03 過ぎていく日々
ポイントが貯まれば良いことが起こるのか、それともただのお金なのかはよく分からないが、これを溜めないことには飯が食えない事実に気がついた。
(いや、そもそもこんな世界に長居するつもりもないから一週間分くらいで足りるでしょ)
そんな考えに至り、食事付きの宿を取るため残り二ポイントをどうにかして得なければいけない。しかし時刻はすでに昼を過ぎており、お腹の虫がこれでもかと警鐘を鳴らしている。
「うぅ……おなか減った。これなら朝しっかり食べてくるんだった」
お腹をさすりながら街をうろうろする。と、建物の壁に貼られたクエストを見つけた。とりあえず近寄って内容を見てみる。
雑用 クックおじさんの食卓へのおつかい ポイント二
(おつかいか、これならすぐ終わりそう! しかもちょうど欲しかった二ポイントも貰えるし)
そうときまれば、このクエストの依頼主に会いに行かなければ。クエストを剥がし、その建物の扉を開けた。
「すみませーん。そこのクエストを見たんですけど」
中に入ると武具店のようだった。壁にも地面にも武器が飾ってあり、防具立てには鎧が着せてあった。カウンターには誰もおらず奥へ声を上げると、ガタイの良いおばさまが出て来た。一瞬気圧されてしまうが気を取り直し、要件を伝える。
「あんらぁ、おつかい受けてくれるのぉ? ありがたいわぁ」
見た目とは裏腹にオネェ口調で対応してくるおばさま。いや、もしかしたらおじさまかもしれない。
「これをっ、クックおじさんの食卓に持って行って欲しいのぉ」
そう言いながら机の上にドンと置いた。
そう、ドンと置いた。
(……絶対これ、僕が持てる範疇超えてるんだけど)
風呂敷に包まれた、シルエット的に恐らく斧。斧(?)木製の箱に入ったナイフ。いや、包丁かも知れない。これだけならまだしも、プラスで三十センチほどの木箱もある。
(この人に僕は阿修羅にでも視えているのかな?)
「ちょぉっと荷物が多いかも知れないけどぉ、あなた男の子だから大丈夫でしょ? んふ」
多分、男=阿修羅かサイかだと思っているのかも知れない。
「今日中に着けば良いからぁ、小分けにしても良いのよ?」
(あ、その手があったか)
午前中も似たような作業をしていたのにすっかり頭が働かなくなっている。
僕は早速木箱から持って行くことにした。クックおじさんの食卓までは意外と近く、往復一時間の距離だったため約二時間でクエストを終えることが出来た。とは言っても、もう大方十六時に差し掛かっている。お腹と背中がくっつきそうだ。
「――あんさんありがとうよ。ほれ、お腹すいたろ? ワシがおごっちゃるけぇ食え食え」
「良いんですか?! もう、お腹ペコペコで」
最後の荷物を届けるとクックおじさんに感謝の言葉と食事を頂いた。早速メニューを取り目を通していく。しかし、やはり異世界だからか画像などはなく、名前と値段だけが載っている。迷った末に僕はお勧めをもらうことにした。
「はいお待ち! 泣く子も黙るトンコツラーメン一丁あがり!」
厨房から直接、カウンター席にラーメンが現れた。両手で持つと零さないように僕の前に置く。
見た目は普通の豚骨ラーメンと変わり映えはない。海苔、ナルト、メンマ、もやし、ネギ、そして麺。視界の端にさっきからチラチラと入り込んでくる辛子を合わせ、ただのラーメンだ。僕はゴクリと唾を飲む。
「いっいただきま……箸無いんだけど」
一つあった。まさかの箸が無かった。
(何で食えばいいの? あれか? 手で鷲掴みにするタイプなのか?)
流石にそんなわけはないよなと思いながら机の上を見渡す。
――フォークがあった。僕は思わず頭に手を当ててしまう。ふぅと息を吐くと箱の中からフォークを取り出す。
(異世界だからしょうがないのかな。いただきます)
とりあえず汁を啜る。それから麺を口へと運ぶ。
「!! 変わらない……おいしい」
見た目も味も変わらない紛れもない、日本のラーメンだ。フォークを止めることなく食すと、汁まで飲み干し手を合わせる。
「ごちそうさまでした」
「おそまつさん」
僕はクックおじさんに感謝しつつ店を後にした。それからクエスト達成の報酬、二ポイントを手に入れた。
全40話で完結予定です
明日から毎日投稿していくのでよろしく!
投稿時間は夕方にしようと思います(16~18時頃)
ちなみに、投稿するの忘れてたらもちろんもう1話更新します……
それではまた明日──