3話 ウィンの街……の入口で
カルスさんと数名の人達(?)に案内してもらい、ウィンの街とやらにつづく道へ向かう。
「達者でなー!旅人よ!!」
「頑張れよー!人間ー!」
大声で応援してくれるカルスさん達に、俺は大きく手を振って応える。
さて、確かに道はあるものの、やはり生物が通ることはほとんどないためか、かなり自然と同化していた。それでも道があるだけありがたいが。
やれやれ、少しめんどくさい旅になりそうだな……。
はい、もー疲れました。まだ歩き始めて20分足らずか……道は非常に凸凹してて、アスファルト慣れした人間の足にはハードすぎる!
幸い、上り下りは少ないから、そこら辺は感謝。
最初こそ貰った剣を振り回して悠々と歩いていたが、今は左手の剣がずっしりと重く、振り回すなんて考えられない。
さて……疲れたのは仕方ない。まだ日は高いから、休めばいいだろう。
道端にちょうどいい丸太が転がっている。そこに腰掛けた。
それより、いろいろと状況を整理しなくてはならない。
まず、ここはどこだ?
A.地球以外と思われる、謎の世界。
異世界と結論づけていいだろう。
次に、カルスさん達は何者だ?
A.分からない。
緑色の皮膚は、ペイントなどでは無さそうだ。体型から、異世界で有名なゴブリンでは無いだろう。
なら、「オーク」だろうか。
だが、人間の言葉を使い、俺に対して敵意がないことも気になる。
とりあえず、今は「オーク」としておこう。
そういえば異世界となると、何らかの手段で自分のステータスとかが見れたはずだ。
どうやって見るのか、うーん、見たいって強く思えば出てくるとか?それとも、なんかの魔法なのか……。
「ステータス!」
変化なし。
「ステータスバー!」
変化なし。
「ステータス、オープン!」
変化なし。
「スキルっっ!!!!」
変 化 な し 。
結局、思いつく限りを尽くしたが、目の前に青白いパネルが出ることはなかった。
木漏れ日の中、ただただひたすらに歩く。
正午を回った頃だろうが、気温はそこまで高くない。湿度も高すぎるわけでもなく、けっこう楽な環境だ。
ほんとうに運が悪いのか良いのか……もし気温が馬鹿みたいに高かったら、水も無さそうだし、干からびてたな。
道はグネグネとうねり、少し高低差もついてきた。俺の足に疲れが溜まり、体力が消費されていく……。
……正直、カルスさんの言葉もあまり信用出来ない。
本当にこの道の先に、人の住む街があるのか……?あまり疑いたくはないが、このような状況に置かれると、半信半疑になるものだ。
「あ"ーっ、ひと休みひと休み!!」
かーっ、やってらんねー!
歩き始めてほぼ1時間。人影も見えねぇし、人工物すら見当たらない!
……本当に騙されてないよな?
まぁ、ここまで来て騙されたとしても、どうしようもないけど。
さて、休憩と俺の暇つぶしを兼ねて、今分かっていることを確認しよう。
まず、俺は空間のひび割れに触ったことにより、そいつに吸い込まれてここに来たと思われる。
つまり、この世界と現世(地球)はあの亀裂によって繋がってるということだ。多分。
それで……この世界の人間はどのような立ち位置だ?あまり自然が開拓されているような雰囲気ではないところを見ると、技術がないのか、あっても開発出来ないのか……。
おっと、話が逸れた。
んで、おっそろしい生態系も、ちゃんとあるらしい。サナよりも大きくて強い生物だっているだろう。どうせ。
あれ?分かっていることってこんなもんなの?
……まぁいい。とりあえず、ノートに記録しておこう。
学校でほんの少しだけ使っていたが、ほとんどの科目がプリント記入だけだったから、かなり空いてる。
はぁ、そろそろ移動開始だ。
無心で歩き続け、30分。ついに人工物を見つけた!
……といっても、少し傷がついた、えーっと……か、カブト?いや、ヘルメット?金属製の飾り気のない頭装備だが。
見たところそんなに古くは無さそうだし、近いうちに誰かが落としたのだろう。(装備を落とすって、何があったんだって事だけどよ)
とりあえず、この装備はまだ使えそうだな。
手に取ってみると、思っていたよりずっしりと重い。
顎紐が付きそうな穴があるが、紐はついてないし、サイズも大きいから、頭に被ってもカパカパだ。
まぁ、ないよりかはいいし。使うかは知らないけど。
使わなくなったら売ったりできるんじゃね?知らんけど。
ということで、さらに進む。
またしばらく歩くと、遂に木々が途絶えた。ようやっと森を抜けたようだ。
チカチカする目をかっぴらいて辺りを見回すと、近くの道のずっと奥におおきな灰色の建造物が見える。
ついに、恐らく人工建造物だろう物に出会えたのだ!
高さはそこまで高くない。目測で15メートルとか20メートルとか、それより高いくらいかな?
30メートルあるかもしれない。
レンガ調の壁なのかな。それが、途方もなくなるほど遠くまで続いている。
巨人と人間が戦ってる例の漫画を彷彿とさせるな。
「…………っ……いやっほぉぉう!」
もう、嬉しい!
んで、ここで気づいたんだけど、ここって寒冷地帯なのかな?
標高の高い山脈がここら一帯を囲むように見える。
なんでいま気づいたんだろ……。
まぁ今は喜ぶ時だ。あそこがなんなのか分からない。カルスさんの言っていたウィンの街かもしれない。
そうじゃないかもしれない。もし、要塞とか刑務所とかだったらどうしよう。
街だったとしても、ゴロツキばかりいる街とかイヤだなぁ……。
でも、行ってみないと分からないでしょ!
「……君、一体どこから来たのかね?」
見事捕まりました。
ここは、確かにウィンの街だった。
しかし、入口のおおきな門でピカピカの鎧を着た門番さんに捕まったのだ。
「ど、どこから……?えーと……。」
まさか、べつの世界から来た、なんて恥ずかしくて言えないし……。
「うーむ、普段はここを通る者を止めたりしないのだが……君、その服装はなんだい?あと、その背中の……袋?ちょっと色々と怪しいのでな……。」
「この背中のは、物を入れるための袋です。あと、この服は伝統的な、その、旅装束?で__」
「旅装束?俺は色々な所を旅したのだが、そんな服は見なかったな……」
だよな……だってそんなの嘘だもん。
「おーいーテツー、荷物検査してさっさと通そうぜーくっそめんどくせーからさー」
近くに立っていたもう1人の門番さんが退屈そうに欠伸した。
「おい、その呼び名やめろって言っただろ!
……ゴホン、じゃあ、その背中の袋の中身を見せなさい。」
「はーい……」
正直、この世界の人達に現世の物を見せるのはどうかと思うが、街に入れないのなら仕方がない……か。
ファスナーを開けて門番さんに渡すと、退屈そうにしていたもう1人の門番さんも一緒に覗き込んだ。
「ほう、君は本を担いで歩いてきたわけだ。つまり、賢者になるための修行かなにかか……はたまた見習い商人か。
ん、なんだ?この文字は、なんて書いてあるんだ?」
「さぁ。きっと、古代の文献だろう。」
「それにしては紙が綺麗だな。真っ白でツルツルで……なんだ?この図形は。」
そうか……やっぱり、見せるべきではなかったらしい。
どうやら、この世界は日本語を使っている訳ではないらしい。
俺が喋る日本語を相手は理解し、相手の言語を俺は日本語として理解出来る。
でも、日本語で書かれた教科書を相手は読むことが出来ない。どういうことだ?
「お、君、この小さな袋はなんだい?」
「あぁ、これは筆記用具をしまう袋です。」
考えても仕方ない、と判断して、布製の筆箱(筆入れ?)も開き、中身を見せる。
「ほぉぉ、この棒はなんだい?」
「……文字を書く、シャープペンシルという道具です。」
「なぁテツ、コイツやっぱり古代のなにかを受け継いでるんだよ!」
「……そうかもしれないな、デキ。君は不思議な物をたくさん持っているんだね。」
「は、ははは……。」
やれやれ、必要ないものは早々に処分しないと、いずれめんどくさい事になりそうだな……。
シャーペンの使い方を聞いてきたり、ボールペンを使って見せたところ、興奮してブタの絵を書きなぐり始めたり、この門番2人、結構子供かも。
「うむ、とりあえず、危険そうなものはあったが、そこまで驚異になりそうなものは無い。
街へ入っていいぞ。」
テツと呼ばれていた門番さんが改めて俺に向き直り、敬礼する(かっこいい!)。
「ありがとうございます!
それで……少し聞きたいことがあるんですが……」
聞きたいこと……亀裂のことに、この街のこと、生態系のこと、オーク(仮)のこと……
「なんだい?」
「あの、宙に浮く亀裂って見たことあります?」
「亀裂……どのような?」
「まるで、空間にヒビが入った感じで……」
「ふーむ、デキ!何か知ってるか?」
「えー、俺かよ……まあ、聞いたことねぇな。」
壁によりかかってタバコに日をつけようとしている門番さんがぶっきらぼうに答えた。
「俺らは知らねぇけどさ、占い師とかさ、メッチャ長寿命の物知りに聞けばなにか分かるかもなぁ。」
「そうですか……。」
有力な情報はなかったが、確かに進んだ。彼らの助言に従えば、何かわかるかも。
「ありがとうございました!」
「お、もういいのか?」
「はい、先を急いでるんで……ではまたっ!」
「んー、元気でなー。」
「道中気をつけろよ、旅人!」