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ロストガールと魔女  作者: ヌププ
第四章 『赤ちゃんの泣き声は誰に響く?』 茜屋龍之介/竜崎茜
23/40

22 新歓祭

 

 合格発表がなされるまでの待機期間の始めに起きた出来事は、すぐさま鏑木さんに報告された。あの後人ごみを割って風紀委員会という人たちがやってきて、眠ったままの桜花を保健センター(学園都市外で言う病院)に連れて行き、ボクと百華も検査やカウンセリングを受けた。結果として体に異常はなかったけど、定期的にカウンセリングを受けることになった。鏑木がカウンセリングの先生を担当するらしい。

 鏑木によると桜花はしばらく入院することになったらしい。命に関わるものではなく念の為という話だったけど、面会できないところを見るにいまいち信用できない。桜花に取られたままだったスマホはデータはそのままにハードが魔導学園の最新式になって帰ってきた。なんというか、素直に喜べない。


 そんな複雑な心境抱きつつも、月日はあっという間に流れていく。あらかじめ決まっていた通り、ボクは合格してBクラスに割り当てられる。

 魔女を除く全ての魔導士は魔導協会によってA〜F級のいずれかにランク付けされる。でもこのクラスわけは魔導士のランクとは無関係であることが送られた書類に大きく書かれていた。過去にクレームが入ったのだろうか。

 送付された書類にはボクの魔導士としてのランクも載っていた。C級、上から三番目で下から四番目。ネットで調べるとなかなか優秀な部類らしい。お師匠さまから直々に魔法を教わった身としてちょっと誇らしい。ランクは成績や素行によって変動するらしいから、下がらないように気をつけないと。

 百華もクラスは違うけど合格したようだ。お互いにおめでとうを言い合う。ちなみに百華のランクもC級だった。

 百華とは桜花を介さずによく話をする仲になっていた。今度あのお店行ってみようとか、図書館で勉強しようとか、そういうことを気軽に言い合える仲は友達と言ってもいいのではないかな。……結局、桜花を殺すことに関する話題はあの時以来出ていない。



 合格発表の後、順当にホテルを追い出される前に新居を定めないといけない。ボクは寮に入ることにしたけど、百華はちょっと高いマンションに部屋を借りるらしい。魔導士でも簡単には侵入できない防犯設備が魅力的だったとか。


 入学式の日は百華と一緒に学園に赴いた。学園はまるで昔の外国のお城のような見た目をしている。待機期間中に一度下見に来たことはあったけど、何度見ても荘厳で幻想的だ。中は意外にも近代的な造りをしていて快適だった。靴を履いたまま中に入り、百華と別れて各々の教室へと向かう。


 改めて説明すると、ボクは友達が少ない。学園都市に入る前の友達は秋家タクト、以上だ。だから友達の作り方なんて知らないし、桜花みたいな女の子が初対面でもたくさん絡んでくれた時、ちょっと嬉しかった。

 そんなボクでも、初めてクラスメイトが集まった入学式の日に話しかけてくれた人がいた。それが武田たけだ魔耶まや朝倉あさくらしおりの二人だ。

 武田魔耶はショートカットの女の子だ。初等部ではバスケクラブというものに入っていたらしく、比較的筋肉質で声が大きい。

 朝倉栞は髪をかなり長く伸ばした線の細い子だ。内気な印象を受けるけど、彼女の声は不思議と喧騒の中でもよく通った。

 二人は初等部の一年生からずっと同じクラスだったらしい。初めっから彼女たちは二人一緒に行動していた。

 壮大なホールで執り行われた入学式を終えて、晴れて正式な魔導士となり、教室でまごまごとした書類の手続きや担任の先生からの諸説明とありがたいお言葉を受けると今日は解散となった。


「竜崎さん! 私たちと新歓祭回らない?」

 栞を連れた魔耶がボクに声をかける。聞き慣れない単語が耳に残った。

「新歓祭?」

「先生も言ってたでしょ? 今部活とかサークルの人たちが新入部員を確保するためにいろんなところで勧誘してんの。いろいろ見てかない?」

 ボクにとっては嬉しいお誘いだ。しかし百華のことが脳裏によぎる。

「残念だけど、今日は無理かも。別のクラスに友達がいて」

「あ、先に約束しちゃってた?」

「いや、約束してるわけじゃないんだけど」

「じゃあその子も誘おうよ! 一緒に回ると楽しいよ!」

 少々強引なお誘いに若干ビビりながらもSNSで百華に連絡を送ると、短く「いいよ」と了承の旨が送られてくる。

「やった! じゃあみんなで回ろっ!」

 ボクたちは百華のいるAクラスで百華と合流する。そして新歓祭へと赴いた。


 学園の中では廊下、教室、階段、ラウンジ、中庭など至る所で勧誘活動が行われていた。ビラ配りをする人やユニフォームを着ている人が目立ち、中央広場のステージでは吹奏楽部の演奏が行われている。

「すごい、あの人空中で踊ってる!」

「パフォーマンス部かな? ダンスサークルかも」

「あっちマジックやってるよ!」

「マジック研究会……本当に魔法を使っていないのでしょうか」

「オカ研か」

「魔導の時代になってもホラーとかオカルトって一部の人に人気あるよね」

「私も好きかも」

「百瀬さんが? 意外だなー」

 いろんな団体が各々のやり方で自分たちをアピールしている。ボクはこのお祭りのような空気が好きだった。


 ふと、ある特異な集団を発見し目が釘付けになる。彼女たちは生まれたままの姿でそこに立っていた。剥き出しのプライベートパーツを隠すことなく自然に佇み、肌色が風景に違和感として映る。恥ずかしがることもなく当たり前のように全裸で過ごしているので、えっちというよりも異文化の人間として認識した。他の三人も彼女たちの存在に気づいたのか小さくリアクションをとる。

「げっ、ナチュライだ。みんな絶対目を合わせないでね」

「ナチュライ……」

「服も着ないしメイクもしない、生理中すら垂れ流しの不潔の代表集団のこと」

「迷惑ですよね。TPOを知らない人たちなんです。絡まれる前にさっさと離れましょう」

「最後に一番怖いのは人ってことだね」

 どこかずれた発言をする百華もそれ以上は追求しなかった。


 幸い絡まれることもなく通り抜け、ある程度敷地を巡っていると百華の受け取ったビラが目立つようになった。

「めちゃくちゃ渡されるのだけど」

「全部受け取ってるの!?」

「断らないと永遠に渡されて最終的には無理やり入部させられますよ」

「でも断るのも悪いし……」

 大量のビラを両手で抱えた百華は困ったように眉をしかめる。それが彼女のクールな印象に不釣り合いで頬が緩む。ある程度関わって分かってきたけど、百華はちょっと抜けたところがあるけど心優しい、普通の女の子なのだ。


 その時物陰からこちらを見つめる視線のようなものを感じた。振り返ると、しかし誰もいなかった。

「どうしたの?」

「……ううん、なんでもない」

「そう」

 ボクを見上げる百華に気のせいだっただと伝える。彼女はそれ以上は追求することなく、手持ちのビラの扱いに考えを向けた。


 本当に突然だった。僕たちの頭上を何かが通り過ぎ、突風が遅れてやってくる。

「あっ」

 百華の持っていたビラが風に巻き上げられて、紙吹雪となって周囲に拡散する。ひらひらと落ちるビラの先には人の頭より少し上を飛びながら徐々に高度を上げている、箒に乗ったローブの女の人の背中があった。

 箒に乗って空を飛んでいる魔導士、初めて見た。


「大変……っ」

 百華は慌てて散らばったビラを拾い集め、ボクたちも手伝い始める。

「さっきの三千緑みちろく会だよ」

 魔耶はビラを集めながらこぼすように呟く。

「みちろく会?」

「3000の緑って書いて三千緑会。魔導士ランクの上位ランカーの集団でね」

「箒に乗って飛んでいたでしょう? あんなバカみたいなことするの三千緑会の人ぐらいですよ。まったく、三千緑の人は揃ってプライドが無駄に高くて謝ると言うことができないんです!」

 栞は自然に毒を吐く。悪い思い出でもあるのだろうか。

 ボクも一度は箒に乗って空を飛んでみたいなとは思っているけど、そんな危ない真似は紐や命綱なしでは到底できそうにない。そういう意味では三千緑会の人たちはよほど自分の魔法の腕に自信があるのだろう。箒が高性能な魔導具という可能性もあるけど。


 飛んでいったビラを追って段差を降り、少し入り組んだところに入る。影になっていて見えづらく、ビラを探して下を向いていたボクはうっかり誰かとぶつかってしまった。

「いて、ごめんなさ……」

「あ゛ぁ?」

 ピアスをたくさん空けた怖い女の人がボクを睨みつける。

 やってしまった。


続く?

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