11 過ぎ去る日々
帰り方もわからないのでしばらくこの街を観光することにした。畑もあったので、もしかしたらいろんな作物が置いてあるかも知れない。そんな期待も胸に露店へ。
(わぁっ! すごい!)
思ってたよりも種類が多く、驚いた。ぱっと見野菜が多く、次に果物が多いように思える。
ぐぅ〜。
(もうお昼か……食堂行くか)
露店を巡りながら食事を取れる場所を探すと、良さげな店を見つけた。
(和風な店だなぁ。米とかありそう)
見るからに、ザ・和風。他の家やら店と比べこの店は木造でできており、なぜか日本を凄く感じる。暖簾を潜ると店内に入った。まず第一に驚いたのは畳があったことだ。入って右側にはカウンター席があるが、左側は一段高くなり畳が使われている。お客さんも大勢おり、カウンター席しか空いていないようだ。
「いらっしゃいませ~。カウンター席へどうぞ」
案内され席へ座ると、メニューを手に取った。クックおじさんの食卓と同じく、こちらもメニュー名はあるが写真や絵などはない。しかも、メニュー名も読めない。
「おすすめをください」
文字が読めないとどうしてもこういう所で裏目に出る。せめて上にカタカナでも振って置いて欲しい。
前みたいな事にはならないよう祈る。そう、箸で食べたいのに箸が置いてないじゃないか事件のように。
(?! あれって……!)
キョロキョロしていると懐かしいもを見つけた。
(風鈴! でもなんで?)
まだ風鈴を出すには早い気もする。しかも、あんな所に置いていても意味がないような。
一番風の当たらなさそうな場所に風鈴が置かれており、不思議を通り越してあ然に思う。
「うちのおすすめ日替わり定食だよ」
若い女の人がニカッと笑いながらお盆を差し出してきた。受け取ると目の前に置く。
手前から左に米、右に味噌汁。おひたし、奥に焼き鮭、それと水がセットだ。副々菜はあるのに副菜はないという謎(?)だが、箸があるだけありがたい。
「おお~! いただきます」
箸を持ち、指の間に挟むと手を合わせた。
まずは白飯を取り一口掬うと、口の中へ運ぶ。弾力のあるモチモチとした食感に、噛むごとに甘さが出て来る。ゴクリと飲み込むと茶碗を置き、味噌汁を手に取った。
ズズズっと汁を飲み、身体が暖まるような感覚に陥ると、豆腐、ワカメをひょいと口へ放り込む。豆腐は脆く口の中で蕩け、ワカメのしっかりとした歯ごたえが緩和させるように交わる。それを汁で一気に飲み込むとお椀を置いた。
焼き鮭に箸を一太刀。一口サイズに切り取ると、左手に茶碗を持ち受け皿にするように一緒に口へ運ぶ。シャケご飯。ガムのように何度噛んでも味が出て来る。そのままお浸しに箸を付けると口へ運び、ご飯も一緒に食べる。シャキッとしたほうれん草にご飯を食べる手が止まらない。
「──ふぅ。ごちそうさまでした」
箸を置くと手を合わせた。
店を出るといつの間にか行列ができていた。ざっと三十人ほどは居るだろうか、老若男女種族問わず様々な人が並んでいる。僕はその光景を尻目に街の中の方へ歩いて行った。
(今あるポイントは……十三か。微妙だなぁ)
懐からカードを取り出して確認すると、戻す。一つため息をつくとこれからのことを考え始めた。
(あっちに戻ろうにも、森を抜けないと行けないからめんどいし、馬車を待とうにも次いつ来るかも知らないし……ポイントがちょっと心許ない……この街で稼げるだけ稼ぐか)
日が暮れるまで歩き回り、色々なクエストを集めた。僕が住んでいる宿は朝昼夕食事付きで三ポイントになっている。この街にも宿屋はあるが、空きがある所は四ポイント~しかない。ここで使ってしまえば残り九になり、かなり心許なくなってしまう。それに日本へ帰るためにも貯めなければいけないので、出来るだけ無駄使いはしたくない。
(というこうとは、野宿か……)
そこまで考えると頭を振ってその考えを打ち消す。
(いや、あ~……でもなぁ。どうしよ)
日が暮れるまで歩き回ったせいで足はくたくただし、もう三十分もしないうちに真っ暗になるだろう。
(あ、シルフィーデさんのとこ行ってみようかな)
良い案を思いついたのでそこに行ってみることにした。
「どうしたんだ? こんな時間に」
ここははっきりと言うしかない。しかし僕には彼女がいる手前、本当はこんなことはしたくないのだが。もとはといえば計画なしに歩き回って昼食をとってしまったからでもある。
僕は一度深呼吸をすると困ったようにセレスさんにお願いした。
「今晩だけでも泊めさせてもらえませんか!」
顔を深く下げると頭上で両手を合わせる。ダメならダメで宿をとるしかない。実際そっちのほうが良いのは分かっている。しかし、節約をするためにもこの街でクエストをしなかったバカな僕のためにもきっぱりと断って……
「なになに~? いいじゃんおいでよ~! それに困ってたらいつでも頼ってねって言ったんだし」
「そうですよね。やっぱりだめ……えっ?! い、良いんですか?」
予想外過ぎてうれしさよりも驚きのほうが勝ってしまう。思わず顔を上げると二人の姿を初めて視界に捉えた。
セレスさんはまだ防具を身に纏っていたが、シルフィーデさんは違った。ピンク色のネグリジェに身を包み、頭には髪の色と同じ黄色のヘアバンドをしている。
「ってもしかして寝ようとしてましたか?」
「ん~? 私は朝一でクエストしよっかな~って」
起こしてしまったのかと少し罪悪感が沸いてしまう。
二人が僕を招き入れてくれるとある場所に促された。
「お風呂まだ入ってないでしょ~? 使っていいから行ってきなよ」
「え、そんな僕は」
「いいのいいの。ザブッと浸かっちゃって」
好意を無下にするのもなんだか気が引け、結局僕は折れてしまった。部屋についているお風呂に行くと軽く汗を流し、シャワーだけで済ませてしまう。
(異世界なのにこういうのも魔法でできてるんだろうな)
単に技術力だけでみても十分地球と同じくらい発展しているのでは? と思ってしまう。ましてやこちらには魔法がある分、地球よりもいろいろと発展してそうだ。
「痛っ……たまに沁みるなぁ」
左腕の上腕にだけこの痣というべきか、古傷というべきかは痛々しく遺っている。ここ最近はいろいろあって忘れていられたが触れられると流石に無視するわけにもいかなくなってしまう。
シャワーに当てられながら僕は考えに老け込んだ。
──それから一週間後、この街から僕の宿がある街、サスピシャスへ戻る馬車を見つけた。乗合馬車のためポイントは多少掛かるが、あるだけありがたい。
なんとですね、明日も友達の誕生日なんですね~笑
ということで明日も2話投稿したいと思います笑笑
ではまた明日──




