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魔法使いの名付け親  作者: 玉響なつめ
第二夜 人魚の恋のから騒ぎ

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「ま、まあ……その辺は置いといて……、一旦お父さんに呪いの話は相談してみた?」

 

「言えるわけないじゃない! お父さんに、れ、恋愛相談なんて……」

 

「いや本当に呪い返しきてたら命の問題なんでしょ?」

 

 照れながら否定されたが、思わず可紗はズバっと感じたことをそのまま言ってしまった。

 サンドイッチを完食して、水筒に入っている紅茶を飲む。

 少し熱かった。

 

「ううう……!!」

 

 ウルリカは悔しげに両手を握りしめ、それでも反論できないのだろう。

 

 そんな彼女の様子に可紗も少し言いすぎたかなと思うが、そもそも話があまり進んでいないことに気がついて若干うんざりしたのだ。

 

「ワタシは人魚の血をひいてるの。人魚は、一途な生き物なのよ!!」

 

「……ええと?」

 

「お父さんにこの恋を知られたら、反対されちゃうのよ! だからおまじないに頼ったんだもん……」

 

 叫ぶように言ったかと思えば語尾が小さくなっていくウルリカに、可紗はなんとも言えず黙って彼女を見つめる。

 きっとウルリカにとってはとても大切な恋なのだろう、それが親に反対されるレベルだと最初から決めつけているあたり穏やかではないが。

 

「――だから!」

 

 これは仕方がない、一度ジルニトラに相談して彼女に呪い返しとやらが生じているのか見てもらって解決の方法を探ろう。

 

 そう考えた可紗が口を開くよりも先にウルリカがビシッと可紗を指さし、睨み付けていた。

 

「だから、アンタはワタシに協力しなさい!」

 

「いや、ちょっと待って……」

 

「待たない! 呪い返しはあるわよ! ワタシの体に数字が刻まれているもの!!」

 

「えっ」

 

「だからアンタはワタシに協力するのよ! お父さんに相談なんてできないし、そもそもアンタが邪魔しなければおまじないは成功してたんだから!!」

 

「無茶苦茶だね!?」

 

 同じように立ち上がった可紗に、ウルリカがそれまでの騒々しさから一転して静謐な表情を浮かべた。

 そして、可紗にわからない言葉でなにかを呟くと、彼女の青い目がキラキラと輝き始める。

 

(ジルニトラさんの目みたいに、光って……!?)

 

 ぎょっとする可紗の周囲に、まるで水のような模様が浮かび上がったかと思うとそれが勢いよく彼女の左手首に巻き付いた。

 なんの痛みも感じなかったが、それでも違和感を抱いて可紗が己の手首を見ると、そこには奇妙な模様が描かれている。


 まるで花模様だが、それは赤い痣。そしてその赤い痣は、可紗の目の前で溶け込むようにすうっと消えたではないか。

 

 驚く可紗をよそに、ウルリカは再び可紗を指さし高らかに言い放った。

 

「これでアンタは呪われた。発動したら、永遠に目覚めない呪いにね!!」

「えっ、呪い……!?」

 

「ワタシに協力しなさい、可紗。そしたら、呪いを解いてあげるわ!」

 

「呪い!? 今、呪いって言った!? 呪いで困ってるっていうのに人に呪いかけるとかちょっとひどいんじゃない!?」

 

「そうよ、協力しないでワタシが死ねば、アンタの呪いを解く方法はないんだからね! イチレンタクショーってやつよ!!」

 

「はあああああああああああああああ!?」

 

 ふんすと再びふんぞり返るウルリカに、可紗はただただ呆然とするしかない。


 それを肯定と受け取ったのかにんまりと笑みを浮かべたウルリカだったが、ふと怪訝(けげん)そうな表情を見せた。

 

「それよりアンタ、ワタシが人魚なことを疑ったりしないのね? 普通の人間は信じないものよ? 馬鹿なの?」

 

「すごい失礼だ……!!」

 

 こちらの意見を突っぱねた挙げ句に呪いをかけて従わせようとした上、馬鹿だと言われてさすがに可紗も腹が立つ。

 苛立ちを隠さず可紗が言い返そうとすると、ウルリカもさすがに申し訳なく思ったのだろう、しゅんとした様子を見せてぺこりと頭を下げた。

 

「ごめんなさい。時々、日本語が難しくて。……キツい言い方になるってお母さんにも言われるの」

 

「……人魚なのは、信じるよ。魔法を、見たことがあるから」

 

「そうなの!? じゃあアンタはワタシたちを受け入れてくれるのね!」

 

「でも!」

 

 可紗の言葉にパッと喜色を浮かべたウルリカは、本当に嬉しそうだ。


 それを可愛いなと思わずきゅんとしたが、可紗は語気を強めて抱きつこうとする彼女を拒否した。

 

「……勝手に呪われるのは、納得できない。困っていると思ったから、ちゃんと話をしようとしたのになにも聞いてくれないし」

 

「そ、それは……その、悪いとは思ってるわよ……」

 

 淡々とウルリカを真っ直ぐに見据えて可紗がそう言えば、さすがにバツが悪いのかウルリカがそっぽを向いて謝罪を口にする。


 だが、だからといって呪いを解除する様子は見られず、可紗はため息を吐いたのだった。


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