17 時間が過ぎる
よし。忘れなかったぞ
まずはこの街を適当に歩いてみる。それだけでもいろいろと噂を耳にするだろう。
──人通りの多い場所を歩き回ると、興味深い噂が一つあった。
(ズイッヒャーハイトの王太子は素行が悪く、貴族や平民、別種族にもちょっかいをかけている。しかもその護衛がAランク冒険者なだけあって近寄れない……と)
だから暗殺を目論んでいるのか?
それとも、別の理由が……?
なんにせよ、情報は金だ。無知は罪とはよく言うが、知らなければ得することもあるだろうに。知識も知恵も、あればあるだけ良い。
──三日間この街に滞在し、様々な情報を仕入れた。おそらくまだ南区にはどれも回っていない情報だし、なんなら。ありとあらゆるモノを見聞きした。サスピシャスでは聞けないこの国の内情も仕入れられたハズだ。
(……そろそろ、サスピシャスに帰って北区へ向かおう)
この街ではクエストを最低限しか受けていないので、帰りの馬車代がもったいない。僕は早朝にこの街を出た。馬車で一時間は経っていないはずなので、二時間はしないうちに帰れるだろうと思っていた。
(結構しんどい……こんなに上りばっかだったけ?)
森の中に入ったところで急に上り道になった。疲労は蓄積するばかりで、頂上がなかなか見えてこない。
太陽の位置を確認すると、まだ早朝六時といったところだった。まだ街を出てから一時間も経っていない。段々疲れてきたので、この辺で一度休憩を取ることにする。
「思ってた以上にしんどいぞ……都会民の僕には、ダメなヤツだ」
水分を補給し、木にもたれ掛かる。一応、平坦な道に出たは良いもののまだまだ先が見えない。もう少し休憩すると再び歩き始めた。
──それから一時間程休み無しで歩くと、サスピシャスへ帰り着いた。疲労がすごく、まだ昼前だったが一度宿のベットで横になった。
空腹感からか目が覚め、食堂へ向かいお腹を満たすと、北区へ向かう。すると何やら人の行き交う声が聞こえてくる。
「──この街もどうなってしまうのかしら……」「──きっと大丈夫よ」「──はぁ。別の街に行くしか……」
前に来てから一週間も経っていないが、街の雰囲気は全くと言って良いほど変わっていなかった。発信源を調べるため、人の多そうな場所を目指して歩く。
「──王様は大丈夫なのか?」「──貴族様は何やってんだろうな」「──あんまり大きな声で言わないの」
人が増えれば増えるほど、不穏な空気が増していく。と、一カ所に人だかりが出来ていた。何か聴けるかもと思いそこへ向かう。
「──昔々あるところに、この世界を支配しようと目論んだ邪悪な魔王がいました。その魔王は近場の大陸を支配すると、次はこの街を標的にしたのです! そこで初代国王は勇者召喚をし、魔王に対抗する手段を得たのです!!」
人々の「おおっ!」という歓声がふわっと巻き上がる。
「見事、勇者は魔王を打ち倒し、この世界は再び平和を取り戻したのでした」
そこで区切りを入れると、先程話していた声色ではなく少し明るめな声で言葉を続ける。
「さてさて、私各国を旅してきた吟遊詩人目にお聞きになりたい話はありますかな?」
(吟遊詩人って確か……情報知ってる人?)
良くは分からないがこんなチャンスは滅多にない。僕はサッと手を高く上げた。
「おっ、そちらのお兄さん。聞きたい話は何ですかな?」
「────!」
情報は、あればあるだけ良い。僕が生き、知り合った人達を助けるためには情報が必要だ。知識は力である。その知識を知恵に変え、技を持って制する。
僕はゴミ捨て場で拾ったローブを身に纏い、フードを被っている。
(とりあえず、情報をまとめたいな。どこか座れる場所は……)
丁度影になっているテラス席のような場所が見え、僕はそこに座ると実は持ってきていたメモ帳を開いて、万能ボールペンでスラスラ書き始めた。書き終わるとボールペンで軽く頬を小突く。
(一番大事なのはこれで……これは、そうか……)
頷きながら一人で考え最適解を見出そうと頑張る。
僕は帰路に向け歩き始めていた。行き交う人々に変化はないが、やはり不安そうな顔で談笑し合っているのが不思議で不気味だ。
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ではまた明日──




