32 未来の遅延
することは終えたので僕は僕の、あるべき時間に戻ってきた。
路地裏からでると不思議な光景に目を疑った。
「っとここは……ん?」
ちゃんと座標の設定はしていたはずだ。なのに景色がおかしい。見慣れていたあの街並みとどこか違和感がある。でもおかしいのは一部分だけで他は変わっていない。
「こんな建物あったっけ?」
とりあえず夢子さんに会わなければ。そうすればこの状況も何か知っているだろう。僕は街を出て森に向かうと結界の切り替えポイントを探す。
「え、無い! うそ。なんで!」
小岩を除けてみるもそこに本は無かった。ならばと思いそのまま奥に入っていく。が、家にはたどり着かなかった。つまり結界は機能している。しかし、結界を解除する鍵は無い。もしくは置き場所を変えたのか。どっちにしろ、これでは夢子さんに会えない。
「とりあえず街に戻って何があったのか……」
森を出て急いで街へ戻ると早速調べ始めた。まずは今日の日付、六月の十日だった。僕が過去に行って過ぎた時間のままこちらに戻ってきているとしたら全く問題はないし、正常だ。ただ一つ欠点がある。このカレンダーには年が無く、何年経っているかなんかは分からないのだ。まあ、そうそう分からなくなるはずもないし無くて正解だろう。
(じゃあ次は……)
もう早行く当てをなくしてしまった。
何もしないのはもう辞めたが、何かはしたい。クエストをしても良いがあまりやりたくは無い。気分とかやる気とかの問題ではなく、単純に縛られていると咄嗟に抜け出せなくなってしまうからだ。
しばらく考えるとなけなしの案を思いつき、僕は南区を目指した。
――ここも少し景色が変わっている。あったはずの建物が無くなり、別の建物が建っている。経った数週間の間に何があったのだろうかと気になるも、僕はタイムリープ中に六月を越えたことは無かった。もしかしたらこれが本来の歴史で、こうなることが確定されていたのかも知れない。
そんなことを思いながらセシーリアにたどり着いた。
「良かった。ここは変わってない」
戸を開けると中に入った。心なしか客が少ないようにも思える。まだ昼前だからだろうか。カウンターに座ると僕はいつものメニューを頼もうとした。
(?! メニュー少なくない?)
前までが十個以上のメニューが並んでいたし、ポイントもどれも三ポイントからだったはずだ。ソレが今はたったの三つしかメニューは無いし、全部一ポイントで統一されている。
ポイントからを節約できるのはありがたいが、こんなのはセシーリアじゃない。セシーリアは外国からも人気な店だ。それなのにこの客の少なさ、メニューの無さ。僕の居ない間にいったい何があったのか。謎は深まるばかりだ。
「日替わりランチ一つ」
これを頼んでおけば問題ない。日替わりランチはどれも美味しいし、食べていて苦にならないしつこさだ。
出来上がるまで僕は周りを見渡していた。あったモノはある。だけど確実にない物が増えている。この街にいったい何が起きたっていうんだ。
なんだか最近、僕は驚いてばかりいるような気がする。
心なしか、終わりに向かっているかのような……
「ほいよ」
受け取ると箸立てから箸を取り、手を合わせた。
うん、味は変わっていない。僕の知っているそのままだ。
完食するとポイントを払いセシーリアを出る。おなかも膨れたことで僕はほかの区にも行ってみることにした。とりあえず、僕は西区へとやってきた。
(特に変わった様子は……ない?)
南区ほど変わったような建物などはなく、これと言って異変はない。そのまま僕は西区を通り過ぎ、東区へと向かった。南区があれだけ変わっていたんだ。もしかしたら一番ひどい東区にも何か、変化が起きていてもおかしくはない。王宮の壁を沿ってぐるっと半周すると東区へとたどり着く。
到着早々僕は啞然となった。
「ここって……東区、だよね?」
あれだけ荒れて、廃れて、人の住めるような環境でなかった東区がきれいになっている。それどころか、人々も清潔な衣服を纏い路頭に迷っているような人も見受けられない。これほどの変化は戻ってきてから一番驚いたかもしれない。経った一週間でこうなるわけがない。ということはつまり、確実に一年以上は過ぎているということ。
(あの日からいったい何年過ぎたんだ……)
まさか、戻るのを失敗してしまったのか。そんな一縷の不安を抱え込みながらなんとなしに空を見上げた。
明日の分はまだ出来ていない。
まあ、そのうち書けるであろう。
ということでまた明日──




