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魔法使いの名付け親  作者: 玉響なつめ
第二夜 人魚の恋のから騒ぎ

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 もし万が一のことがあるならば、警察に連絡しないといけないかもしれない……そんなことを考えながらスマホをそっと取り出し、いつでも電話をかけることができるようにしつつそうっと可紗が進むと、学生鞄らしきものが茂みの手前にあるではないか。


 街灯の明かりがぼんやりと差し込む中では、何が理由で鞄がそんなところにあるのか、可紗にはわからなくて、彼女の全身に緊張が走る。

 

 すわ事件か!

 そう思った可紗が更に歩みを進めたところで、人影がちらりと見えた。

 人影は木に向かうようにして腕を振り上げており、こちらに気づいた様子はない。

 

(女の子……?)

 

 社殿の周囲にも配置されている街灯のおかげで先ほどよりは明るくなって見えやすくなったが、その人物がいるのは木々の中なのでよく見えない。


 だが可紗の目には少なくとも鞄は一つ、人影も一つ。

 事件というわけではなさそうだと少しだけ安心したところで、今度は別の疑問が首をもたげた。

 

(なにしてるんだろう……?)

 

 踏み込むのは危険かもしれない、だが好奇心がこのときは勝ってしまった。


 可紗がもう少しだけ近づいて、確認をして離れれば……とそろりと足を進めたところでその人物が、ぐるりと体ごと可紗のほうを向いた。

 

 手には木槌、そして幹に刺さるのは人形。

 どこからどう見ても伝統的に呪っている、そんな状況であった。

 

「キ、キャアアアアアアアアア!?」

 

「き、きゃあああ……! え?」

 

 薄明かりの下、そんな状況下で絹を裂くような悲鳴があがる。

 

 だがそれは、可紗のものだけではなかった。

 むしろ可紗があげた悲鳴よりも大きな声を相手があげたのである。

 

「見たわね!! 見たわね!?」

 

「えっ、えっ……えっ」

 

「折角! 人がいなくなったのを見計らって! ウシノコクマイリしてたのに!」

 

 憤慨しながら歩み寄ってくるその人影は、よく見ると可紗と同じ高校の制服だ。

 見覚えがないところから、他学年だろうかと可紗は首を傾げた。


 金髪碧眼、なかなかの美少女でどうみても日本人には見えない容姿の持ち主である。

 これだけ目立つ容貌の生徒がいるならば、同学年なら知っていてもおかしくない。


 しかし、冷静にそんなことを考えている場合でもなかった。

 

(今、(うし)刻参(こくまい)りって言わなかった?)

 

 丑の刻参りとは。

 日本に古来より伝わる呪術の一つであり、七日間ほどかけて相手を呪い殺すというものなのだ。

 よくホラー映画やテレビの怖い映像特集、心霊番組などでも出てくることから可紗もなんとなく知っている。

 

「折角、恋愛成就のおまじない頑張ってる最中だったのにィーー!!」

 

「……いや、丑の刻参りって恋愛のおまじないだっけ……?」

 

「呪術なんだから、途中で失敗したらワタシが呪い返しを喰らうんだから!」

 

「あ、そこはちゃんと呪いなんだ……」

 

 人間、驚きが一定のレベルを超えると冷静になるものなのかもしれない。


 というよりは、可紗は目の前の少女が普通の人間であることにほっとしていた。

 しかし、考えてみれば人気のない神社で人形に釘のようなものを打ち付けて『恋のおまじない☆』なんて言っている人間が普通なはずはないので、可紗も結局冷静ではなかったのだ。

 

「このままだと呪いのせいでワタシが死んでしまうじゃないの! アンタ、責任取りなさい!!」

 

「えええ!? 急にシビアになった……!?」

 

 しかも要求された内容が大変、おかしい。

 恋愛成就の失敗が死とは穏やかではない。そのことに愕然とする可紗に、少女は胸を逸らしてふんぞり返っている。

 

「ワタシは明石(あかし)ウルリカよ。アンタの名前を聞かせなさい!」

 

「え、ええと……柏木、可紗です……」

 

 何故お互いに自己紹介なんてしているのだろう。

 そう可紗は思ったが、名乗られて思わず名乗り返してしまった。


 このウルリカという少女の勢いに押されているのもあるのだが、なによりも彼女が不機嫌そうにふくれっ面で、命の危機だとのたまう割に朗らかな様子が緊張感を削いでいたせいであった。

 

「あら? よく見たらワタシと同じ高校の制服じゃない。ワタシは三年四組だけど、アンタは?」

 

「え……私は五組、だけど……四組って、あ、転入生……?」

 

「そうよ! ああよかった、別の学校だったりしたら面倒だったけど、同じ学校なら話もしやすいわね! まったくもう、アンタのせいで計画が狂ったんだから協力してもらわないといけないんだからね! 今日はもう遅いから、明日また話しましょう」

 

「えっ? ちょ、ちょっと待って」

 

「それじゃ、また明日!」

 

 まるで親しい友達かのように手を振って去って行くウルリカを、可紗は呆然と見送るしかできなかった。そして、去って行った彼女の背に向かってぽつりと呟く。

 

「……丑の刻っていうんだから、もっと遅い時間じゃないとだめなんじゃないかな……」

 

 どうやら、可紗はまだ冷静になれていないようであった。


 ぽつんとそこに取り残された彼女はしばらくの間呆気にとられたままであったが、ヴィクターから電話がかかってきたことにより正気を取り戻し、慌てて帰ったのだった。


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