19 予定外、予想外。ありえない
松明を持って進むと人が倒れていた。
「おそらく見張りだな。先を急ごう」
槍を持ったまま倒れている見張りを横目に見やりながら奥へ進んでいく。道中何人もの人、盗賊が倒れていた。みんな催眠爆弾で眠っているのだろう。
「この奥に親玉が……」
僕らが息を呑むとドワーフのギルテさんが扉を蹴破った。一気に突入すると、そこには誰も居なかった。そこは広い空間になっているが、何も置かれておらず逆に不気味だ。
「リーダー、あそこになにかあるわ」
索敵をしていた魔法使いのエインがその場所を指差す。一見何もないただの壁に見えるが、僕らが近づくとザザッと音を立て壁が崩れた。崩れたとはいっても生き埋めになるほどのアレではない。人一人通れる道が出来上がった。
「まさか、ここから逃げやがったのか?」
テイクさんを先頭にエインさん僕、ギルテさんの順で進む。中は地下へ繋がる階段で降りるごとに光源を持っているにも関わらず、暗闇に包まれていく。
「あれはっ!」
先を行くテイクさんが何かを発見したらしく歩く速度を速めた。僕らも後を追い広い空間に出る。目の前には鉄格子がずらりと並んでいた。松明の灯りを檻の中に照らすと大人子供関係なく倒れていた。
「盗賊に捕まってた連中か?」
「助けるわよ」
ギルテさんが大剣で檻を次々と切っていくと、中で横になっている人達を救出する。
「私らはギルドに応援を呼んでくるわ。一綺も一緒に行くわよ」
「あ、はい」
テイクさんとギルテさんを残し、僕らは一度街に帰った。ギルドに行き、冒険者と馬車を集めると洞窟へ行く。往復で三十分くらいなので、何か出てることはないだろう。しかし、もしものことがあるかも知れないので馬車を飛ばした。
──僕が危惧したようなことは起きず、無事盗賊達を捕らえ、捕まっていた人々も救出することが出来た。
今までが一筋縄でいかなかったからか、今回が思ったよりもあっさりと事が進みなんだか拍子抜けしてしまう。
(ま、それが一番良いんだけどね)
街に戻ってくると僕はギルドへ向かう。僕の予想では多くても、五十ポイント辺りだろうと。
「──報酬の九十ポイントです」
どでかい袋を置きながら受付のお姉さんはそう言った。
「…………え? え、きゅ、九十ポイントっ?!」
驚きのあまり一瞬思考が停止してしまった。
(い、一旦、今持ってるポイントを確認しよう)
懐からカードを出すと、カウンターは十二を差していた。
(まじか……)
「実はですね、捕らえられた盗賊の中に指名手配中の、四十ポイントの懸賞を賭けられている人がいました。本来なら四十ポイントの所、諸々合わせて九十ポイントになりました」
(うわぁ……なんでよりにもよって指名手配犯いるかなぁ?)
仕方がないので報酬を頂くと帰路に着いた。
(明日死んだりしないよね? いや、死ぬ前にタイムリープしちゃうか?)
僕の予定が一瞬でブチ壊れた。いや、まだだ。タイムリープする条件はまだあるかも知れない。最後まで諦めないぞ!
部屋に帰ると椅子に座り、机に両肘を付いて考える。
(……寝なかったらどうなるんだろう。百ポイントは一つの条件として、もう一つが寝ることだとしたら……今夜起きていればタイムリープは起こらないのでは?)
寝ないためにはまず、食事を取らない。空腹でいれば眠気が襲ってこないはずだ。
次に、水をめちゃくちゃ飲む。トイレが近くなればずっと目を覚ましていられるだろう。
そして最後に、頬を抓る。温故知新せずとも、古きの力でどうにかなるかも知れない。
──百ポイント集まってしまった以上、一睡も出来ない。僕は窓を開け、風を浴びながら時が過ぎるのを待つ。外はまだ夕方だ。夜になってからが本番だというのに、もう早欠伸が出てしまった。
ぐぅ~。
お腹の虫が鳴るが、こいつには構わない。まだ僕は今期でやることが残っているんだ。こんな所でタイムリープして良いはずがない。
だんだんと、この姿勢で居るのがしんどくなってきた。手を崩すと背もたれに背中を預けて脱力する。腕を伸ばしながら伸びると欠伸を一つ漏らす。
食堂から持ってきていた水をガブガブと飲む。喉が潤い、ため息も零すと窓から見える空を見上げた。
「もう十分もしないうちに夜かなぁ~、徹夜なんていつ振りだろ?」
僕は針の動いていない腕時計を見る。電子機器はこっちの世界に来たときに、すでに死んでいた。時計は召喚されたその日の時刻のまま止まっているし、スマホも電源は付くがなぜか液晶が反応しないのでシャットダウンさせてある。
「僕はまた、四度目の異世界生活を始めるのか……どうやったら、いつになったら僕は……」
知らず知らずのうちに頬を蔦る雫が現れた。欠伸によるものじゃないことはとっくに知っている。
「陽彩……君に会いたいよ……君に会えない生活なんて、僕はもう耐えられない……帰りたい……」
涙は止まることを知らず、僕の感情とともに溢れ出てくる。目を瞑り彼女のことを思い出すと涙を手で拭う。
「簡単なことじゃないか……クエストを受けなければ良いんだ……」
もはや帰ることを放棄してしまっているかも知れない。でも、この方法以外にタイムリープを阻止する手段は思いつかない。
僕は大きく息を吸うと覚悟を決める。
「メモった情報を頭に入れる! まずはシルフィーデさんの救出、そしてサーペントタイガーで死んでしまうテイクさん達も……絶対に生かして見せる。いつか僕は日本に帰る。でも、それまでに会った人達を、助けられるかも知れないのに見過ごすなんて……僕には出来ない!!」
──そして僕は、次のタイムリープのためベットへと入った。
ではまた明日、と言いたいところだけど明日明後日は学園祭があるので多分投稿忘れます笑。なので朝のうちに投稿したいと思います
ではまた明日──




