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人型お掃除ロボはルンバを踊る夢を見るか

作者: jima

 ある夜、博士が助手の家にやって来た。車に荷物があるというので、手伝って降ろす。


「こんな夜更けに何ですか。仰ってくれればこちらが出向きましたが」


「ムフフフ、完成したから、我慢できずに見せにきてしまったよ」


 荷物をリビングに置いて博士は笑った。あらためてその大きな荷物を見て、助手は尋ねる。


「博士、これは何ですか」


 博士は憤然として答える。


「君はずっと一緒に製作に取り組んでいたではないか。何を作っているのかわからなかったのか」


「…まあ…要するにあの人型のロボットですか?」


 助手の言葉に博士が機嫌を悪くする。


「そんなテキトーな認識で君は私を手伝っていたのか。確かに人型ロボットと大きな括りをすればそういうことになる」


「小さな括りだと何になるのですか」


 博士は胸を張った。


「お掃除ロボットだよ。助手くん」


 助手は唖然とする。


「博士、お掃除ロボットはすでにあります。そして家庭に普及しつつあります」


「馬鹿者!あれはロボットではない。本当のロボットは人型であるべきだ」


 だが博士の主張は助手には受け入れられない。


「しかし、博士。まあ、博士のような変わり者が世の中に数%いたとしてですね。お掃除用としては人型はどう見ても効率が悪そうです。誰も必要とはしないでしょう」


 博士が眼をキラリと光らせた。助手はこの時点ですでに嫌な予感がしている。


「助手くん、百聞は一見にしかずという。このお掃除ロボの素晴らしさを見せてあげよう」


 ロボットは博士の好みなのだろう、女性タイプでメイドの服を着せられていて、まあまあの美人だ。助手はそのあんまりな趣味にため息をつきたくなった。

 こんなものの開発にこの半年を費やしたとは。


 博士が背中にあるスイッチを押した。ウィンウィンと音がしてロボットは作動した。まず掃除場所である部屋の様子をキョロキョロと見回す。プログラム通りとはいえ、よく出来ていると助手が感心したのもつかの間、そこで停止した。


「博士、もうバグがでました。停まってしまいましたよ」


「違うぞ、助手くん。彼女は今困っているのだ」


「はい?」


 そういえばロボットがオロオロしている(ように見える。言われてみれば)


「近くに行ってロッカーの場所を教えてあげなさい」


「…なぜそれがプログラミングされていないのですか。そこが肝心なところでしょうに」


 博士がニコリと笑って自信満々に言う。


「これがまず第1の自慢『どっきりドジっ子システム』だ」


「…何ですか、それは。」


「彼女は一人では何にもできないのだ」


 助手は体から力が抜ける。


「アホな」



 助手は気を取り直して博士の言うとおり、彼女の手を引き掃除用ロッカーへ誘導する。そして彼女にホウキを手渡した。ロボットはニッコリ微笑み、エプロンの中央の電光掲示板を光らせる。


『アリガトウ  アタシ  ガンバル』


 脱力しているヒマもなく、ホウキをかけ始めたロボットがそこで転んでしまう。


「博士!転倒しました。どうしたら…」


「助け起こしてあげて、こう言いなさい。『いいから掃除は僕にまかせて』」


 助手は呆然として博士を見る。このジジイいよいよ駄目だな…という視線である。



 仕方なく助手はロボットを助け起こし、ホウキを取り上げて自分で掃除を始める。それを見とがめて、博士が言う。


「助手くん、そうじゃない。ちゃんと『僕に任せて』と言わないと…」


「…」


 助手がロボットを見ると、悲しそうな顔をして涙まで流している。電光掲示板にが光る。


『アタシ  ヤクタタズ』


 助手はすでに心が折れそうだったが、セリフを絞り出した。


「いいから僕に任せて」


 まったくの棒読みだったが、ロボットは笑顔になりまた掲示板が光る。


『アタシモ  オソウジスル     アナタノ  ヤクニ  タチタイ ♡』


 博士が助手を褒める。


「素晴らしい。もうハートマークを獲得したぞ」


「あの…ハートを獲得すると何かあるんですか」


「三つ獲得して、君が雑巾を落とすと一緒に手を触れて『…あっ』とか言いながら赤面してくれるのだ。これが第2の自慢機能、『うっかり初恋システム』だ」


 助手が顔を顰めた。


「馬鹿馬鹿しい。これのどこがお掃除ロボットなのですか」


「まあ待て。最終システムが発動するから。評価はそれからだ」


 博士は自信満々である。助手がホウキを使い始めると、ロボットは雑巾で床を拭き始めた。


「ほらほら、見てごらん。助手くん」


「…何がですか。下手くそに雑巾を使ってますね。ちっともきれいに出来ていない」


 博士がじれったそうに指摘する。


「わからんかなあ。スカートだよ、スカート」


 言われて助手がスカートを見る。膝をついて床を拭くロボットの足下は、パンツが見えそうで見えないギリギリのラインとなっている。助手は首を振る。


「博士、何のつもりですか。これはロボットでしょう」


「このギリギリラインを見極めるのに随分時間が掛かったのだ。すごいだろう。これがトドメの『パンチラギリギリ死守システム』だ」


 呆然とする助手を尻目にロボットが助手の方を向いた。


『モウ  ジョシュクンノ  エッチ』


 ロボットは赤面して立ち上がり、隣の部屋に逃げていってしまった。


「博士、申し訳ありませんがこれは売れませんよ。役に立たなすぎます」


「むっ、君だってキュンときただろう」


「…お帰りください」





 後日談である。半年後に売り出された『人型お掃除ロボット:キュンキュンです1号』は賛否両論巻き起こし、いや主に否の方だが、それでも売れに売れた。


 少数の「こんなロボットを待っていた」とか「もう嫁はいらない」などの感想と大多数の「馬鹿じゃないのか」「キモい」といった否定的な意見で、とにかく爆発的に売れた。悪評も評判のうち、とはこういうことだろう。


 その後「ホントに何にもしないけれど、態度だけはでかいバージョン」や「泣き虫システム強化型いじめないでね、でもいじめてねバージョン」といった頭痛の痛い改良だか改悪などがなされた。

 

 次は男性型召使いロボと執事ロボの発売が発表されると噂される頃、研究所のバイトをやめた助手くんのもとに博士から手紙が届いた。


「お元気かね。私は元気だ。ロボットの売り上げで、今マイアミの熱い夜を過ごしている。君もこっちへ遊びに来ないか。いいところだぞ」



 助手くんが丁寧にお断りの手紙を書いていると、台所で何かが落ち、割れる音が聞こえた。

 助手くんは苦笑いをして台所へ行く。あの日『ジョシュクンノエッチ』という電光掲示板のメッセージを出したロボットが皿を落として震えていた。


『マタ  シッパイ  シッチャッタ    ゴメンナサイ』


「いいから、いいから。僕に任せて」


 助手くんが微笑み、ロボットはお皿を拾う。当然パンチラはギリギリで死守された。


  

一見役に立たないことだって、誰かを幸せにすることができるんだ…みたいな、いい話を書こうとしたのですが、どうしてこんなことに。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 面白かったです。 軽いタッチで気軽に読めました。 ハイペースでたくさん書けてすごいと思います。
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