と言うべき存在なのか。
「……彼らに会おう。きっと待っていてくれているはずだ」
彼らとは誰のことだろうか。私には分からない。しかし、このお方の行動はすべて結果に繋がっている。だから私は着いて行く。
残す話も2話になりましたぁ
ではでは、また明日──




