趣味人作家が見た新たな景色、そして手にした「心の印税」
そこには、とあるアマチュアのWeb作家がいた。
その作家は、自身の投稿する小説サイトの定説に従えば、「底辺作家」と呼ばれる地位にある。
彼自身の作品のブックマークが100に届かず、評価総合ポイント最高値も670程度と、ランキング上では全くの無名作家と言ってよいだろう。
もっとも彼自身は、プロ作家になりたい、書籍化したいという欲がかなり薄れ、現在は読者の動向よりも自分が書きたい物語にこだわる、「趣味人作家」への道を歩んでいた。
5月初旬、その作家「SSM48(←年齢疑惑)」はひっそりと短編小説を投稿する。
投稿直後は、活動報告で彼の動きを知っていた逆お気に入りユーザー数名の評価が入っただけだったが、SSM48自身初めて挑むマイナージャンルだった事もあり、僅か数十ポイントで翌日午後の日間ランキングTOP5入りを実現した。
この瞬間彼は、最低限のノルマを果たせた……つまり、逆お気に入りユーザーにまで無視される出来ではなかった事にひとまず安堵する。
しかしながら、逆お気に入りユーザーのポイントで日間ランキングには入れても、一般ユーザーの支持を広げる事が出来ず、短期間でランキングから消えてしまう。
そんなSSM48の限界を、彼自身はどうにかして打ち破りたいと願っていた。
そんな中、恐らく逆お気に入りユーザーであろう、ブックマークして未読だった読者からの評価ポイントが加算され、SSM48の作品は遂に日間ランキング第1位を記録する。
彼はこれまでに、詩とエッセイのジャンルでは日間ランキング第1位を経験していた。
だが、今回はマイナージャンルとは言え、れっきとした「小説ジャンル」での第1位。
この事実は、獲得ポイント100未満の栄冠という現実とは関係なく、小説家としてのSSM48に大きな喜びをもたらしたのである。
通常、小説投稿サイトでは、ランキングの上位をマークすれば露出と注目度が増え、PV(閲覧回数)も増加する。
しかし、作品の内容が作者の趣味に偏っていたり、作者自身が注目を持続させる更新や宣伝を怠ったりすると順位は下降し、やがてランキング圏外へ消えるのだ。
SSM48は、作風や価値観に唯我独尊感があり、かつ、SNSの類いを一切やらない為、作品の宣伝は活動報告や、エッセイで特定の作品名を挙げる程度。
感想返信はマメに行うので、感想欄を見て好印象を持ってくれたユーザーを逆お気に入りに引きずり込み(笑)、2〜3人分のポイント上積みを期待するのが精一杯である。
だが今回は、初挑戦のマイナージャンル。
このジャンルの読者の殆どが、SSM48に先入観を持っていなかった。これが幸いした。
彼の作品はその後、日間ランキングの第1位の座を3日間キープし、これまでにないPVからポイントを稼ぐ。
更に、ランキングのTOP5……所謂「表紙」に約2週間掲載され、その事実がまたPVとポイントを呼び、遂にSSM48の著作中最高の評価を更新したのである。
彼にとって未踏である、670ポイント以上の景色が見えた頃、作品はランキングを下降し、やがてランク外退出、ランク内復帰を繰り返す様になる。
この瞬間、当該作品の「ヒット作品」としての役割は終了した。
そんなSSM48の作品が総合ポイント700に到達した頃、一件の感想が彼の心を揺さぶる。
それは投稿後初めて寄せられた、批判的な感想。
その感想の主は、ハンドルネームの色が黒一色の、小説投稿サイトにログインしていないユーザーだった。
SSM48は、このサイトに於ける処女作から一貫して、ログインユーザー以外にも感想欄を開放している。
それが彼のポリシーであり、裏を返せば彼は最初から、このサイトで人気の出そうな作品を書くつもりはなかったのである。
その批判的な感想を読んだSSM48は、最初はひとりの作者として、正直に残念で不愉快な気分になった。
この事実は、たとえ全てのユーザーに感想欄を開放していても、たとえサイトで求められている作品を書いていない自覚があっても変わらない。
だが、普段の作品より評価ポイントが抜群に多く、それ以前に貰った感想は全て好意的なものだったので、ショックは少なかった。
これだけのユーザーに読まれていれば、この作品をつまらないと感じる人は必ずいる。
また、その中には、どうしても批判的な感想を書かなければ収まらない人もいる。
現に彼自身も、他人の作品に批判的な感想を書いた事があるのだ。
改めて、その感想を読み直してみると、作品や作者を誹謗中傷しているニュアンスは感じられず、何処となく「期待外れだった」というニュアンスが漂っている。
そこで、SSM48は理解した。
このユーザーは、ログインしていない事もあり、このサイトのヘビーユーザーではない。
つまり、最小限の手間で面白い作品を探す為に、日間ランキングの様な流動性の高いデータではなく、週間、或いは月間ランキングの上位作品から読んでいるのだと。
たまたま当該作品がヒットしたSSM48は、このジャンルでは全くの無名作家。
それが当時、たまたま月間ランキング上位にまで顔を出していれば、内容を期待されていてもやむを得ない。
つまり、SSM48の作品をハードル高めに設定して、期待に胸を膨らませて読むユーザーがいてもおかしくないのだ。
その結果、内容が期待していたレベルになかった、或いは期待していた展開ではなかった……という事になれば、批判的な感想を書きたくなるという気持ちも、分からなくはなくもなくもなくもなくもないのである(笑)。
この気持ちは、彼が今回、マイナージャンルとは言え月間ランキングにまで上がるヒット作を生み出して、初めて経験する気持ち。
ある程度の山に登って、初めて見える景色だった。
その後、SSM48はそのユーザーに丁寧に感想を返信する。
ログインユーザーではない為、当人も批判的な感想を入れた時点で、スッキリしちゃったりなんかしちゃったりなんかしちゃったりなんかして(笑)、もうその返信は確認すらしないのかも知れない。
しかしながら、その丁寧な感想返信が当該作品とSSM48自身の評価にとってプラスになっている事は、その後の評価ポイントを眺めていれば一目瞭然だ。
ヒット作品としての役割を終えた後も、当該作品はコツコツとポイントを稼ぎ、現在は800ポイントを突破しているのだから。
現在、SSM48は本業とも言える1話あたり平均16000文字のトンデモ連載作品に戻り、時折詩を発表する活動ペース。
過去となったヒット作品については、特に触れていない。
だが、当該作品には現在も定期的に微量のポイントが積まれ続けている。
この現象を喩えるならば、現在は引退しているミュージシャンの若い頃のヒット曲がカラオケで歌われ、知らない間に銀行口座に印税が振り込まれている現象に近い。
まあ、アマチュアのWeb小説家に印税は振り込まれないので、「心の印税」とでも呼ぼう。
執筆当時の想いや苦労は、人それぞれにあるだろう。
当人にとっては、自信作が埋もれ、軽く書いた、妥協した作品がヒットした事に納得が行かない……なんてこだわりもあるかも知れない。
だが、この現象はやがて、当人の誇りや支えになるに違いない。
作品がランキング上位にとどまり、読者の数が増えるにつれて、実は低評価の割合が増えて行くという現実がありながらも、ヒット作品としての役割を終えた作品は、不思議と平均点が下がる事が気にならなくなる。
成功と失敗、称賛と忘却の背中合わせに晒され続ける「プロへの道」「書籍化への道」は、SSM48が求める道ではなかったのだ。
「心の印税」が何度も振り込まれる様に、読者の数を問わずに長く読まれ続ける作品を生むという事が、彼の最大の喜びであり目標であると結び、最後にこのエッセイを読んでくれた方にメッセージを贈りたいと思う。
評価されない作品に批判的な感想が来るのは辛い。これは確かだ。
だが、十分に評価されていて、「プロへの道」「書籍化への道」を叶えた作品、或いはそこに近づいている作品を書いている人は、時折来る批判的な感想程度には寛容であって欲しい。
あなたには、無数の「心の印税」が振り込まれているはずなのだから。