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6 誘拐

右足の痛みで目が覚めた時、私は荷車に乗せられていた。手足を縛られて、覆面が荷車を引いている。辺りを見回してもエマの姿は見えない。どんどん森の奥へ入っていくようだ。覆面の一人と目が合いそうになって、慌てて閉じる。意識を失う前に走ったせいで、せっかく治りかけていた右足首がまた痛み始めた。


どうしてこんな目にあってるんだろう。馬車より乗り心地悪い。あとサンドイッチ食べ損ねた。せっかくアンさん経由でハムたまごサンドリクエストしたのに。ハムとたまごを挟んでくださいって言って目玉焼きが出るかゆで卵潰したものが出るか楽しみだったのに。

あー。それと神話の本。全然読めなかった。なんだっけ?はじめに混沌があって、そこから空と地面が出来てなんとかしたはず。確かキューカンバーみたいな名前の神様が作った。はず。そのあと飛ばし飛ばしに4元素の所も少しだけ読んだ。火と水と塩と水銀だっけ?なんかと混じってる気もする。


あー。


考えない、考えない。正直言って怖い。この辺りの山賊なのかなんなのか知らないけど、人殺し集団に捕まってしまった。これから1ヶ月はその手の本が読めないかもしれない。剣が人に当たった時の鈍い音とか、御者の最期の顔とか、全部頭に焼き付いてる。思い出しただけで手足の先がさっと冷たくなって、心臓がどくどく言い始める。なんで馬車の方見ちゃったんだろ。剣が背中に突き刺さってもまだ手足は動いていて、こっちに伸ばしてきたっけ。助けて欲しかったのかな。


はいストップ。考えない、考えない。危ない。止まらなくなるところだった。もっと楽しいこと考えよう。ブンブンごまはどこにしまったっけ。確かクッションの下に入れたんだっけ?そういえば、覆面たちは森から出てくる時姿勢を低くしてた。凄い勢いで囲まれて、何が何だか分からないうちに気絶してしまったのだ。覆面をしているのは正体が分かってはいけないと言う事?誰かの私兵?かもしれない。ついに父親が愛想をつかして、悪魔憑きの疑いがある娘の排除を強行したのだろうか。あり得る。というか私は今世で誰かに優しくするとか誰かと友好的な関係を築くとかした覚えが無い。何かあった時助けてくれそうな人が思い浮かばない。そういう人学園で作れたらいいなって思ってたんだけどな。


久しぶりに外に出てこれかー。まじかー。ここから私は覆面どもを相手に切った張ったをしなければならないのだろうか。無理だ。私は戦闘が読みたくてネット小説読んでたわけじゃなくて、無料で少女漫画が読めるアプリにあった悪役令嬢系のコミカライズから原作を探しにきた人なのだ。続きが気になって、すぐ読みたかったのだ。ステータスって叫ばなかったのがいけなかった?ちょっとありそう。



だけど何より怖いのは この世界が私が勝手に妄想してる転生者に優しい世界でも何でもなくて 一つの強制力も修正力も無くて 主人公補正も無くて 溺愛してくれるヒーローもいなくて ハッピーエンドなんて 存在しない世界だったら



いやいやそれは無い。だって私がここにいるから。前世の記憶を持った人がここにいるから。この世界にある大抵のものは地球で想像されているか地球に存在するものだ。ひょっとしたらまだ自分では立ち位置が分かっていないだけで私が知ってる世界かもしれない。

うん。多分あれだ。誰かが助けに来て、その人の顔を見て思い出すのだ。そうに決まってる。


「だって私は転生者ってことは神様に愛されてるってことだしだから私は大丈夫、これはハッピーエンドへの段階の一つに過ぎないからきっと無事でいられるはず私の運がいいのは前世からだからなんとかなるこの世界はどうせ乙女ゲーかなんかなんだから」

「うるせえ」


思わず声に出してしまっていたらしい。私の顔の横に何かがザクッと刺さる音がして、慌てて口をつぐんで、少し迷って目をゆっくり開けてみる。私のことを覆面の一人が覗き込んでいた。というか今更だけど、口を押さえてないって事は大声出しても気づかれないほど人里から離れてるって事だよね…。少しだけ絶望。


「お前どこの貴族のお嬢ちゃんだ?見たところ全く日に焼けてない。入学シーズンを過ぎて学園の方向に大荷物持って向かう。大方病み上がりってとこだろうが黒髪黒目の貴族のお嬢ちゃんの噂なぞ聞いたことがない」


覆面は低い声で私に向かって言う。私は目を伏せて荷車の壁を見る。反対の壁は見ない。なんか刺さってるから。怖い。話しかけられただけで手が震え出す。これ答えないといけないやつかな?昨日ずっと学園での生活方法を教えてくれたアンさんも、誘拐犯との対話術は教えてくれなかった。


「ああ?無視とはいい度胸だな。怯えて喋る事も出来ないか?さっきまでうるさかったろうが」


どうしたものかなぁ。エマは姿が無いし、周りは覆面だし。縛られてさえいなければ走って逃げたいくらいには身の危険を感じている。まさか売り飛ばされて奴隷からの成り上がりが主題の異世界ものだったりするのだろうか。嫌だなぁ。メンタルを維持できる気がしない。私の中ではもう既に、バトル展開には持っていかないようにするという固い決意が出来ているのだ。森の中で魔物とかの気配が無い以上、この世界の戦闘はまず間違いなく対人。つまり今日みたいな襲撃に応戦して戦う必要があるということ。できるわけが無いじゃないですか!この先万が一私の秘められたる転生チートパワーが覚醒したとして、私が目指す路線はスローライフである。一度も帰った記憶ないけど領地にでも引きこもるか。どこか適当な丘か森に小屋を建てるのもよく見た気がする。あれ一回やってみたいな。とにかく戦闘だけはダメ絶対。まさかここから物理で活躍する事は無いだろうし、魔法だけチート貰ってもろくなことにならない確信がある。転んだところを狙われて終わりだ。


「つまり今私が目指すべきは恋愛路線……?」

「このままいくとお前は売り飛ばされて奴隷路線だな。メイドの方も大して変わらん。隣国に定期的に人を運んでる船があるから、ある程度人数が集まったところで檻付きの船に押し込めて川を下って、港で大型船に積み込んで出荷だ。着いた先で奴隷商に卸して、そこからは多分オークションにかけられるだろうな。お前は可愛いから間違いない。その年でも十分な需要がある。その後は聞いた事もないし聞きたくもない。一生日の当たるところに出られないのは間違いないが、まあ人によっては2、3年で使い潰すらしいし。」

うわぁ。

そんな話を10歳にしないでよ。

しかし、これはもう本当にいいご主人を狙う必要があるかもしれない。

その手のジャンルにはまだ手を出した事は無かったけど、異世界もののテンプレの一つではある。私の転生力をもってすれば、かつて魔王を倒した勇者とか国専属の魔法使いとかを引き当てることなど造作もないだろう。未だ転生してから公爵令嬢に生まれた事ぐらいにしか発揮していないこの力を、ついに使う時が来たか……!


「なあ、なんでお前はさっきから不安で怯えた顔と自信たっぷりな顔を繰り返すんだ?何かここから逃げ出す手段でもあると思ってるのか?」

「ふっふっふっ、我が転生力は別次元の真理よ。貴様のごとき異世界モブには何のことだか分かるまい」

「ああ⁉︎ついに頭がおかしくなっちまった‼︎」


しかし、彼はきっと転生力について理解したことだろう。次の瞬間、彼の頭は氷の矢によって吹き飛ばされたのだから。

私は改めて確信した。この世界は私のためにあると言っても過言ではない。私が主人公だ。矢を合図に、次々と覆面どもを斬り伏せていく騎士達。戦闘を見たくなかったので目を閉じた私の側に誰かがやってきて、縄を解いてくれた。


「もう大丈夫、僕の可愛いお姫様」


やっぱり。この世界はどこまでも私に甘い恋愛もの系異世界だ。



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