21 希望の色
騒がしい音ともに僕は起こされた。
(うるさいな……もうちょっと静かにしてよ)
僕は寝返りを打つ。すると掛け布団を剥がされ僕の意識は覚醒した。
「誰っっ?!」
「誰じゃないでしょ。今日の分の宿代、まだ貰ってないの。早くちょうだい」
「……なんだセシリアか」
「なんだじゃなくて……ってあたし名前言ってたっけ?」
急に方向転換。すると僕の脳も働き始める。
(あれ? この時ってまだ仲良くなってないんだっけ? 忘れた……)
何度もタイムリープしていると進行度合いが全く分からなくなる。
頬を膨らませ両手を腰に当てているこの女の子はセシリア。年齢的には中二で、この宿の看板娘だ。ちなみにこの宿の名前はセシーリアで、なんでも娘から名前を貰ったのだとか。ほぼ変わらないのは言わないでおく。
「……あぁ~ほら、セシリアって看板娘じゃん? そりゃ名前くらい、ね」
「あたしのかわいさは街の外まで広がってるって……も~良いこと言うわね!」
(なんか偉そう。というか適当に思いついただけだけど)
「――って、宿代はちゃんと払ってよね! んっ!」
そう言って右手を出してくる。喜んでいるのか、払って欲しいのか。いや、両方か。
「ああ~……実は今一ポイントもなくてね……」
……。
なぜか沈黙。そして気まずい。思わず目を逸らすと耳に強烈な痛みが奔った。
「イテテててっ!」
「悪い人にはこうです! 宿代くらい稼いできてね! じゃあね!」
耳を掴まれたかと思いきや、そのままセシーリアから追い出された。ひどい……こっちは苦笑いするくらいの体力しか残ってないのに。
しかしまあ、追い出されてしまってはしょうがない。宿代を稼ぎたいのは山々だが、いかんせんやる気も気力もこれっぽっちもない。明日から本気出すレベルでしたくないのだ。
「野宿かぁ……でも夜って、盗賊とか強盗とか野盗とかほんとそう言う人らしかいないんだよなぁ」
夜はとにかく良い思い出がない。クエストが終わったらさっさと帰って寝る。これに尽きる。
「行く宛もなぁ……あぁ、でも護身用に武器くらいはあった方がいいか」
と言うことで、西区と南区の狭間にあるゴミ捨て場へ向かう。
投擲用のナイフを五本、近接用の武器としてショートソードを二本。しかも運の良いことに鞘付きだ。
剣を二本とも腰に差すと一気に時代劇の人みたいになった。とはいってもこれでは脇差し×二なのだが。ナイフを五本も入れる場所がないのでとりあえずはバックの中へ入れておく。
「はぁ~……装備は整ったけど、これからどうしよ。とりあえず北区にでも行って……」
そのままの足で北区へと向かうといつの間にか昼を過ぎていた。それぞれの区の境目には日時計が設置されており、ここで時間を確認することができる。時刻は十三時過ぎ。思いの外、ゴミ捨て場で時間を潰していたらしい。
そんなことを思いつつボーッと歩く。北区に着いたは良いものの、ここですることも特にない。ただなんとなく来ただけだ。
「情報ね~……そこら辺に座るか」
ゴミ捨て場から拾ってきた外套をカバンから取り出し、羽織ると木箱の上に座った。片膝を着くと眼を閉じる。すると音だけが鮮明に聞こえてきだす。
日の光が良い感じに当たり、暖かい。心地良い風も吹いており、気を抜くと寝てしまいそうだ。だんだんと瞼が重くなってくる。
――。
どれだけ眠ってしまったのかは分からない。ただ一つ言えることは、辺りはすっかり夜中だということだ。僕はすぐさまカバンの中身を確認する。
(良かった……何も盗られてない)
ひとまず安心。
周囲に目を向けるも人影らしきものは一切なく、人の声も聞こえてこない。静かすぎて逆に怖いが、これならもし誰かが近づいてきても音で分かるだろう。すっかり夜になってしまっているので少し肌寒いがこれくらいは我慢しなければ意味がない。
欠伸を嚙み殺すとカバンを抱いてまた眼を閉じた。
「――。――? ――ですか? 起きてください」
僕は誰かに揺すられながら目を覚ました。顔を上げるとそこには見知った獣耳があった。
(ジョイドさん?!)
「こんな場所で何をしているんですか? 早く家に帰りなさい」
「あぁ~……実は」
僕は頬を掻きながら事情を説明した。
「――つまりあなたは今無一文で、こんな所で夜を明かそうとしていたのですか?」
思った以上に言葉が突き刺さった。改めて他人の口から言われると罪悪感がとてつもない。
(好きで無一文になってないし……クエストするのがめんどくさいだけだし……)
すると、何を思ったのかジョイドさんはこんな提案をしてきた。
「私の家にしばらくの間、泊まりますか?」
願ってもないことだけど……なんだか申し訳ない。
「北区は他の区と比べれば比較的治安は良い方ですが、それでも危険はあります。なにより、ここで見捨てるほど自警団は腐っていませんので」
少し、報われた気がした。
前の僕なら知らない人には着いて行かないとかで断っていたかも知れない。でもジョイドさんは知らない人じゃない。それに、ジョイドさんは覚えていないかも知れないけど助けて貰った恩がある。優しさを知っている。悪い人ではないということもよく知っている。見ず知らずの僕を野党から追い払ってくれた命の恩人。
ぐ~。
「その様子では何も食べていないのでしょう?」
タイミングを見計らったかのようにお腹の虫が鳴いた。恥ずかしいが朝飯も昼飯も食べていない。寝ることによってなんとかごまかせていたがいつの間にか空腹の限界は来ていたようだ。
「あ、ありがとうございます」
僕はその日、ジョイドさん宅にお邪魔した。
明日からはまたいつも通りに投稿できると思います
ではまた明日──