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7 婚約者

意外な事に、私の縄を解いてくれた人は子供だった。金髪に緑色の目。少し痩せ気味で、腰に剣を差している。どことなく近づきがたい印象を受ける顔つきだけれど、本人の優しそうなオーラで相殺されている。誰だか分からんが多分それは相手も同じだろう。


「足が痺れてしまったでしょう、僕に貴女を抱き上げることを許してくれますか?」


ほら見ろ。どんな狂人だったら会って1分もせずにこんな事言い始めるんだ。この世界は間違いなく乙女ゲーか何かだ。世界の修正力が働いているに違いない。おそらくこの子供は隣国の王子系隠しキャラだろう。婚約破棄される夜会までは助けに来ないタイプの服を着ている。そう偏見が耳打ちしてくれた。そもそもこの子どうやってここまで来たんだ?偶然か。たまたま通ったが立派な理由になるのが転生力である。

しかしこいつは狂人だから、あまり関わりたくない気もする。もちろんこのまま放って置かれたら死ぬけど、普通自分が言うお姫様の話し相手の首を吹き飛ばすか?情緒の面で不安を感じる。ここはひとつ、絶対に弱みを見せたくない悪役令嬢ごっこでもするか。


「助けてくれたのはありがとうございます。でも自分で歩けるので、抱き上げるのは結構です」


そう言って立ち上がろうとして、謎の浮遊感に包まれた足が痛んで座り込む。ふう……。ウォーミングアップはばっちりってとこかな。


「強がらないでください、お姫様。少しじっとしていて下さいね」


まだウォーミングアップしか終わってないのに、彼は私を持ち上げた。あれ?この子まだ中学生になったかどうかくらいだよね?近くで見ると大きい気がする。

私が10歳だからか。


「ふふっ、ずいぶん軽いな、僕のお姫様は」


すごい。こいつわたしの心をときめかせる術を知っている。一生で一度は言われてみたかった王子様系セリフを連続で繰り出してきやがる。それにしても顔が近すぎなので、ちょっと注意してみる。


「何か問題でも?」

「私、婚約者がいるので」


おお……!これが恋愛系異世界……!ふっふっふっ、今の私は最高に輝いている。この後第3王子とやらとこの金髪の恋の鞘当てが始まるに違いない。ひょっとすると私何もしないまま逆ハーとか作れちゃうんじゃないか?転生補正があるからそうなると決まっているのならそうなるのだろう。たとえ私が何もしなくとも。便利な世界である。

さて金髪君、ここが重要だ。まだ見ぬ婚約者に対して君はどんな反応をするか。頑張れ頑張れ、婚約破棄されたら君に乗り換えてやらんでもない。


「おっと、顔も忘れられちゃってたか。僕の名前はアルバート・ハルトニア。この国の第三王子で、君の婚約者だよ。改めてよろしくね」


はい自滅。顔も忘れる、手紙も読まない、これで婚約者を名乗っていいのだろうか。婚約破棄が先か不敬罪が先かってとこじゃないのか。手紙の時点でさっさと諦めて欲しいと思っていたらまさか本人が助けに来るとは。確か十二歳だったよね?道理で子供なはずだ。そうなると周りの騎士達は王国騎士団?そんな組織があるのかは知らないけど。


「えっと……お久しぶりで……す……?」

「うん、三年ぶりだ。私の九歳の誕生日以来だよ。綺麗に育ったね、クリスティナ」


えーと、なんだっけ。さっき自分で名乗っていたはずだけどこいつの名前が思い出せない。婚約者に全部持ってかれた。なんて名前だっけ。


「殿下もお元気そうで何よりです」


まあなんでもいいや。そしてアンさんありがとう。昨日初めて殿下と陛下の使い方知ったんだよね。危ない危ない。全員高貴なお方で押し通すところだった。

あれだなぁ。

異世界なら適当やってもどうにかなると思った結果、どうせ捨てる婚約者なんて気にしてなかったからなぁ。すごく会話しづらい。


いつのまにか戦いは終わっていたらしく、髭もじゃの騎士がこちらに近づいてくる。


「殿下、外に出ていた山賊は掃討しました。初陣おめでとうございます。そちらが婚約者様ですか?」


初陣で人殺しかよ。とんでもないサイコ野郎でした。

あれ?どうして彼らは私の居場所が分かったんだ?騎士まで私を認識してるところを見るに、初めから私を助けに来た感じだけど、助けを呼んだりとかまだ私なんもしてないよ?


「ああ、そうだ。足を痛めたようなので、このまま僕が学園まで運ぶ。宰相への連絡は任せた」


そう言うと彼は、私を抱えたまま歩き出す。12歳ってこんな力あったっけ?それとも王子は戦闘民族なのだろうか。ここから残念実は戦闘パートがすごい感じの乙女ゲーでしたとか?

ないわー。私十年引きこもってきたし。筋力とかないし。今日みたいな事が日常的に起こるのがハッピーエンドまでのルートなら私はきっと耐えられない。戦闘なんてこれが最後でいい。

一番安全なのはあれかな?食文化でチートする方向に持っていく事かな?よっちゃんイカってどうやって作るんだろ。分からん。多分イカを酢に漬けるだけじゃないよね。



そんなくだらないことを考えているうちに、どうやら私は眠ってしまったようで。次に目が覚めた時、私は馬車に揺られていた。


「目が覚めたかい?だいぶ疲れていたみたいだね。もうすぐ学園に着くと思うよ」


当たり前のように隣に座っている王子が、話しかけてくる。


「学園……?」


そういえばそうだっけ。朝から色々ありすぎて目的地を完全に忘れていた。


「学園には、僕が無理を言って君を入れてもらったんだ。本来ならこの時期に編入なんて有り得ないけれど、まさか宰相の娘が通わないなんて思わなかった。

彼はどうも愛する娘を隠したいみたいだね、クリスティナ」

「どうして私を学園に入れる事になったのですか?」

「後六年も君がいない学園生活を送るなんて、想像もしたくないよ。クリスティナも通う事になるというから、僕はこの2年間頑張って来れたんだ」


訳が分からない。この王子私を誰かと勘違いしてるんじゃないだろうか。私はこんなキラキラ系と話したこと事ない。アンさんに返事を任せたのが間違いだったのか?あの人は基本的に私がしたくない事はしなくてもいいって姿勢だったから、時々代筆してくれていたのだ。


「なんで?って聞きたそうな顔してるね。僕がクリスティナと婚約者になったのは、二つの理由があるんだよ。そのうちの一つが、僕がお茶会で見た君に一目惚れしたからなんだ。ふりふりのリボンがいっぱいついたドレスがとても似合っていたよね。話しかけると露骨に逃げようとするところも可愛かった。その時から、僕は君と結婚しようと頑張ってきたんだよ。」


だーめだ全く覚えてない。そろそろ私の頭に何か呪いでもかけらたんじゃないかって思えてきた。


「ほら、窓の外に建物が見えてきただろう?あれが僕らの暮らす学園だ」


そう言われて窓の外を見ると、そこには大きな校舎が……見えない。ちらほら民家や畑はあるけど、そこまで大きな建物はない。


「あれだよ。ほら、そこの納屋の右側に木が立っているのが分かる?」

「えっ?木……?あっと……あれ?かな?あれですか?」

「ううん、その奥のやつ。それと納屋の間に尖塔が見えるだろう?あれが時計台なんだけど」

「奥?奥……に木は見えないですね」

「あれ?身体強化はもう使ってないはずなんだけど……。位置が悪いのかな?膝の上くる?」

「え、遠慮します……」


たぶん悪いのは位置ではなく眼である。暗いとこで本読みまくったからなぁ。仕方ない。






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