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第5話 ストーカーと呼ばないで

 今日は土曜日であり、特に予定の無い俺は自室の掃除をしていた。しばらく手をつけていなかった本棚の掃除をしていると、白河先輩からもらった本皮のブックカバーを見つけた。これはクリスマスプレゼントとして彼女が俺に贈ってくれたものだ。


「(しばらく手入れしていなかったけど、カビとか生えてないかな?)」


ブックカバーを開き、埃を払いながら隅々まで確認する。すると、ブックカバーの内側から一切れのメモ用紙がひらりと床に落ちる。


「あぁ懐かしいな。小学生みたいに手紙のやり取りとかしてたっけか。」


俺はメモの内容を確認した。


********************************************

メリークリスマス

ハルト君


今年の冬は去年よりもなんだか寒く感じますね。

暖かいマフラーなんかがあるといいなぁって思います。


年末も一緒に過ごそうね。


優しい先輩より

********************************************


メモの内容に思わずクスっときてしまう。これは俺がマフラーをプレゼントするということを先輩はあらかじめ知っていた上で書いてきた内容なのだ。当時の俺はこのメモを見たときに相当驚いた顔をしていたらしく、彼女はお腹を抱えて笑っていたのを覚えている。


 白河先輩は底なしに明るい女性であった。常に前向きに物事を捉え、誰にでも裏表なく接し、弱気を助け強気を取り込む。そんな女性だった。敵なんか作るような人ではなかった。はずだった。しかし、半年前に彼女は何者かに殺された。俺がその報せを受けたのは大学最寄り駅のホーム内だった。俺が駆けつけたときにはもう警察が来ていて、白河先輩は病院に運ばれていた。その場に残されていたのは、先輩の血で赤く染まっていた花壇の花だけであった。


 当時のことを思い出しながら、俺は涙を流していた。あのとき、俺が側にいれば守れたかもしれない。彼女を殺した犯人に気付いていれば、防げたかもしれない。悔しさと虚しさがグチャグチャになり、涙が流れる。


犯人はまだ、捕まっていない。



 少し寄り道をしてしまったが、掃除を終えた俺はコーヒーを淹れ出していた。涙を流した後の軽い頭痛を紛らわせるために、コーヒーを飲もうと思ったのだ。お湯を注ごうとしたとき、スマートフォンのディスプレイにLineの通知が表示されていた。


---赤木リン さん から新着メッセージがあります


・・・いつのまに俺のアカウントを特定していたんだ。相変わらず謎の多い子だ。俺や白河先輩のことを知っていたり、急に俺に告白をしてきたりと、とにかく謎ばかりであった。


>[リン]先輩暇ですか?暇ですよね?むしろ暇すぎて掃除とかしだしてませんか?

>[ハルト]なんで俺のアカウントを知っているんだよ。

>[リン]先輩が私を友達登録してくれたお陰で、私の方にも先輩のアカウントが表示されるようになっていたんですよ。ちゃっかり友達登録はしていたなんて、結構ツンデレですよね先輩。


どうやらLineの仕様らしい。俺はリンに連絡は取らなかったものの、友達登録まではしていたのだ。しばらく無視をしていると、キレた犬が吠えているスタンプを送りつけてきた。


>[リン]無視しないでください

>[ハルト]これからコーヒーブレークなんだ。その後で返事するから。

>[リン]コーヒ!いいですね!ご一緒させてください!


しばらく無視をしていると、キレた犬が吠えているスタンプをまたしても送りつけてきた。


>[リン]いま、お家ですよね?

>[ハルト]ノーコメントで。


リンなら、俺の家に乗り込んできてもおかしくは無いかもしれないと思った。しかし、さすがにそこまではできな・・・


ピンポーン


もはや恐怖の域に達していた。まず、俺の家が特定されているということ。加えて、俺の行動を予測して家の近くにいたということ。一般的に、美少女にストーキング行為をされるというのは羨まれるようなことなのかもしれない。もし自分が当事者でなければ、なんて贅沢な悩みだと思っていたことであろう。しかし実際に自分の身に起きると、得体の知れない恐怖を感じるのだと学んだ。

 恐る恐るドアアイを確認すると、案の定そこにはリンの姿があった。変に逃げ隠れするよりかは、さっさと受け入れてしまった方が恐怖を感じずに済むと思った俺は、扉を開き彼女を部屋に入れる。


「こんにちは、アオイ先輩。あ、コーヒーのいい匂いがしますね〜。」

「なんで俺の家まで知ってるんだよ。終いには通報するぞ。」

「合法的にお部屋に入れていただいているのに、通報だなんてヒドイですよ。」

「ストーキング行為に対しての通報だよ!」


俺は大きなため息を吐き出し、仕方なく彼女の分のマグカップも用意する。改めて見ても、彼女は『美少女』そのものであり、どうして俺みたいな冴えないオタクに執着するのか理解に苦しんだ。


「先輩。コーヒーを飲んだら、少し外に出掛けましょうよ。今日はとっても涼しいですし、私行きたいところあるんです。」

「・・・わかった。その代わり、君の秘密を一つ教えて欲しい。」

「秘密?」

「どうして俺に付きまとうのかを教えて欲しいんだ。」

「付きまとうだなんて、聞こえが悪いですねぇ。でも、わかりました。お教えいたします。デートの最後にこっそりと教えてあげます。」


こうして、俺とリンはデート?をすることになった。

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