09 二度目の魔獣討伐
今日は昨日のような違和感は感じない。寝たらタイムリープするようなそんなアレではないらしい。僕は安心しつつ朝飯を食べに食堂へ行った。
(今日も街の外で二つクエストしたら帰って早く寝よう)
少し眠い気もするが顔を洗い目を覚ますと街の外へ向かった。今日は前にできなかったゴブリン討伐をしてみようと思う。早いとこ稼いで、サーペントタイガーが出現する前に帰りたい。
「うっ……」
あの森に着いてしまった。あの時の光景を思い出してしまい、気持ち悪くなる。
(大丈夫……まだ、あいつは出てこないはず……)
目の前の森を横切り、地図を見ながらゴブリンの巣を目指す。と、僕が出向くまでもなくゴブリンが現れた。その辺に落ちていた木の棒を拾うと目の前に構える。とはいっても剣道などの経験もないので素人構えだが。
「僕なら……いける。大丈夫……」
震える身体を声で叱咤しながらゴクリと唾を飲む。相手は二匹だ。一匹に集中さえしなければ勝てる。
グギャギャギャ。
ゴブリンが鳴き声を上げると二匹同時に襲いかかってきた。僕はすかさず一番近い方のゴブリンに木の棒を振り下ろす。頭にガツンと当たるとノックバックが付いたように飛んでいく。もう一匹は棍棒を雑に振り下ろし僕の身体を捉えた。まずいと思ったが冷静に、一歩踏み出すことで躱すことができた。そこへゴブリンの後ろから木の棒を両手で振り下ろす。
ゴン!
鈍い音とともに地面へ強い衝撃が奔った。僕は息を呑み、起き上がらないか見る。
(良かった。死んだみたいだ)
安心し、僕は持参したナイフでゴブリンの耳を切り落とす。麻布の袋に回収した右耳を二つ入れると引き返し始めた。本当はもう一匹討伐しないといけないのだが、戻っているうちにもう一匹くらい出くわすだろうと思いそれ以上踏み込むのは辞めた。
(あとは木の実の採取だけど……どこにあったっけかな?)
あの時はほぼ迷子状態で森に踏み入ってしまったため、正確な場所がよく分からないのだ。時間は掛かってしまうが記憶を頼りに森の奥へ入る。
(どれも見たこと無い……もしかして、迷った? それだと本当にめんどいんだけど)
開始数十分歩いたところでもう早、弱音を吐きはじめてしまう。見たことあるような木も無ければ、植物もない。
ふと、冷たい風が頬を撫でた。寒いとまでは行かないが、ひんやりとしており思わず身震いを起こす。
(まだ五月だし、そんなに寒いはずはないんだけどなぁ……日差しが当たらないせいか?)
どんどん足を進めるが、寒さも次第に強くなっていく。
「寒い……もう帰って暖まろ」
口元で両手を合わせ「ハァ」と息を当てる。百八十度反転すると元来た道を帰り始めた。
(なんでこんなに寒いんだろ。異常気象? そんな日本でもあるまいし……なにか魔物が居た、り……?)
「いるじゃん! ブルーウルフっ」
なんでこんな大事なこと、というか一番衝撃的だったことを忘れていたのか意味が分からない。僕はすぐさま周囲に目を向けるも、姿は見えない。
(もしかしたら前みたいに見落としているだけか?)
もう一度、今度はゆっくり周囲に目を動かす。
──いた。やはり見落としている。分かりやすい場所にいるのになぜか見落としてしまう。
(もしこのまま街に逃げれば僕は助かるのか? それとも僕を追ってくる? でも僕には逃げるしか……)
力のない僕には逃げる以外の選択肢は無い。今ならまだ気付いていないフリをして帰ることが出来るだろう。僕はあからさまに声を上げた。
「あ〜あ、やっぱり僕にはダメだ! 帰ろ帰ろう」
横目でチラリと見てから歩き始めた。
──ガサガサッ。
「待ってそれは聞いてないってぇ!!」
後ろを見るとさっきまでソコにいたはずのブルーウルフがいなくなっていた。前を向こうと、上半身を回転させていくと横に、かなり近い距離に居た。僕は思わず声を上げながら走り始めた。
逃げる逃げる。とりあえず来た道を戻れば森の外に抜けられるはずだ。一直線に、必死で走る。
「退いて退いて退いてぇぇ!!」
目の前に現れたゴブリンに向かってそう叫ぶが退きそうにはない。ほぼ無意識に僕は足を振った。するとゴブリンの胴体に命中し、そのまま蹴り飛ばしてしまう。木へ衝撃が奔るとコテリと地面へ落ちる。
「やばいヤバイヤバイって!! ……見えてきた!!」
チラチラ後ろを見ながら進んでいたが、ようやく前方に光が見えて来だした。何とか力を振り絞り加速する。一気に森を抜けると、三つの人影が見えてきた。すかさず僕はその人の後ろに隠れる。すると一秒もしないうちにブルーウルフも飛び出てきた。
そして僕はこう言う。
「セレスさん! 水泡をヤツの上に!」
すぐさま反応するとブルーウルフの頭上に『水泡』が現れた。
──弾け、ブルーウルフの冷気で一瞬にして雹へと変わっていく。水気がブルーウルフへ付着すると霜となり、毛から蝕んでいくと全身が凍りついた。
「死ん、だ……?」
「ええ、もう大丈夫だ」
安堵のため息を吐くとその場にへたりこんだ。すると頭上に影が落ちる。
「お前、なぜ私の名前を知っている?」
最もな疑問だ。僕はまだこの人とは会ったこともなければ名前も知らないはずだ。
目を伏せながら僕は頬を掻く。
「それに、水泡を使えることも何故知っている?」
「あ~……それは…………」
なんて答えれば良いか分からずどもる僕に、セレスさんは顔を近づけてくる。
「まあまぁ、そこまでにしときなってセレス。この子にもなにか事情がありそうだし」
短髪翠眼のエルフがやれやれといった感じでセレスさんを宥めるように言う。
「そうだね。先にこっちの処理を手伝ってくれないかな」
青髪碧眼の好青年の男がブルーウルフを解体しながらこちらを見る。討伐隊にはいなかった二人だ。
「はぁ……ま、いいだろう。まだ魔物がいるかも知れない。お前は街に帰ってろ」
「ふふっ」
エルフが謎に笑みを零したが僕は不思議にだけ思い、街に帰ることにした。
ふと、そういえばと帰りながら気付いたことがある。セレスさんの髪が長いことだ。あの時会ったセレスさんは髪が短かった。ちょうど、一緒にいたエルフくらいに。なんにせよブルーウルフが一匹しか出てこなかったのはうれしい誤算だ。
とりあえず今日はもう疲れた。こんな危険なところに長居はしたくない。僕はゆっくりと帰路に着いていた。
個人的にはクスッとしていただけてたら狙い通り!
明日は友達の誕生日なのでなんとなく2話更新しようと思います笑
ではまた明日──




