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5分シリーズ

君の好きなものになりたい

作者: 理春

いつも遊んでいた中庭では、大きな木があった。

誰かが言っていたけど、それはご神木なのだとか。

子供の頃はよくわからなかった、ただ覚えているのは、いつも一緒に遊んでいたあの子は、その木にもたれて座り、本を読んでいた。


しょうちゃん、何読んでるの?」


「美咲くん、おかえり。お父さんから貸してもらった本を読んでたの。」


晶はそう言って、本で口元を隠すように表紙を見せてくれた。


「ん~?・・・難しそうな本だね・・・。」


「うん、でも漢字はふりがなふってあるし、わからない所は渚に聞いてるの。」


嬉しそうに本を抱きしめて、晶はニコリと笑った。

俺はその一言に、少し嫉妬心を覚えた記憶がある。


「そうなんだ、俺も今度書斎で何冊か読んでみようかなぁ。」


そう言いながら、いつものように晶の隣に腰かけた。


「今日咲夜くんはお稽古?」


「うん、最近色々頑張ってるみたいで。」


俺も咲夜も、子供の頃はあらゆる稽古事をしていた。

家柄のこともあって、何故それをやるのか疑問を持つこともなく、勉学と両立させていた。

それは晶も同じだったけど、彼女は自分の趣味である読書も、稽古事も何でも楽しそうにこなしているイメージだった。

幼馴染だからと言って、彼女のことをよく知っていたわけではない。

それを自覚したのは、もっと後になってからだった。

たまたま同じ本家に生まれて、たまたま年が近くて、たまたま仲良くなれた、そんな程度だった。

子供の頃も、彼女が俺のことをどう思って接していたかなんて知らず、隣で座って同じ時間を過ごしているだけで、居心地がいい、と思っていた。

だけど俺は自分をよく見せる方法も、どうやって気を引いたらいいのかもわからなかったので、彼女と同じことを頑張ろう、と思ったくらいだった。


心身ともに大人になろうとする10代後半頃、ますます彼女は魅力的な女性になっていった。

才色兼備とは、彼女に使う言葉だろうと思った。

俺はどうやら、他人のことはよく見え、機微や発言から心境を推し量ることが出来るほうだったが、自分自身のことになると、よくわからなかった。

だけどそれがつらいと思うこともなかったので、愛想は悪いが、周りとはうまくやっていたと思う。


けれど今思えば、わかっているふりをしていただけかもしれない。

もっと踏み込んで晶のことも、家族のことも考えて関わっていれば、あの時父を止められたかもしれない。


今になってそんな事ばかり思う。

だから今はもう、臆病になることはやめて、踏み出すことを選んだ。

あの子の手はもう、子供の頃の小さな手じゃない。


「晶、この本も好きそうだな、って思ったんだけど・・・よかったら貸すよ。」



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