29 月日が流れ
――朝目が覚めると見知った天井では無かった。セシーリアのようなちょっと古びた木造ではなく、ジョイドさん宅のようなコンクリっぽいモノでもく、原木そのものが使われている天井だ。鼻孔を擽る木の匂い。心地良いそよ風が窓から吹き込んでくる。
「――一綺くん起きたのだー?」
下の方から声がした。ベットから起き上がると聞こえた方に、窓の前に立つと目線を下げる。
「今起きました~……」
ちょっと眠くて欠伸をしながら返事をすると夢子さんも僕に釣られて欠伸をしていた。
「降りてくるのだ! 基本から色々教えるのだ! ……あ、それと武器とか持ってたらそれも持ってくるのだ」
簡素な寝間着から私服に着替えると、言われたとおり二本の魔導具を持って階段から地上に降り立つ。
夢子さんは何やら作業をしていた。すると僕に気付いて手を休め、指を鳴らす。
「今から一綺くんにやってもらうのはこれなのだ」
地面が盛り上がると正方形の、土台のようなものが現れた。大きさは大体、僕×僕×(僕÷二)くらいだ。ちょっと何言ってるか分からないかも知れないけど、僕が横になってもはみ出さないくらいの大きさはあるとと言うことだ。
「これは?」
「この中に入るのだ。そしたら僕が結界を張るのだよ。一綺くんは自力でその結界から出るのだ」
(……え)
「え?」
言われたとおり入った瞬間に結界を張られた(ようだ)手を伸ばすと壁があるのか触れることが出来る。ただ僕の目には見えていないので不可視だ。
「ど、どうやってここから出るんですか?!」
「どんな手を使っても良いのだ! 好きにやってみるのだ」
(どんな手を使っても良いって言われてもな……)
持ち物は僕が創った魔導具と先生が創った魔導具だけだ。それに使える魔法も同じだったはず、威力は先生作のほうが強いのは明らかだがこんなのでどうすれば……
「じゃあ……とりあえず『焱』」
僕の短剣を鞘から引き抜くと言霊を発する。剣先に魔法陣が現れ、炎の渦が出現した。僕はソレを軽く振り下ろす。結界に命中すると煙すら出ず跡形も無く消えた。
「言い忘れていたのだ。下手な魔法は効かないのだ」
「ソレを先に言って欲しかったな……じゃあもう一つの『雷雹』」
剣先に電気が迸ると僕の左右に魔法陣が現れる。今度は短剣を横に薙いだ。雷撃は弧を描きながら進み結界へと衝突する。左右の魔法陣からは氷の礫、雹が無数に発射された。
「うんうん。良いのだ良いのだ。その調子なのだよ」
結界へ命中すると結界全体に落雷したかのようにビリビリしだし、僅かにながらヒビが刻まれた。
「硬くない?!」
思わず声を上げる。それに、少なからずこの狭い空間で魔法を使うのは抵抗がある。だって死にかねないよ。
(こっちを使うしか……)
もう一本の鞘に手を掛けどうしようか悩む。
「そうそう、そこから出られないとご飯は無いのだよ。がんばれなのだ~」
(……うん。こっち使おう)
空腹で居すぎたせいかお腹が減ったという感覚が無くなってしまっているが、久々の飯だ。食べないという選択肢は僕には無い。
短剣を鞘に収めるともう一本の短剣に手を掛けた。ゆっくりと抜刀すると剣先がキラリと光る。一見は全く同じだが纏っているオーラが違う。本当にこんなすごいモノを貰っても良かったのかと今でも不思議に思う。
「先生。使わせてもらいます……」
目を瞑りながらそう言うと、僕は特定の言葉を静かに発した。
「『雷雹』」
途端刃先を覆う雷電。あたかも剣先が伸びたかのように錯覚する。僕の左右にも魔法陣がいくつも展開されており、結界の中でぎゅうぎゅうに詰め込まれていた。下手すれば僕にも当たりかねない。息を呑むと軽く、優しく振り下ろした。
「――! ――!!」
遠くから声がする。
視界が暗い。
音も反射して聞こえているような感覚だ。
誰かに揺すられている?
おかしいな、身体に力が入らない。
起き上がろうと試みるもなぜか言うことを聞いてくれない。何があったのだろうと記憶を探るも、頭が混乱しているのか情報という情報が何も出てこない。
「――! 一綺くん!! しっかりするのだ!」
遠くから声が聞こえる。未だ意識が朦朧としているがなんとか目を開けることには成功した。
「!! ここはっ……」
「良かった、起きたのだ……このまま起きないんじゃないかとヒヤヒヤしたのだよ」
状況がうまく掴めない。あのあとどうなったんだ。
「一綺くんはあの魔法を放った後、急激な魔力枯渇によって倒れたのだ。それに、少なからず電気も浴びているのだ、危険な状態なのだったけどある程度は回復させたのだ」
久しぶりに知らない単語を聞いた。だが、身体がビリビリと痺れ動こうにも動けない。質問は後回しに、身体を動かす方を優先させなければ。
「……動けないのだ?」
「あ、はい。指一つ動かないです」
「う~ん、困ったのだ。僕一人じゃ一綺を動かせないのだ」
なんだか申し訳ないが、加減を間違えた僕のせいでもある。それと今頃になっておなか減ってきた。
「あ、良いものがあるのだ。ちょっと待っているのだ」
そう言うと家に向かって行った。頭も動かせないので微かに見えただけだが、少しすると何かを引きながら戻ってきた。
「猫車なのだ! これがあれば僕でも運べるのだ」
夢子さんに引っ張られ猫車に乗せられる僕。頭の位置変えたいけど動かない。というか縁が刺さって痛い。
そのまま僕は家に連れられた。
「一綺くんは良く頑張ったのだ。僕が腕によりをかけて朝ご飯を作るのだ」
いや、むしろ夢子さんのせいで死にかけたといっても過言ではないが、加減を間違えた僕も悪いのでお互い様だろう。
夢子さんが朝食を作ってくれている間、僕はどうにか動けないから四苦八苦してみた。が、ようやくの思いで動いたのは頭だけだった。
(せめて右手だけでもっ……)
まるで身体の一部ではないかのように動かない。信号伝える器官が損傷でもしてるんじゃないか?
「出来たのだ~」
そう言って運ばれてきたのは謎の黒い物体だった。
「……ええっと、これは?」
「ダークマターなのだ!」
自信満々に失敗作の名称を言うが本当にその通りの見た目すぎて、逆に食欲が湧いてこない。なんなら引っ込んだかもしれない。
(絶対失敗してるよねこれ。食べれるのこれ?)
「? 腕はまだ動かないのだ? 仕方ない。食べさせてやるのだ」
「あ、いやそれはちょっと……あ、あの……夢子さん……?」
僕の腕がまだ動かないことを見越してなのか、それとももともと料理の腕がないのか黒い物体をスプーンで持ち上げると僕の口に近づけてくる。
「ぐふぉっ……」
口の中に突っ込まれた。できるだけ味わわないように口を動かす。
「……って、おいしい。見た目はあれだけど」
なんであんなダークマターが美味しいのか意味が分からないけど、美味しいものはおいしい。僕の舌が堪えている可能性もなくはないが、さすがに失礼か。
残りも食べさせて貰うと、その頃には腕もある程度動くようになってきていた。
「これから少しの間、一綺くんを鍛えるのだ。然るべき時が来たとき、一綺くんは過去の過ちを正しに行くのだ」
「過去の、過ち……?」
「覚えていないのだ? それとも記憶から消してしまったのだ?」
その言葉とともに少しずつ記憶のピースが繋がってきた。
「ようやく思い出したのだよ……さ、頑張るのだよ」
僕の苦渋した表情を見てかそんなことを言う。思い出してきたのも本当だし、できれば忘れていたかったがそんなのは本末転倒でしかない。
夢子さんは呆れたように苦笑いをした。そして僕にダークマターをスプーンに乗せ差し出してくる。
ここで重大発表!!
なんと、残りのストックが1つしかないっす!爆笑
あと10話まだ書けてないというね。まあ、そこんとこは頑張って書くんで安心して待っててよ
そいじゃまた──




